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山の木版画家と木版画制作過程 (論集)

山の木版画家と木版画制作過程 (論集)

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山の木版画家と木版画制作過程 (論集)

  1. 1. 山の木版画家と木版画制作過程 杉 山 修 ( 木 版 画 家 ) はじめに 明 治 以 降 、 山 を モ チ ー フ に し て き た 画 家 は 数 多 く て 語 り 尽 く せ な い 。 大 半 は 洋 画 家 、 日 本 画 家 で あ る 。 版 画 家 は 数 少 な い 。 今 回 は 木 版 画 家 だ け に 的 を 絞 る 。 代 表 的 な の は 吉 田 博 と 畦 地 梅 太 郎 で あ る 。 こ の 二 人 を 紹 介 す る 。 そ し て 木 版 画 制 作 の 最 も 頂 点 を 極 め た 江 戸 時 代 末 期 、 山 と 風 景 を 描 い た 葛 飾 北 斎 と 安 藤 広 重 と そ の 時 代 の 出 版 界 が ど の よ う な 組 織 で 成 り 立 っ て い た か を 話 す 。 当 時 使 用 し て い た 道 具 、 素 材 が ど の よ う な 物 で あ っ た か 、 そ し て 現 代 の 版 画 作 家 達 が 抱 え て い る 将 来 の 問 題 点 を 検 証 す る 。 続 い て 木 版 画 制 作 の 実 際 を 説 明 す る 。 多 色 摺 り 木 版 画 は 江 戸 時 代 に 「見 当 」が 発 明 さ れ 急 速 に 発 展 す る 。 そ の 手 順 を 画 像 を 交 え て 解 説 す る 。 最 後 に 山 の 多 色 摺 り 木 版 画 と し て 私 の 作 品 を 数 点 掲 載 す る 。 ○吉 田 博 1) 1876 年 生 れ ( 明 治 9 年 ) 福 岡 県 出 身 、 10 代 で 上 京 し 画 塾 不 同 舎 で 学 び 早 く か ら 頭 角 を 現 し た 。 20 代 で 米 国 に 船 で 渡 り 自 作 を 売 り な が ら 長 期 の 旅 を し て 海 外 で の 作 品 も 多 い 。 帰 国 後 、 水 彩 画 、 油 彩 画 で 明 治 、 大 正 の 画 壇 を リ ー ド し た 。 1901 年 ( 明 治 34 年 ) 太 平 洋 画 会 を 創 立 し 、 そ こ を 中 心 に 作 品 を 発 表 し 続 け た 。 官 展 「文 展 」 の 審 査 員 に な る 。 北 ア ル プ ス に 案 内 人 と 2 ヶ 月 こ も っ て 描 い た り 、 欧 米 や イ ン ド に 何 度 も 取 材 に で か け た り 、 た い へ ん 多 作 で あ っ た 。 明 治 、 大 正 、 昭 和 と 洋 画 家 と し て 山 岳 風 景 画 を 描 き 続 け た 。 木 版 画 を 1920 年 ( 大 正 9 年 ) 44 才 か ら 描 き 始 め る 。 版 画 ス タ ジ オ を 興 し 、 自 ら 描 き 版 木 を 彫 っ た が 大 半 は 彫 り 師 、 摺 師 を 指 導 し て 制 作 し た 。 山 岳 風 景 木 版 画 を 中 心 に 年 間 30~ 40 作 品 を 発 表 し 続 け た 。 1936 年 ( 昭 和 11 年 ) 60 歳 の 時 、 日 本 山 岳 画 協 会 を 創 立 し た 。 1950 年 ( 昭 和 25 年 ) 73 才 で 没 し た 。 孫 の 版 画 家 吉 田 司 は 私 の 師 で あ る 。 ○畦 地 梅 太 郎 2) 1902 年 生 ( 明 治 3 5 年 生 ) 2 5 才 で 内 閣 印 刷 局 を 辞 し 版 画 を 生 業 に し た 。 風 景 画 を モ チ ー フ に 日 本 創 作 版 画 協 会 、 国 画 会 、 春 陽 会 、日 本 版 画 協 会 、 白 日 会 、 日 展 等 、 画 壇 に 発 表 し 続 づ け た 。 初 期 の こ ろ は 風 景 画 を 描 い て い た が 30 代 半 ば か ら 「 山 」 を 制 作 の テ ー マ と す る よ う に な る 。 さ ら に 雑 誌 や 文 芸 誌 の 装
  2. 2. 幀 や 挿 絵 の 掲 載 、 そ し て 画 文 集 29 冊 を 上 梓 し 文 筆 も こ な し 蔵 書 票 も て が け る な ど 多 才 で あ っ た 。 絵 と 彫 り は 自 ら し た が 後 年 、 摺 り は 摺 師 に ま か せ る こ と が 多 く な っ た 。 50 歳 に な っ て 山 男 シ リ ー ズ の 制 作 が 始 ま り こ の 作 品 群 は 彼 の 代 表 作 と な る 。 2017 年 現 在 、 山 岳 雑 誌 「岳 人 」の 表 紙 絵 を 飾 っ て い る 。 長 寿 で あ っ た 。 日 本 山 岳 画 協 会 会 員 。 1999 年 ( 平 成 11 年 ) 9 6 才 で 没 し た こ の 二 人 の 作 風 は 全 く 異 な っ て い る 。 吉 田 博 は 大 変 緻 密 な 具 象 絵 画 で あ り 、 畦 地 梅 太 郎 は デ フ ォ ル メ さ れ た 構 図 。 使 用 し た 絵 具 は 吉 田 は 顔 料 ( 水 干 絵 具 、 透 明 水 彩 )、 畦 地 は ポ ス タ ー カ ラ ー ( 不 透 明 水 彩 ) で あ っ た 。 木 版 画 の道 具 、素 材 の現 状 と今 後 木 版 画 は 日 本 独 自 の 版 画 技 法 で あ り そ の 技 術 的 頂 点 は 江 戸 末 期 、 幕 末 の 時 代 で あ る 。 絵 師 、 彫 師 、 摺 師 が 分 業 で 、 版 元 が そ れ を 管 理 し て い た 。 版 元 は プ ロ デ ュ ― サ ー 、 絵 師 は ア ー チ ス ト 、 彫 師 、 摺 師 は 職 人 の 仕 事 で あ っ た 。 江 戸 時 代 、 出 版 物 は す べ て こ の シ ス テ ム の 上 に 成 り 立 っ て い た 。 江 戸 市 中 に は こ れ ら の 仕 事 に 携 わ っ て い た 市 井 の 町 人 が 数 多 い た 。 現 代 の 版 画 家 は こ の 全 て を 一 人 で こ な さ な け れ ば な ら な い 。 そ れ 故 技 術 の 習 得 に 時 間 が か か り 若 い 作 家 が 育 ち に く い の が 現 状 だ 。 私 の 木 版 画 は い ま で も そ の 素 材 は 江 戸 時 代 と お な じ モ ノ を 使 っ て い る 。 す な わ ち 版 木 、 和 紙 、 顔 料 、 刷 毛 、馬 連 、 和 糊 、彫 刻 刀 。 し か し 近 年 こ れ ら の 素 材 の 生 産 者 が 疲 弊 し て き て い る 。 ○和 紙 の 材 料 コ ウ ゾ の 木 を 育 て て い る 農 家 ( 国 内 で は 福 島 県 石 川 が 最 大 の 生 産 者 だ が 後 継 者 が 少 な く 畑 が 荒 れ て き て い る 。 韓 国 か ら か な り の 量 が 輸 入 さ れ て い る )。 ○和 紙 の 漉 き 元 と そ の 後 継 者 ( 国 内 の 和 紙 の 産 地 は 何 カ 所 か あ る 。 阿 波 、石 州 、 小
  3. 3. 川 町 、 美 濃 、 土 佐 、 な か で も 版 画 に 最 も 適 し た 和 紙 の 最 大 の 生 産 地 は 越 前 和 紙 3 ) だ 。 し か し そ の 福 井 県 越 前 市 大 滝 村 に も 漉 き 元 は 5 軒 の み で あ る )。 ○刷 毛 の 良 質 の 馬 の 尻 尾 の 毛 と 其 れ を 作 る 職 人 ( ブ ラ シ の 毛 は 馬 の 尻 尾 の 2 番 毛 だ が 100% 中 国 か ら の 輸 入 に 頼 っ て い る 。 し か も 近 年 良 質 の 毛 が 入 ら な く な っ て い る 。 現 地 で も 生 産 者 が 激 減 し て い る 。 そ の 毛 を 使 っ て 手 植 え ブ ラ シ を 作 っ て い る 職 人 4 ) は 少 な く 、 し か も 後 継 者 問 題 を 抱 え て い る )。 ○馬 連 を つ く る 竹 の 皮 と 職 人 ( 現 在 、 本 職 用 馬 連 を 専 門 に 製 作 し て い る 職 人 は 1 人 。 馬 連 を 包 む 竹 皮 は 真 竹 、 馬 連 の 芯 を 作 る の は 九 州 の 博 多 の 皮 白 竹 で 、 し か も 取 れ る の は 春 先 の 2 週 間 だ け と か ぎ ら れ て い て い る 。 版 画 作 家 は ほ と ん ど 台 湾 か ら の 輸 入 さ れ た 竹 皮 を 使 用 し て い る )。 ○和 紙 の に じ み 止 め の ド ー サ ー 職 人 ( 和 紙 は そ の ま ま だ と 吸 水 性 が あ り 絵 具 が 滲 ん で し ま う 。 そ の た め に ド ー サ ー 液 5 ) と い う 滲 み 止 め を 均 一 に 塗 り 込 め ね ば な ら な い 。 そ の 作 業 を 専 門 に す る 職 人 。 現 在 は 埼 玉 県 に 1 人 し か い な い 。 今 後 は 版 画 作 家 自 身 が 手 が け な け れ ば な ら な い 時 代 が 来 る )。 ○版 木 は 山 桜 が ベ ス ト だ が 今 は 入 手 困 難 に な っ た 。 朴 、 カ エ デ 、 シ ナ ベ ニ ア を 使 っ て い る 。( 創 作 版 画 の 作 家 は ほ と ん ど が シ ナ ベ ニ ア 合 板 を 使 っ て い る )。 ○木 版 画 制 作 は 日 本 独 自 の 版 画 技 法 で あ る が そ れ を 支 え る 素 材 、 道 具 の 産 地 が ど ん ど ん 疲 弊 し て い る の が 現 状 で あ る 。 1 0 年 後 が 心 配 で あ る 。 多 色 摺 木 版 画 の制 作 手 順 「 沈 み ゆ く 富 士 」 と い う 作 品 で 説 明 す る 。 ま ず 下 絵 を 描 く 。 水 彩 紙 を 水 張 り し ア ク リ ル 絵 具 で 着 彩 す る 。こ の 原 画 を 元 に 全 部 で 何 色 摺 り に す る か 、版 木 を 何 枚 に す る か 、色 分 解 し 検 討 す る 。 江 戸 時 代 浮 世 絵 の 絵 師 は 雁 皮 紙 と い う 薄 い 紙 に 線 描 し 、 そ れ を 彫 り 師 は 版 木 に 張 り 第 1 版 は 線 だ け を 彫 っ た 。 そ れ を 摺 師 が 色 数 だ け 摺 り 、 絵 師 が 色 分 解 し て 再 び 彫 り 師 が 色 版 を 彫 っ た 。 し た が っ て 当 時 の 浮 世 絵 の 原 画 は そ の 時 点 で 消 滅 し て し ま う 。
  4. 4. 輪 郭 線 の み を ト レ ー シ ン グ ペ ー パ ー に ト レ ー シ ン グ ペ ー パ ー を 裏 返 し に し て 版 写 し 取 る と の 間 に カ ー ボ ン 紙 を 挟 み 第 1 版 の み の 線 を 転 写 す る 第 1 版 彫 り 終 わ る 第 1 版 を 試 し 摺 り 多 数 の 版 を ず れ な い で 摺 重 ね る た め に 版 木 に 2 カ 所 の 溝 を 彫 る 。 こ れ を ( 見 当 ) と い う
  5. 5. 第 2 版 目 の 紙 を 版 木 に 張 り 薄 く は が す と 彫 り 残 す 部 分 が 見 え る 第 2 版 目 が 掘 り 終 わ る 第 3 版 目 彫 り 終 わ り 第 4 版 目 彫 り 終 わ り 1~ 4 版 ま で を 重 ね て 試 し 刷 り こ う し て す べ て の 版 を 彫 り 進 め て 完 成 す る
  6. 6. 杉山修 山岳木 版画 朝 の 杓 子 岳 白 馬 大 池 盛 夏 浅 春 栂 池 水 温 む 尾 瀬
  7. 7. 五 竜 岳 閃 光 エ ベ レ ス ト 街 道 を 行 く マ ッ タ ー ホ ル ン 秋 日
  8. 8. 槍 ヶ 岳 朝 陽 槍 ヶ 岳 初 夏 槍 ヶ 岳 夕 景 安 曇 野 薫 風
  9. 9. ラ ン タ ン 村 か ら の ガ ン チ ェ ン ポ 峰 〔 註 お よ び 文 献 〕 1) 生 誕 140 年 吉 田 博 展 千 葉 市 美 術 館 図 録 2017 年 吉 田 博 作 品 集 東 京 美 術 2016 年 山 と 水 の 画 家 吉 田 博 弦 書 房 2009 年 吉 田 博 全 木 版 画 集 阿 部 出 版 1987 年 2) 別 冊 太 陽 山 の 版 画 家 畦 地 梅 太 郎 平 凡 社 2003 年 3) コ ウ ゾ 100% 未 晒 し 生 漉 奉 書 ( き ず き ぼ う し ょ ) 4) 東 京 元 浅 草 宮 川 刷 毛 製 作 所 の 職 人 は 1927 年 生 れ ( 2017 年 で 90 歳 ) で あ る 5)ド ー サ ー 液 。膠 と 焼 ミ ョ ウ バ ン を ぬ る ま 湯 で 溶 か し た 液 。気 温 、湿 度 に よ っ て 濃 度 を 変 え 紙 の 厚 み に よ っ て 量 も 調 整 す る 。 和 紙 の 繊 維 の 隙 間 に 膠 が 染 み 込 み 、 滲 み が 止 ま り 、 紙 の 強 度 が 増 す 。

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