Scrapboxを用いたオンラインノートの学習記録と学習成果の分析

Scrapboxを用いたオンラインノートの
学習記録と学習成果の分析
〇近藤 伸彦1、畠中 利治2、松田 岳士1
1. 首都大学東京大学教育センター
2. 大阪大学大学院情報科学研究科
本研究の概要
◆ 大学教育の質保証
⚫ アクティブラーニングの導入
⚫ 汎用的能力の育成
⚫ 学習成果の可視化の要請(IR: Institutional Research)
◆ 問題意識
⚫ より実効的な手を打つためには、
マクロなデータ(成績、学生調査等)を可視化するだけでなく、
これと学習プロセスとの関連をあわせた
総合的な分析が必要では?
◼ LA的手法とIRとの融合
◆ 本発表
⚫ 発表者の担当するアクティブラーニング型授業が対象
⚫ Scrapboxによるオンラインノートの学習記録と学習成果の分析
22019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
本授業の取り組み概要
◆ 本研究の対象科目
⚫ 「教養としてのデータサイエンス」(2018年度後期)
⚫ 首都大学東京教養科目、近藤が担当
◼ 全学部・全学年履修可能(結果的に理系・1年生中心)
⚫ 現代的教養としての数理・データサイエンスの
「センス」としてのデータリテラシーの涵養が目的
◼ データを見る力
◼ データ分析の基礎スキル
⚫ ICTを活用したアクティブラーニング型の
授業設計と実践
⚫ クラウドサービスのScrapboxを使用
32019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
具体的な学習内容
◆ データを扱うための基本中の基本
⚫ テーマ① グラフ等によるデータの可視化
⚫ テーマ② データの分布と数値要約(代表値・散布度等)
⚫ テーマ③ データの相関(相関係数、相関と因果、擬似相関
等)
◆ データ分析の基礎的手法と応用的手法の体験
⚫ テーマ④ 統計的検定
⚫ テーマ⑤ 機械学習(ニューラルネットワーク等)
⚫ テーマ⑥ 進化計算(遺伝的アルゴリズム等)
◆ 1テーマあたり2回ぶんほど
54 June 2019 2019年度 人工知能学会全国大会
「オンラインノート作成→演習課題」のサイクル
4 June 2019 7
偶数回
【授業内】後半:
・今回のテーマについての
全体像の解説
【授業後(授業外学習)】
・オンラインノート作り)
奇数回
【授業内】後半:
・演習課題に取り組む
(個人でもグループでも可)
【授業後(授業外学習)】
・未完の場合は演習の続き
【授業内】前半:
・前回の演習の解説
・他の学生の解答をシェア
【授業内】前半:
・質問、疑問点等を解説
・他の学生のオンラインノート
をもとにブラッシュアップ
2019年度 人工知能学会全国大
各テーマについて以下のプロセス(オンラインノート作成と演習課題)
「オンラインノート作成→演習課題」のサイクル
4 June 2019 8
偶数回
【授業内】後半:
・今回のテーマについての
全体像の解説
【授業後(授業外学習)】
・オンラインノート作り)
各テーマについて以下のプロセス(オンラインノート作成と演習課題)
奇数回
【授業内】後半:
・演習課題に取り組む
(個人でもグループでも可)
【授業後(授業外学習)】
・未完の場合は演習の続き
【授業内】前半:
・前回の演習の解説
・他の学生の解答をシェア
【授業内】前半:
・質問、疑問点等を解説
・他の学生のオンラインノート
をもとにブラッシュアップ
2019年度 人工知能学会全国大
オンラインノートの作成による学習
◆ オンラインノートの作成による学習
⚫ 6つのテーマそれぞれについて最初に講義をするのではなく、
ScrapboxというWebシステムを使って、
「自分だけのオンラインノート」をまず各自作ってくる
◼ 必要な知識を自分で調べて、自分なりに整理する
◼ 聞くだけ・写すだけではなく、自分で整理し文章を書く
(外化する)、という行為が知識の定着を促す
⚫ このオンラインノートを使って演習課題を解く
◆ オンラインである大きなメリット
⚫ ネットにつながっていればいつでもどこでもいくらでも
記録、編集、閲覧ができる
⚫ 他者とオンライン上でノートを共有(相互参照)できる
⚫ さらに、Scrapboxは知識の整理に非常に適している
94 June 2019 2019年度 人工知能学会全国大会
Scrapboxとは
◆ 情報整理・思考整理のためのクラウドツール
⚫ https://scrapbox.io/product
⚫ カード型のスムーズWiki (倉下2018)
⚫ NOTA社による開発
◆ 特徴
⚫ テキストベースの簡易な入力記法
⚫ リンクとハッシュタグにより
階層でなくフラットに情報を蓄積・構造化
◼ 容易かつスケーラブルに知識をネットワーク化できる
⚫ 多人数同時編集が可能
102019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
Scrapboxとは
112019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
ページ単位で
情報入力
ページの集まりで
1つの「プロジェクト」
リンクとハッシュタグでページ間をつなぐ
122019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
#でハッシュタグ
各ページに情報入力
・箇条書き
・URLへのリンク
・画像、動画 など
[]で囲むと
他のページへリンク
ページ内に登場する
リンク先ページ
さらに、リンク先から
つながっている
ページも表示
(2-hop link)
オンラインノート作成(調べ学習)の導線
◆ テーマごとに
「ヒントとしての
概念マップ」を
配布
◆ これをヒントに
調べ学習
◆ 重要なものは
色付けをして
導線に
◆ 周辺は余裕・興味
のある人向け(色
も半透明に…)
132019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
きっかけ(目次)だけ与えて、あとは自由に芋づる式に
自分で学んでいってほしい、というねらい
(この科目がポータルのようになればいい)
Scrapboxログからの
学習プロセスの分析・可視化
本研究で用いるデータ
◆ 2018年度後期授業履修者のうち
研究での使用に同意が得られた46名のデータ
⚫ Scrapboxへの入力ログ(JSON)
⚫ 授業後アンケート回答
152019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
Scrapboxのログ
◆ Scrapboxへの入力内容をJSON形式でエクスポート可能
◆ 適当にパースして
各ページの文字数や
ページ間のリンク構造
を定量化
162019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
オンラインノート作成状態の定量化
◆ Scrapboxで作成したページ数や各ページの文字数
172019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
オンラインノート作成状態の定量化
◆ 作成した各ページと6つのテーマとの関連
◆ これらはすべて全学生で(匿名で)共有している
182019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
オンラインノートのリンク構造の可視化
◆ ページ館のリンク構造を可視化するツール[daiiz 19]
⚫ https://daiiz-apps.appspot.com/scrap-graph
⚫ https://scrapbox.io/scrapbox-drinkup/ページの繋がりの視覚化_(daiiz)
◆ JSONを読み込ませるだけ
192019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
学生A:リンクを意識的に貼っている例
202019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
学生B:リンクを意識的に貼っている例
212019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
学生C:リンクを全く貼らない例
222019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
学生D:リンクをほとんど貼らない例
232019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
オンラインノート作成状態と自己評価
学生
文字
数
合計
リンク
+被リ
ンク合
計
同一
テーマ
へのリ
ンク数
別テー
マへの
リンク
数
テーマ
1自己
評価
テーマ
2自己
評価
テーマ
3自己
評価
テーマ
4自己
評価
テーマ
5自己
評価
テーマ
6自己
評価
A 17,260 316 146 18 5 5 5 5 5 5
B 35,657 255 105 36 5 4 4 2 5 4
C 18,698 0 0 0 4 4 4 4 4 4
D 10,701 26 7 4 4 2 2 3 3 3
Mean 11,268.3 60.7 27.5 9.6 4.1 4.0 3.9 3.3 3.3 3.3
SD 10,161.4 72.6 33.2 38.6 0.6 0.8 0.8 1.0 0.9 0.9
242019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
オンラインノート
作成状態の指標値
テーマごとの自己評価
(1~5の5段階)
※データ使用の同意が得られた46名のデータより
リンクを意識する効果
◆ 「ただただ、たくさん書く」よりも、
つながりを意識しページ間リンクを多く貼るほうが
理解の自己評価が高い傾向にあった
252019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
相関係数0.132相関係数0.430
ただし、文字数は成績評価と連動させていたので
文字数にはインセンティブがあった(リンク数にはない)
まとめと今後
◆ 本研究
⚫ Scrapboxでのオンラインノート作成のようすを定量化・可視化
⚫ リンク構造を意識するほど自己理解「感」は高い傾向
◆ 今後の展開
⚫ 今回のものは「プロセス」というより「結果」に近い
◼ 結果的なリンク構造や文字数のみをみている
◼ 記述行ごとのログも取得できたりSlack通知も可能なので
より細かくデータ取得・活用することも可能
⚫ 自己評価以外の「学習成果」との関係の分析
◼ IRとの関係の整理
⚫ プロセスの可視化の結果を学生にフィードバック
⚫ 「モデル主導」なアプローチとの連携
262019年度 人工知能学会全国大会4 June 2019
ご清聴ありがとうございました
274 June 2019
近藤 伸彦
e-mail: kondo@tmu.ac.jp
twitter: @nobuhiko_kondo
Facebook: nobuhiko.kondo
2019年度 人工知能学会全国大会
本研究はJSPS科研費 JP19K03005の助成を受けたものです。
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