8. 憲法コメンタール
I. 憲法概論
1. 憲法
(1) 意義
① 国家存立の基本的条件を定めた根本法
② 国の統治権、根本的な機関、作用の大原則を定めた基礎法で、通常他
の法律・命令をもって変更することを許さない国の最高法規
(2) 硬性憲法と軟性憲法
① 硬性憲法…改正に当たって通常の法律を制定する場合よりも厳重な
手続を必要とする憲法
② 軟性憲法…改正に当たって通常の法律と同じ手続で改正することが
できる憲法
(3) 形式的意味の憲法と実質的意味の憲法
① 形式的意味の憲法…憲法という名前で呼ばれる成文の法典(憲法典)
を指す場合
【例】日本国憲法
② 実質的意味の憲法…ある特定の意味を持った法を憲法と呼ぶ場合(成
文・不文を問わない)
a. 固有の意味の憲法
国家の当地の基本を定めた法としての憲法
機関・権力の組織と作用および相互の関係を規律する規範
いかなる時代のいかなる国家にも存在する
b. 立憲的意味の憲法(近代的意味の憲法)
自由主義に基づいて定められた国家の基礎法
18世紀末の近代市民革命期に主張された、専断的権力を制限して
広く国民の権利を保障するという立憲主義の思想に基づく憲法
政治権力の組織化よりも権力を制限して人権を保障する狙いが
強い
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9. 憲法コメンタール
2. 日本国憲法の全体像
(1) 概要
① 第2次大戦の敗戦後、大日本帝国憲法を全面的に改正した憲法
② 1946年11月3日公布、翌1947年5月3日から施行
(2) 主な特徴
① 象徴としての天皇(象徴天皇制)
② 国権の最高機関としての国会
③ 行政権の主体たる内閣の国会に対する連帯責任
④ 戦争の放棄(平和主義)
⑤ 基本的人権の確立強化を目的とした国民の権利・義務に関する詳細な
規定
⑥ 独立した新しい司法制度
⑦ 地方自治の確立
(3) 基本構造
① 人権保障
a. 国民の権利および義務(第3章)
② 統治機構
a. 天皇(第1章)
b. 国会(第4章)
c. 内閣(第5章)
d. 司法(第6章)
e. 財政(第7章)
f. 地方自治(第8章)
3. 日本国憲法前文
(1) 前文
① 法令の各本条の前に置かれ、その法令の制定の趣旨、目的、基本原則
を述べた文章
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10. 憲法コメンタール
② 憲法に置かれているほか、いわゆる基本法に置かれる例が多い(【例】
教育基本法、高齢社会対策基本法)
(2) 日本国憲法前文の構造
① 国民主権の原理・民定憲法性・人権と平和…日本国民は、正当に選挙
された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫の
ために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由の
もたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起るこ
とのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを
宣言し、この憲法を確定する(前文1項1段)
② 国民主権・代表民主制…国政は、国民の厳粛な信託によるものであっ
て、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使
し、その福利は国民がこれを享受する(前文1項2段)
③ 人類普遍の原理…これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる
原理に基づくものである(前文1項3段)
④ 憲法改正の限界…われらは、人類普遍の原理に反する一切の憲法、法
令および詔勅 1を排除する(前文1項4段)
⑤ 平和的生存権
a. 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高
な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信
義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した(前文
2項1段)
b. われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠
に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占め
たいと思う(前文2項2段)
c. われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和
のうちに生存する権利(平和的生存権)を有することを確認する(前
文2項3段)
1 天皇が意思を表示する文書であり、詔書と勅書と勅語の総称である。
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11. 憲法コメンタール
⑥ 国際協調主義・国家主権の相対性…われらは、いずれの国家も、自国
のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道
徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主
権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ず
る(前文3項)
⑦ 理想と目的の達成…日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこ
の崇高な理想と目的を達成することを誓う(前文4項)
(3) 前文が宣言する3つの種類の権利
① 恐怖から免れる権利
② 欠乏から免れる権利(社会権)
③ 平和のうちに生存する権利
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12. 憲法コメンタール
II. 日本国憲法の基本原理
1. 国民主権
(1) 国内法上の主権の意味
主権という言葉は、国内法上は、次の意味で用いられる。
① 最高決定権…国政の在り方を最終的に決定する力
【例】国民主権、君主主権等
② 最高独立性…国家権力が、他のどんな力にも制約されず、最高、独立
であること
【例】主権国、非主権国等
③ 統治権・国権・国家権力…国民および国土を支配する権利
(2) 国民主権の意義
① 主権が国民に存在すること(主権在民)
② 明治憲法では主権が天皇にあったが(主権在君)、日本国憲法では国
民にある
③ 民主主義の原理である
(3) 憲法上の保障
① 日本国民は、主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する
(前文1項1段)
② 国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由
来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこ
れを享受する(前文1項2段)
③ 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位
は、主権の存する日本国民の総意に基づく(1条)
④ 公務員を選定し、およびこれを罷免することは、国民固有の権利であ
る(15条1項)
⑤ すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない(15
条2項)
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13. 憲法コメンタール
⑥ 国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である(41条)
⑦ 最高裁判所の裁判官の任命 1は、その任命後初めて行われる衆議院議員
総選挙の際国民の審査に付し、その後10年を経過した後初めて行われ
る衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする(79条
2項)
⑧ 79条3項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とすると
きは、その裁判官は、罷免される(79条2項)
⑨ この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、
これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない(96条
1項前段)
⑩ 96条1項前段の承認には、特別の国民投票または国会の定める選挙の
際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする(96条1項
後段)
2. 基本的人権の尊重
(1) 意義
① 人間が生まれながらに有している権利(基本的人権)を尊重すること
② 人は生まれながらにして自由かつ平等であるという主張において表
現されている
③ アメリカ独立宣言やフランス人権宣言により国家の基本原理として
確立した考え方である
(2) 個人の国家に対する権利・自由の主張
① すべて国民は、個人として尊重される(13条前段)
② 生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、公共の福
祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とす
る(13条後段)
③ 思想および良心の自由は、これを侵してはならない(19条)
④ 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する(20条1項前段)
1主として公務員に関して用いられる用語で、ある人を一定の地位または職に就けるこ
と。
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14. 憲法コメンタール
⑤ 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制
されない(20条2項)
⑥ 集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障
する(21条1項)
(3) 権力分立
① 総説
a. 権力の濫用を防ぎ、人民の自由を確保するため、国家権力を区分し
て、それらを異なった機関に分担させ、それらの機関相互間で抑制
と均衡の作用を営ませようとする思想または制度
b. ロック 1 やモンテスキュー 2 によって唱えられ、近代憲法では、権力
集中制を採る国を除き、広く採用されている
c. 普通は立法、司法、行政に分けられるから、三権分立 3という
② 三権分立に関する憲法上の規定
a. 国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である(41
条)
b. 行政権は、内閣に属する(65条)
c. すべて司法権は、最高裁判所および法律の定めるところにより設置
する下級裁判所に属する(76条1項)
3. 平和主義
(1) 意義
① 平和を理想として一切を律する思想上・行動上の立場
② 憲法前文で平和主義を謳っている
1 イギリスの哲学者・政治思想家。イギリス経験論の代表者。家父長主義と専制政治に
反対し、政府は各個人の自然権を守るために人々の合意により設立されたものであり、
その改廃は国民の手中にあると説いた。フランス革命やアメリカ独立に大きな影響を与
えた。『統治二論』などを著す。(1632~1704)
2 フランスの政治思想家・法学者。主著『法の精神』で歴史研究に実証的比較の方法を
導入、法律制度と自然的・社会的条件との関連を追求した。三権分立を説いて、アメリ
カ合衆国憲法およびフランス革命に影響を与えた。(1689~1755)
3 「分立」は、「ぶんりゅう」とも読む。
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15. 憲法コメンタール
(2) 具体的内容
① 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権
の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を
解決する手段としては、永久にこれを放棄する(9条1項)
② 9条1項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持
しない(9条2項前段)
③ 国の交戦権は、これを認めない(9条2項後段)
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20. 憲法コメンタール
I. 基本的人権の尊重
1. 基本的人権
(1) 意義
① 人間が人間として生まれながらに持っている権利
② 実定法上の権利のように恣意的に剥奪または制限されない
(2) 憲法上の保障
① 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない(11条前段)
② 憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利
として、現在および将来の国民に与へられる(11条後段)
(3) 自由権(自由権的基本権)
① 国家権力の不当な干渉・強制を排除して各人の自由を確保する権利
② 平等権とともに近代憲法で一般に保障されてきた基本的人権
③ 自由権は、一般には、精神的自由権、経済的自由権、人身の自由の3
つに大別される
④ 日本国憲法は、奴隷的拘束・苦役の禁止、黙秘権の保障などの人身の
自由、思想・良心の自由、集会・結社・表現の自由などの精神の自由、
職業選択の自由、私有財産権の保障などの経済的自由について規定す
る
(4) 社会権(社会権的基本権)
① 人間に値する生活を営むための諸条件の確保を国に求めることがで
きる権利
② 自由・平等を実質的に保障するために20世紀になって認められてきた
基本的人権
③ 生存権、教育を受ける権利、勤労権、勤労者の団結権・団体交渉権な
どがある
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21. 憲法コメンタール
(5) 受益権
① 学説上の概念で、国家の積極的な作為を要求する権利の総称
② 請願権(16条)、国または公共団体に対する賠償請求権(17条)、裁
判を受ける権利(32条)、刑事補償請求権(40条)等がそれに該当す
る
③ 国務請求権・国務要求権ともいう
(6) 参政権
① 国民が国政に直接または間接に参与する権利
② 公務員の選定・罷免権、選挙権、被選挙権、公務員となる権利(公務
就任権) 1、国民投票制等がこれに属する
2. 人権思想史
(1) イギリス憲法の三大法典
① マグナカルタ(大憲章)
a. イギリス憲法の土台となった文書
b. 1215年6月、封建貴族たちがジョン王の不法な政治に抵抗して承認
を強制したもの
c. 恣意的な課税の禁止など、主として封建貴族の権利を再確認したも
のであるが、その中の諸条項が近代になって人民の自由と議会の権
利を擁護したものと解釈される
② 権利請願
a. 1628年、イギリス議会がチャールズ1世の圧政に抗して提出した文
書
b. 恣意的な課税、不法な逮捕・投獄などはイギリス国民の古来の権利
を踏みにじるものであると主張
③ 権利章典
a. 1689年12月、イギリス議会が「権利宣言」に基づき国制を規定した
議会制定法
1公務就任権は、参政権の性格を有している。その根拠を15条1項に求める説、14条の
「政治的関係において、差別されない」の規定に含まれているとする説、職業選択の自
由に属するとする説がある。13条(幸福追求権)にあると解する説も有力である。
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22. 憲法コメンタール
b. 市民の自由を保障し、立法・課税承認などに関する議会の権利を確
認することにより、イギリス立憲政治の基礎を確立
(2) 基本的人権に関する思想の誕生
① 自然法思想
a. 人間の自然(本性)に基づく倫理的な原理
b. 人為的・歴史的な実定法とは異なり、時と所を超越した普遍的な法
と考えられている
② 社会契約論(民約論・契約説)
a. 17~18世紀に西欧で有力であった政治・社会理論
b. 国家の起源を自由で平等な個人相互の自発的な契約に求め、それに
よって政治権力の正統性を説明しようとする
c. ロック・ルソー 1らが主張し、日本では中江兆民 2らが紹介した
(3) 近代的な人権宣言の誕生
① フランス人権宣言
a. 人民の自由・平等の権利に関する宣言
b. 1789年8月、フランス革命当初、ラ・ファイエットらの動議に基づ
き、憲法制定議会によって裁決
c. 前文と17条からなり、主権在民、法の下の平等、所有権の不可侵な
どを宣言した
② ヴァージニア憲法
a. 1776年に起草された影響力ある文書
b. 不相当な政府に対する反逆の権利を含み、人間に本来備わっている
自然権を宣言した
c. 後の多くの文書に影響を与えた
【例】アメリカ独立宣言(1776年) アメリカ権利章典
、 (1789年)、
フランス革命における人間と市民の権利の宣言(1789年)
③ ワイマール憲法
1 フランスの作家・啓蒙思想家。『人間不平等起源論』『社会契約論(民約論)』など
で民主主義理論を唱えて大革命の先駆をなした。(1712~1778)
2 思想家。フランスからの帰国後、民権論を提唱、自由党の創設に参画した。ルソー『民
約論』を翻訳した。(1847~1901)
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23. 憲法コメンタール
a. 1919年にワイマールで開かれた国民議会で成立したドイツ共和国
憲法
b. 近代民主主義憲法の典型であり、社会権を認め、経済秩序の民主化
の方向を示した
c. 1933年にナチスの政権掌握によって事実上消滅した
3. 人権の限界
(1) 公共の福祉による人権の限界
① 公共の福祉
a. 個々の人間の個別利益を超え、またはそれを制約する機能をもつ公
共的利益あるいは社会全体の利益を指す言葉
b. 主として基本的人権その他の諸権利の制約要因として法令上用い
られている概念である
c. 公共の福祉の具体的内容については争いがある
d. 日本国憲法で用いられて以来、各種の法令で広く使われるようにな
った
e. 経済的自由権は、憲法の保障する社会国家の理念(25条~28条)を
実現するため、自由国家的公共の福祉(内在的制約) 1のみならず、
社会国家的公共の福祉(政策的制約) 2にも服する
② 具体的内容
a. 国民は、自由と権利を濫用してはならないし、常に公共の福祉のた
めにこれを利用する責任を負う(12条後段)
1 「各個人の基本的人権の共存を維持するという観点での公平」であり、具体的には、
『国民の健康・安全に対する弊害を除去』を目的とする制約」と解するのが多数説であ
る。ただし、「他人の権利を害さないことと、基本的憲法秩序を害さないこと」を目的
とする制約、と解する有力説(芦部)もある。自由国家的公共の福祉は、内心の自由を
除くすべての人権に妥当するとされる。
2 「形式的公平に伴う弊害を除去し、人々の『社会・経済水準の向上』を図るという観
点での公平」と解するのが通説である。弱者保護や社会経済全体の調和ある発展のため
の規制が該当する。社会国家的公共の福祉は、経済的自由権と社会権に妥当するとする
説や、経済的自由権にのみ妥当するとする説が有力である。これは積極目的規制が形式
的公平を害するおそれがあるため、限定的でなければならないからである。
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24. 憲法コメンタール
b. 生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、公共の
福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要
とする(13条後段)
4. 特別な法律関係における人権の限界
(1) 特別権力関係論
① 特別の法律上の原因に基づき、公法上の特定の目的を達成するために
必要な限度において、一方が他方を包括的に支配する権能 1を取得し、
他方がこれに服従すべき義務を負うことを内容とする関係を指す
(【例】公務員の勤務関係、在監関係 等)
② 国民または地方公共団体の住民たる地位に基づく一般権力関係に対
する概念
③ 特別権力関係においては、特定の公的な目的を達するために必要な限
度で特別権力によって規律され、基本的人権、司法審査の面でも制約
を受けるとされた
④ 現在では、このような概念・理論の妥当性は疑問視されており、これ
を否定する考え方も有力である
(2) 公務員の人権制限
① 全逓東京中郵事件(最判昭41.10.26)
a. 15条を根拠として、公務員に対して労働基本権をすべて否定するよ
うなことは許されない
b. ただ、公務員またはこれに準ずる者については、その担当する職務
の内容に応じて、私企業における労働者と異なる制約を内包してい
るにとどまると解すべきである
② 全逓東京中郵事件の判例は、国民全体の利益の確保という見地からの
内在的制約のみが許されるという厳格な条件を示している 2
1 国家または公共団体ないし、それらの機関に法令上認められている能力をいう。権限
と同じ意味で用いられるほか、権利と同じ意味、または権利の個々の機能(使用、 収益、
処分など)の意味に用いられることがある。
2 本判決は公務員、公共企業体等職員の労働基本権の実効性の保障にとり画期的な意義
を有するものであったが、 後に全逓名古屋中郵事件の最高裁判所判決により覆された(最
判昭52.5.4)。
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25. 憲法コメンタール
③ 本判決の趣旨を考慮に入れ、公務員の人権制限の根拠は、憲法が公務
員関係の存在と自立性を憲法秩序の構成要素として認めていること
(15条、73条4号等)に求めるのが妥当である(芦辺)
(3) 公務員の政治活動の制限
① 総説
a. 政党政治の下では、行政の中立性が保たれてはじめて公務員関係の
自立性が確保され、行政の継続性・安定性が維持されるため、公務
員の一定の政治活動が制限される
b. 公務員の政治的中立性の確保を目的として、公務員法その他の法令
は、公務員の政治的行為を制限する規定を設けている(国家公務員
法102条等)
c. しかし、政治活動の自由に対する制限は、行政の中立性という目的
を達成するための必要最小限度にとどまらなければならない
d. 公務員の地位、職務の内容・性質等の相違その他諸般の事情を考慮
した上で、具体的・個別的に審査すべきである
e. 現行法上の制限は、すべての公務員の政治活動を一律全面禁止し、
刑事罰を科している点で違憲の疑いがあるが、判例は、全農林警職
法事件判決の立場に立った判断を示している
② 猿払事件(最判昭49.11.6)
a. 昭和42年の衆議院議員選挙に際して、郵便局の職員が勤務時間外に
選挙用ポスターを掲示するなどの選挙運動を行ったところ、国家公
務員法102条1項違反に問われた刑事事件
b. 最高裁判所は、公務員の政治活動の制限(およびそれにかかわる刑
罰)について、「その禁止が、公務員の職種・職務権限、勤務時間
の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、あるいは行
政の中立的運営を直接、具体的に損なう行為のみに限定されていな
いとしても」、国家公務員法102条1項は全面的に合憲であるとし
た
③ 寺西判事補戒告事件(最決平10.12.1)
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26. 憲法コメンタール
a. 裁判所法52条1号にいう「積極的に政治運動をすること」とは、組
織的、計画的または継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であ
って裁判官の独立および中立・公正を害するおそれがあるものをい
う
b. 具体的行為の該当性を判断するに当たっては、行為の内容、行為の
行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情のほか、行
為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決
するのが相当である
c. 裁判官が積極的に政治運動をすることを禁止する裁判所法52条1
号の規定は、憲法21条1項に違反しない
(4) 在監者(被収容者)の人権制限
① よど号ハイジャック新聞記事抹消事件(最判昭58.6.22)…監獄法の規
定は、未決勾留により拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自
由を監獄内の規律および秩序維持のため制限する場合においては、具
体的事情のもとにおいて当該閲読を許すことにより規律および秩序
の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性
(可能性)があると認められるときに限り、障害発生の防止のために
必要かつ合理的な範囲においてのみ閲読の自由の制限を許す旨を定
めたものとして、憲法13条、19条、21条に違反しない 1
② 被拘禁者の喫煙の禁止(最判昭45.9.16)…監獄法施行規則96条中未
決勾留により拘禁された者に対し喫煙を禁止する規定は、憲法13条に
違反しない
(5) 私人間における人権の保障と限界
① 三菱樹脂事件(最判昭48.12.12)
a. 企業は、契約締結の自由を有し、いかなる者を雇い入れるか、いか
なる条件でこれを雇うかについて、原則として自由にこれを決定す
ることができる
1在監者にも原則として、新聞紙、図書等の閲読の自由が保障されているということが
議論の前提となっている。
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27. 憲法コメンタール
b. 憲法の自由権的基本権の保障規定は、もっぱら国または地方公共団
体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規
律することを予定するものではない
c. 私人間の関係の一方が国家に準じるような場合であっても、憲法の
基本的保障規定の類推適用を認めるべきではない
② 昭和女子大事件(最判昭49.7.19)
a. 19条、21条、23条等のいわゆる自由権的基本権の人権保障規定は、
国または地方公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と
平等を保障することを目的とした規定である
b. もっぱら国または地方公共団体と個人との関係を規律するもので
あり、私人間相互の関係について当然に適用ないし類推適用される
ものでない
③ 日産自動車事件(最判昭56.3.24)…会社の企業経営上定年年齢におい
て女子を差別しなければならない合理的理由が認められないときは、
就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、性別のみに
よる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効で
ある。
(6) パターナリスティックな制約
① パターナリズム
a. 強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益になるようにと、本
人の意志に反して行動に介入・干渉すること
b. 父権主義・温情主義・後見主義と訳される
② パターナリスティックな制約
a. 自己加害が防止するため、国家が本人の自己決定に後見的に介入し
て、人権の行使を制約すること
b. 国家がいわば「親」として「子」である国民を保護する、という国
家観にもパターナリスティックな干渉を正当化する傾向がみられ
る
c. 実際に施行されている事例としては、賭博禁止(刑法186 条)など
が挙げられる
d. 立法措置以外にも、官公庁による行政指導や、市町村における窓口
業務などにも同様の傾向がみられる
21 無断転載・コピーを禁じます。
28. 憲法コメンタール
③ 限定されたパターナリスティックな制約
a. パターナリスティックな制約が認められるとしても、個人の自己決
定は最大限尊重されるべきである
b. 未成年のように判断能力が不十分な者に対し、その自己決定が本人
自身の人格的自立そのものを回復不可能なほど永続的に害する場
合にのみ認められるきである
5. 人権の享有主体
(1) 人権の享有主体
① 一般国民
② 天皇・皇族
③ 法人
④ 外国人
(2) 法人の人権
① 総説…判例上、性質上可能な限り人権規定が法人にも適用される
② 八幡製鉄政治献金事件(最判昭45.6.24)
a. 会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の
社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎり、会社
の権利能力の範囲に属する行為である
b. 憲法3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能な
かぎり、内国の法人にも適用されるものであるから、会社は、公共
の福祉に反しないかぎり、政治的行為の自由の一環として、政党に
対する政治資金の寄附の自由を有する
③ 南九州税理士会事件(最判昭8.3.19)
a. 税理士会が強制加入団体であり、会員である税理士に実質的には脱
退の自由が保障されていないことから、会員の思想・信条の自由と
の関係で、税理士会の目的の範囲は制限される
b. 政治献金をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無
効である
④ 群馬司法書士会事件(最判平14.4.25)
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29. 憲法コメンタール
a. 阪神・淡路大震災により被災した兵庫県司法書士会に3,000万円の
復興支援拠出金を寄付することは群馬司法書士会の権利能力の範
囲内の行為である
b. そのために登記申請事件1件当たり50円の復興支援特別負担金を
徴収する旨の同会の総会決議の効力は、同会の会員に対して及ぶ
(3) 外国人の人権
① 総説
a. 憲法の国際協調主義
日本国が締結した条約および確立された国際法規は、これを誠実
に遵守することを必要とする(98条2項)
b. 外国人にも権利の性質上可能な限り人権が保障される(判例)
② マクリーン事件(最判昭53.10.4)
a. 外国人は、憲法上、わが国に在留する権利ないし引き続き在留する
ことを要求しうる権利を保障されていない
b. 憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本
国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在
留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきである
③ 定住外国人の地方参政権に関する判例(最判平7.2.28)…日本に在留
する外国人のうちでも、永住者等であってその居住する区域の地方公
共団体と特に緊密な関係を持っている者に、法律によって地方公共団
体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与することは、憲法上
禁止されていない
④ 管理職選考試験の受験資格に関する判例(最判平17.1.26)…普通地方
公共団体は、条例の定めるところによりその職員に在留外国人を採用
することを認められているが、この際に、その処遇(【例】管理職へ
の昇進)について合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いを
することは許される(14条1項には違反しない)
⑤ 塩見訴訟(最判平1.3.2)…社会保障上の施策において在留外国人をど
のように処遇するかについては、国は、特別の条約が存在しない限り、
その政治的判断によって決定することができ、限られた財源の下で福
祉的給付を行うに当たって自国民を在留外国人より優先的に扱うこ
とも許される
23 無断転載・コピーを禁じます。
30. 憲法コメンタール
⑥ 森川キャサリーン事件(最判平4.11.16)…日本に在留する外国人が一
時的に海外旅行のため出国し再入国することについて、わが国に在留
する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されるもので
はないと否定している
6. 国民の義務
(1) 国民の一般的義務
① 憲法が国民に保障する自由および権利は、国民の不断の努力によって、
これを保持しなければならない(12条前段)
② 国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のた
めにこれを利用する責任を負う(12条後段)
(2) 国民の個別の義務
① 子女に教育を受けさせる義務…すべて国民は、法律の定めるところに
より、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う(26条2
項前段)。
② 勤労の義務…すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う(27条1
項)
③ 納税の義務…国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う
(30条)
24 無断転載・コピーを禁じます。
31. 憲法コメンタール
II. 包括的基本権
1. 幸福追求権
(1) 総説
① 人間の幸福を追求する権利
② 日本国憲法第13条はこれを確認
③ 自由権の1つであるが、社会保障の権利の根拠として主張されること
もある
④ 13条は、個人の尊厳に基づく基本的人権保障の意味を確認したもので
あり、「新しい人権」の根拠となる包括的な権利である
⑤ 幸福追求権によって基礎づけられる個々の権利は、裁判上の救済を受
けることができる具体的権利である(芦辺)
(2) 憲法上の保障
① すべて国民は、個人として尊重される(13条前段)
② 生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、公共の福
祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とす
る(13条後段)
(3) 幸福追求権の意味
① 人格的利益説…個人の人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利
の総体である 1
② 補充的保障説…個別の人権が妥当しない場合に限って13条が適用さ
れる 2
(4) 幸福追求権から導かれる人権(新しい人権)
① これまで主張された人権
1 幸福追求権の内容は、あらゆる生活領域に関する行為の自由(一般的行為の自由)で
はない。
2 個別の人権を保障する条項とは、一般法と特別法の関係にある。
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32. 憲法コメンタール
a. プライバシーの権利…私生活をみだりに公開され、好奇心の対象や
営利の手段に使われることのないよう法的に保障される権利で、人
格権 1の一部として主張される
b. 環境権…よい環境を享受し、これを支配する権利 2
c. 日照権…太陽の光を享受する権利 3
d. 嫌煙権…たばこを吸わない人間が、たばこの煙による被害を防止す
るため、他者の喫煙の規制を管理者等に請求する権利を有する、と
いう主張 4
e. 健康権…健康な生活を享受する権利 5
f. 平和的生存権…憲法前文の「恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに
生存する権利」を指す 6
② 最高裁判所が認めた人権
a. プライバシーの権利としての肖像権
人格権の1つで、自己の肖像画や肖像写真を無断で描かれまたは
撮影され、公表されるのを拒否する権利
違法な侵害に対しては保護される
(5) 幸福追求権に関する権利の判断
幸福追求権に関する権利を明確な基準もなく裁判所が権利として認める
となると、裁判所の主観的な価値判断により権利が創設されるおそれがあり、
他者の人権を侵害するおそれもあるため、判断は慎重でなければならない。
1 人間が個人として人格の尊厳を維持して生活する上で有するその個人と分離すること
のできない人格的諸利益の総称。自由、名誉、プライバシー、身体などがその基本的内
容であるが、貞操、肖像、氏名、信用等もこれに含まれる。
2 法律上は、その内容がいまだ不明確で具体的権利として確立されてはいないが、環境
保全のための基本的な法理として主張されている。
3 近隣に建物などができることによって、日照が社会通念上我慢すべき程度を越えて害
されないことを主張する。
4 これまで、法的権利として認められた例はない。
5 法律上具体的権利として確立されてはいないが、医療と公衆衛生を中心とした、健康
維持のための国家の施策と保障を要求する内容を持つものとして主張されている。
6 長沼ナイキ基地訴訟や百里訴訟等で原告から主張された。平和生存権が、裁判規範た
りうる個別的具体性を備え、実定法的権利ないし具体的権利とみることができるかにつ
いては争いがある。百里訴訟上告審(最判平1.6.20)は、平和的生存権として主張され
ている平和は、それ自体が独立して、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基
準になるものとは言えず、また、憲法9条(前文を含む)は、私法上の行為に対しては
直接適用されないと判示した。
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34. 憲法コメンタール
⑥ 「エホバの証人」輸血拒否事件(最判平12.2.29)…医師が、患者が宗
教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの
固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓の腫瘍を摘出する手術を受け
ることができるものと期待して入院したことを知っており、手術の際
に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにも
かかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血すると
の方針を採っていることを説明しないで手術を施行し、患者に輸血を
したなど判示の事実関係の下において、医師は、患者が手術を受ける
か否かについて意思決定をする権利を奪われたことによって被った
精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う
2. 法の下の平等
(1) 平等権
① 国政において、人種・信条・性別・社会的身分・門地などにより差別
されない権利
② 封建的な身分制度や男女の差別などを廃止し、すべての人間は平等で
あるとする、近代憲法の基本原則の1つ
③ 日本国憲法では、「法の下の平等」と表現されている
(2) 憲法上の保障
① 法の下の平等…すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、
性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関
係において、差別されない(14条1項)
② 貴族制度の禁止…華族その他の貴族の制度は、これを認めない(14条
2項)
③ 栄典の授与
a. 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない(14条
3項前段)
b. 栄典の授与は、現にこれを有し、または将来これを受ける者の一代
に限り、その効力を有する(14条3項後段)
28 無断転載・コピーを禁じます。
35. 憲法コメンタール
(3) 法の下の平等の概念
① 不合理な差別を禁止するのであり、すべての差別待遇を禁止する趣旨
ではない(恣意的差別は許されないが、合理的差別は認められる)
② 明治憲法では、公職就任については平等の原則がとられていたが、現
行憲法は、華族制度を廃止し、男女同権を確立するなど、法の下の平
等を徹底している
(4) 形式的平等と実質的平等
① 形式的平等
a. 国家の差別的介入を排除する
b. 形式的平等が行き過ぎると、個人の自由な活動と資本主義の進展が
結果として、社会的・経済的弱者を生み、貧富の格差が拡大する
② 実質的平等
a. 国家の介入を要求する
b. 実質的平等は、社会的・経済的弱者に対してはより厚い保護を与え、
他の国民と同程度の自由と生存を保障する
(5) 憲法における具体的な平等原則の規定
① 貴族制度の廃止(14条2項)
② 栄典に伴う特権の廃止(14条3項)
③ 普通選挙の一般原則(15条3項)
④ 夫婦の同等と両性の本質的平等(24条)
⑤ 教育の機会均等(26条1項)
⑥ 議員・選挙人の資格の平等(44条)
もと
(6) 法の下 の平等に関する判例
① 尊属殺重罰規定違憲判決(最判昭48.4.4)
a. 尊属殺人罪(自己または配偶者の直系尊属を殺す罪)は、殺人罪と
異なり、死刑または無期懲役に処すと定められていた
b. これについては、法の下の平等を定める14条1項に違反するのでは
ないかが争われ、最高裁判所は、昭和25年10月25日判決以来の合憲
判断を変更し、殺人罪の法定刑に比べ加重の程度が極端であり憲法
14条1項に違反して無効であるとした
29 無断転載・コピーを禁じます。
36. 憲法コメンタール
c. その後、平成7年の改正により、尊属殺人罪を定めた刑法200条は
削除された
② 非嫡出子相続分規定事件(最判平7.7.5)
a. 最高裁大法廷は、民法の「非嫡出子減額規定」を合憲と判断した
b. その主な根拠は次の通りである
憲法14条1項の規定が合理的理由のない差別を禁じたものであ
り、合理性のある区別を否定するものではないこと
民法900条が法定相続分に関する規定であり、遺言によれば相続
分を、一定限度、指定できること
相続制度の構築が立法府の裁量に任されていること
民法が事実婚主義を排して、法律婚主義を採用している以上、両
者間に区別が生じてもやむをえず、嫡出子の立場を尊重した結果
として甘受すべきこと
③ 女子再婚禁止期間事件(最判平7.12.5)
a. 民法733条の立法趣旨が、父性の推定の重複を回避し、父子関係を
めぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解されるため、再婚禁
止期間について男女間に差異を設ける民法733条を改廃しない国会
ないし国会議員の行為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評
価を受けるものではない
b. 合理的な根拠に基づいて各人の法的取扱いに区別を設けることは
憲法14条1項に違反するものではない
④ 国籍確認請求事件(最判平20.6.4)…国籍法3条1項が、日本国民で
ある父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された
子について、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した(準正 1のあ
った)場合に限り届出による日本国籍の取得を認めていることによっ
て、認知されたにとどまる子と準正のあった子との間に日本国籍の取
得に関する区別を生じさせていることは、(平成17年当時において)
憲法14条1項に違反していた
1婚姻関係にない父母から生まれた子が、嫡出子の身分を取得すること(民法789条)。
子を認知した父が母と婚姻をする準正と、父が母と婚姻後に子を認知する準正とがある。
30 無断転載・コピーを禁じます。
38. 憲法コメンタール
III. 精神的自由権
1. 精神的自由権
(1) 意義
① 基本的人権における自由権のうち、精神的自由に係る権利
② 日本国憲法が保障する、思想・良心の自由(19条)、信教の自由(20
条)、集会・結社および表現の自由(21条)、学問の自由(23条)が
該当する
③ 個人の人格的尊厳と民主主義の存立の基本となるものであるから最
も尊重されるべきものである
2. 思想・良心の自由
(1) 意義
① 人間の精神活動の自由
② 一般的には、その内容が特に倫理的な性格をもつ場合が良心の自由 1で
あり、それ以外の場合が思想の自由であるとされるが、強いて区別せ
ず、両者を合わせて精神の内面的自由を保障したものとする説もある
③ 信教の自由(20条)、学問の自由(23条)および表現の自由(21条)
の前提となる一般的内心の自由である
④ 人間の尊厳を支える基本的条件であり、民主主義存立の不可欠な前提
となる、「思想・良心」という人の精神の自由を包括的に保障するも
のであり、精神的自由の原理的規定として位置づけられている
(2) 憲法上の保障
思想・良心の自由は、これを侵してはならない 2(19条)。
1 謝罪広告事件の最高裁判決(最判昭31.7.4)の補足意見では、19条の良心を、「宗教
上の信仰に限らずひろく世界観や主義や思想や主張をもつことにも推及ぼされていると
見なければならない」としている。
2 「侵してはならない」とは、①国民がどのような思想(国家観・世界観・人生観等)
32 無断転載・コピーを禁じます。
39. 憲法コメンタール
(3) 判例
① 謝罪広告事件(最判昭31.7.4)
a. 新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決は、その広告の内容
が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものであれ
ば、民事訴訟法733条により代替執行の手続によりこれを行うこと
ができる
b. 新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決は、19条に違反しな
い1
② 麹町中学内申書事件(最判昭63.7.15)
a. 高校進学を希望する生徒が、その内申書に構内で全共闘を名乗り、
機関紙を発行したこと、大学生の政治集会に参加したこと、学校側
の指導説得を聞かずにビラまきを行ったこと等を記載され、そのこ
とが理由で受験した高校すべてに不合格になったとして、国家賠償
法による損害賠償を請求した
b. 最高裁は、内申書記載は、上告人の思想・信条そのものを記載した
ものでないことは明らかであり、右の思想・信条を了知し得るもの
ではないし、又、上告人の思想・信条自体を高等学校の入学者選抜
の資料に供したものとは到底解することはできないから、違憲の主
張は、その前提を欠き採用できないとし、上告は棄却された
3. 信教の自由
(1) 意義
① どんな宗教を信じるのも信じないのも自由であること
② 明治憲法にも「信教ノ自由」の規定があったが、限定的なものだった
を持とうとも、内心の領域にとどまる限りは、絶対的に自由であり、国家権力が、それ
に対して不利益を課したり、特定の思想を抱くことを禁止したりすることができない、
②国民がどのような思想を抱いているかについて、 国家権力が露顕を強要すること 【例】
(
江戸時代のキリスト教徒弾圧の手段だった「踏み絵」、天皇制についての賛否の強制的
なアンケート 等)はできない(すなわち、思想についての沈黙の自由が保障される)
という2つの意味である。
1 19条の思想・良心の自由は、国民がいかなる思想を抱いているかについて国家権力が
開示を強制することを禁止するものであるが、謝罪広告の強制は、それが事態の真相を
告白し陳謝の意を表するに止まる程度であれば許される。
33 無断転載・コピーを禁じます。
40. 憲法コメンタール
③ 神社神道は宗教でないという理由で、神社を国の営造物にしたり、神
官・神職に官吏に準ずる地位を与えたり、特定の神社に国から財政上
の補助を与えたり、国民に神社への参拝を強制したりするなどした
④ 神社神道以外の宗教に対して迫害や弾圧を加えていた
⑤ 日本国憲法は過去の歴史の反省を踏まえて、20条において「信教の自
由」と「政教分離」の規定を置き、更に89条においても「政教分離」
について定めた
(2) 憲法上の保障
① 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する(20条1項前段)
② いかなる宗教団体も、国から特権を受け、または政治上の権力を行使
してはならない(20条1項後段)
③ 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制
されない(20条2項)
④ 国およびその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはな
らない(20条3項)
⑤ 公金その他の公の財産は、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益も
しくは維持のため、これを支出し、またはその利用に供してはならな
い 1(89条)
(3) 内容
① 信仰の自由(内心における信仰の自由)…宗教を遂行し、または信仰
しないこと、信仰する宗教を選択し、または変更することについて、
個人が任意に決定する自由 2
② 宗教的行為の自由…信仰に関して、個人が単独で、または他の者と共
同して、祭壇を設け、礼拝や祈祷を行うなど、宗教上の祝典、儀式、
行事その他布教等を任意に行う自由
③ 宗教的結社の自由…特定の宗教を宣伝し、または共同で宗教的行為を
行うことを目的とする団体を結成する自由 3 4
1 政教分離原則を財政面から裏付けている。
2 個人の内心における自由であり、絶対に侵すことができない。
3 宗教的行為の自由に含めて解する説も有力である(芦辺)。
4 結社の自由(21条)のうち、宗教的な結社については、信教の自由の一部としても保
障されている。
34 無断転載・コピーを禁じます。
41. 憲法コメンタール
(4) 政教分離の原則(政教分離原則)
① 意義
a. 国家の宗教的中立性
b. 信教の自由を保障するために、政治と宗教が相互に介入し合うこと
を禁止すること
c. 憲法は厳格な政教分離の原則を採用し、国や地方公共団体が特定の
宗教に特権を与えたり、財政的援助を供与したり、自ら宗教的活動
を行ったりすることを禁止(20条、89条)
② 憲法における禁止規定
a. 特権付与および政治上の権力の行使の禁止(20条1項後段)
b. 国の宗教的活動の禁止(20条3項)
c. 公金の支出の禁止 1(89条前段)
(5) 信教の自由に関する判例
① 剣道実技拒否事件(最判平8.3.8)
a. 市立高等専門学校の校長が、信仰上の理由により剣道実技の履修を
拒否した学生に対し、必修である体育科目の修得認定を受けられな
いことを理由として2年連続して原級留置処分とし、さらに、それ
を前提として退学処分とした
b. この学生は、信仰の核心部分と密接に関連する真しな理由から履修
を拒否したものであり、他の体育種目の履修は拒否しておらず、他
の科目では成績優秀であった上、これらの各処分は、同人に重大な
不利益を及ぼし、これを避けるためにはその信仰上の教義に反する
行動を採ることを余儀なくさせるという性質を有するものである
c. この学生がレポート提出等の代替措置を認めて欲しい旨申し入れ
ていたのに対し、学校側は、代替措置が不可能というわけでもない
のに、これについて何の検討することもなく、申入れを一切拒否し
たなど判示の事情の下においては、当該各処分は、社会観念上著し
く妥当を欠き、裁量権の範囲を超える違法なものというべきである
② 津地鎮祭事件(最判昭52.7.13)
1 政教分離原則を財政面から裏付ける規定である。
35 無断転載・コピーを禁じます。
42. 憲法コメンタール
a. 三重県津市が、主催の体育館起工式を神式の地鎮祭として挙行し、
その挙式費用を公金から支出したことは、憲法の政教分離の原則に
反するとして、津市長に対して提起された住民訴訟
b. 最高裁判所大法廷は、20条3項の「宗教的活動」とは、当該行為の
目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促
進または圧迫、干渉等になるような行為をいう(目的・効果基準)
と判示し、本件起工式は同条同項の宗教的活動に当たらないとして、
同項に違反するから公金の支出が違法であるとした原判決を破棄
した
③ 自衛官合祀訴訟(最判昭63.6.1)
a. 殉職自衛官の護国神社への合祀が、キリスト教徒であるその妻の意
思に反して、自衛隊職員と私的団体である隊友会との共同の申請に
よって行われた(政教分離原則に違反している)として、当該殉職
自衛官の妻が国等に対して損害賠償等を求めて訴訟となった事件
b. 最高裁は、隊友会が護国神社に対し殉職自衛官の合祀を申請する過
程において自衛隊職員が行った行為は憲法20条3項にいう宗教的
活動に当たらず、また、死去した配偶者の追慕、慰霊等に関して私
せいひつ
人がした宗教上の行為によって信仰生活の静謐 が害されたとして
も、それが信教の自由の侵害に当たり、その態様、程度が社会的に
許容しうる限度を超える場合でない限り、法的利益が侵害されたと
はいえないとして、請求を棄却した
④ 愛媛玉串料訴訟(最判平9.4.2)
a. 愛媛県が靖国神社に対して玉串料、献灯料等の名目で、また、愛媛
県護国神社に対して県遺族会を通じて供物料の名目で、それぞれ公
金を支出したことが20条3項・89条に違反するとして、当時県知事
の職にあった者らに対し、地方自治法242条の2第1項4号に基づ
き損害賠償を請求した事件
b. 最高裁は、目的・効果基準を適用して判断した結果、玉串料等の公
金支出を明確に20条3項・89条違反と断じた 1
1この判決は、わが国の政教分離関係訴訟における最高裁判所の初めての違憲判決とし
て画期的な意義を有するものであるが、津地鎮祭事件判決以来の判断枠組みを踏襲しつ
つ違憲の結論を導いたことについては、首尾一貫していないとする批判もある。
36 無断転載・コピーを禁じます。
43. 憲法コメンタール
4. 学問の自由
(1) 意義
① 真理探究・学問的研究活動の自由およびその成果としての学問的知
見・見解の表現・発表・教育の自由
② 明治憲法の下では、大学人に対する政府による干渉や圧迫があった
(滝川事件 1
(昭和8年)や美濃部達吉の天皇機関説事件 2
(昭和10年))
③ 日本国憲法は、このような事件の反省をも含めて学問の自由を明文化
した
(2) 憲法上の保障
学問の自由は、これを保障する(23条)。
(3) 内容
① 学問研究の自由
a. 真理の発見・探求を目的とする自由
b. 内面的精神活動の自由であり、思想・良心の自由の一部を構成する
② 研究発表の自由
a. 研究の成果を発表する自由
b. 外面的精神活動の自由であり、表現の自由の一部を構成する
③ 教授の自由(教育の自由)
a. 主として大学等の高等教育機関において、研究者が、どのような内
容をどのような教材を用いて講義するかについて自主的判断で決
定できること
1 昭和8年5月、斎藤実内閣の鳩山一郎文相によって行われた京大法学部滝川幸辰教授
の休職処分に対して、同学部の教官全員が辞表を提出し、学生とともに激しい抗議運動
を展開した事件。京大事件ともいう。滝川教授の著書『刑法読本』等の内容の不穏性等
が文部当局から問題とされた。戦前における学問研究の自由、大学の自治に対する侵害
の典型的事例とされる。
2 天皇機関説とは、明治憲法の下で、美濃部達吉によって唱えられた学説で、日本の場
合、法律学上国家は法人であり、したがって、天皇はその法人である国家の機関である
と見るのが妥当であるとする考え方である。19世紀ドイツの国家法人説の日本への適用
から出たものである。国体に反するものとして非難され、軍部の圧力を受けた政府は、
美濃部達吉の著書の発売を禁止し、学校で天皇機関説を教授することを禁止した(天皇
機関説事件)。
37 無断転載・コピーを禁じます。
44. 憲法コメンタール
b. 近年、小・中学校等の初等・中等の教育機関においても教育の自由
が認められるべきであるという見解が支配的になっている 1
(4) 大学の自治
① 大学がその研究、教授等について他の国家機関または政治勢力の干渉
を受けないように、その構成員によって自主的に運営されること
② 大学には、教官その他の研究者の人事(人事の自治)のほか、その施
設および学生の管理等について一定の範囲の自主性(施設・学生管理
の自治)をもつことが認められる
③ 憲法の保障する学問の自由(23条)に含まれると考えられている
④ 大学の自治は、学問の自由を制度的に強化する制度的保障である(固
有権 2としての自治権を保障したものではない)
(5) 学問の自由に関する判例
① 旭川学テ事件(最判昭51.5.21)
a. 憲法上、親は一定範囲においてその子女の教育の自由をもち、また、
私学教育の自由および教師の教授の自由も限られた範囲において
認められるが、それ以外の領域においては、国は、子ども自身の利
益の擁護のため、または子どもの成長に対する社会公共の利益と関
心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において、子ど
もの教育内容を決定する権能を有する
b. 普通教育においては、児童生徒にこのような能力がなく、教師が児
童生徒に対して強い影響力、支配力を有することを考え、また、普
通教育においては、子どもの側に学校や教師を選択する余地が乏し
く、教育の機会均等をはかる上からも全国的に一定の水準を確保す
べき強い要請があること等に思いをいたすときは、普通教育におけ
る教師に完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されない
② 東大ポポロ事件(最判昭38.5.22)
1 ただし、小・中学校等の初等・中等の教育機関において、教材、教科内容等につき一
定の合理的な画一的基準を設けることは違憲ではないとされている。
2 団体の構成員が有している多数決でも奪うことのできない権利。
38 無断転載・コピーを禁じます。
45. 憲法コメンタール
a. 23条の学問の自由は、学問的研究の自由とその研究結果の発表の自
由とを含み、同条は、広くすべての国民に対してそれらの自由を保
障するとともに、特に大学におけるそれらの自由および大学におけ
る教授の自由を保障することを趣旨としたものである
b. 学生の集会は、大学の許可したものであっても真に学問的な研究ま
たはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活
動に当る行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自
治は享有しない(大学の公認した学内団体であるとか、大学の許可
した学内集会であるとかいうことによって、特別な自由と自治を享
有するものではない)
5. 表現の自由
(1) 意義
① 言論や文書による思想、信条の表明の自由のほか、集会、結社、出版、
報道の自由など、個人が外部に向かってその思想、信条、主張、意思、
感情などを表現する一切の自由
② この権利は最も代表的な自由権の1つであり、民主主義社会の基礎を
なす極めて重要な権利である
(2) 憲法上の保障
① 集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障
する 1(21条1項)
② 検閲 2は、これをしてはならない(21条前段)
③ 通信の秘密は、これを侵してはならない(21条後段)
1 明治憲法29条も「言論著作印行集会及結社ノ自由」について定めたが、「法律ノ範囲
内ニ於テ」とされ、これを根拠に数多く言論統制法が制定されたため、日本国憲法には
「法律ノ範囲内」という文言はない。
2 21条2項の検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その
全部または一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一
般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止すること
を、その特質として備えるものを指す。
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46. 憲法コメンタール
(3) 表現の自由が支える価値
① 自己実現の価値…個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させる
という個人的な価値
② 自己統治の価値…言論活動により国民が政治的意思決定に関与する
という民主政治に資する社会的な価値
(4) 知る権利(情報へのアクセス権)
① 国民が新聞等を通じて自由に情報を受け取る権利あるいは国等に対
し情報の提供を求める権利
② 表現の自由を、従来の送り手の側からではなく、受け手の側からみた
ものであるが、法令用語ではない
③ 判例では、知る権利に奉仕する報道の自由は表現の自由を規定した21
条の保障の下にあり、報道のための取材の自由も同条の精神に照らし
十分尊重に値するものであるとされている(博多駅テレビフィルム提
出命令事件/最決昭44.11.26)
(5) マス・メディアへのアクセス権(反論権・意見広告掲載要求権)
① 意義
a. 公衆がマス・メディアを利用してその意見を表明する権利
b. マス・メディアへのアクセス権を認めるか否か等については議論が
ある
c. 判例は、人格権または条理を根拠とする反論文掲載請求権を否定し
た(サンケイ新聞事件/最判昭62.4.26)
② サンケイ新聞事件(最判昭62.4.26)…新聞記事に取り上げられた者は、
当該新聞紙を発行する者に対し、その記事の掲載により名誉毀損の不
法行為が成立するかどうかとは無関係に、人格権 1 または条理 2 を根拠
として、記事に対する自己の反論文を当該新聞紙に無修正かつ無料で
掲載することを求めることはできない
1 人間が個人として人格の尊厳を維持して生活する上で有するその個人と分離すること
のできない人格的諸利益の総称。自由、名誉、プライバシー、身体などがその基本的内
容であるが、貞操、肖像、氏名、信用等もこれに含まれる。
2 社会生活における根本理念であって、ものごとの道理、筋道、理法、合理性と同じ意
味。社会通念、社会一般の正義の観念、公序良俗、信義誠実の原則等と表されることも
ある。一般的には法の欠缺(けんけつ)を補うものとして考えられ、成文法も慣習もな
いときに裁判の基準として取り上げられる。
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47. 憲法コメンタール
(6) 言論・出版の自由
① 意義
a. 個人が思想を言論により発表すること(表現行為)の自由
② 内容
a. 言論の自由
個人が思想を口頭により発表すること(表現行為)の自由
b. 出版の自由
個人が思想を印刷物による発表すること(表現行為)の自由
(7) 集会・結社の自由
① 集会の自由
a. 集会 1をする自由
b. 近代憲法で例外なく保障される代表的な自由権
c. 明治憲法もこの権利を保障していたが、法律の範囲内に限定されて
いた
d. 現行憲法にはこのような限定はないが、いわゆる公安条例や道路交
通法などによって制限される場合がある
② 結社の自由
a. 意義
多数人が、共同の目的の下に継続的に集団を形成する自由 2
明治憲法下でも保障されていたが、治安維持法、治安警察法が政
治結社の自由を制限していた
宗教的な結社の自由は信教の自由(20条)にも含まれ、労働組合
を結成する自由は「勤労者の団結する権利」(28条)としても別
に保障されている
b. 内容
団体を結成しそれに加入する自由
その団体が団体として活動する自由
団体を結成しないもしくはそれに加入しない自由あるいは加入
した団体から脱退する自由
1 集会とは、多数人が共同の目的をもって一時的に一定の場所に集合すること、または
その集まりである。共同の目的を欠いている群集は、集会とはいえない。
2 結社とは、何人かの人が特定の目的達成のため継続的な結合関係を結ぶことである。
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48. 憲法コメンタール
c. 限界…現在、結社の自由を制限する法律としては、暴力主義的破壊
活動の防止を目的とする破壊活動防止法がある
(8) 集会・結社の自由に関する判例
① 泉佐野市民会館事件(最判昭7.3.7)
a. 公の施設である市民会館の使用を許可してはならない事由として
市立泉佐野市民会館条例の定める「公の秩序をみだすおそれがある
場合」とは、市民会館における集会の自由を保障することの重要性
よりも、市民会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体
または財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防
止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべ
きである
b. その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性がある
というだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に
予見されることが必要であり、当該規制は、憲法21条、地方自治法
244条に違反しない
② 東京都公安条例事件(最判昭35.7.20)…最高裁は、集団行動の特性に
ついて、集団の潜在的な力が甚だしい場合には一瞬にして暴徒化する
とし、群集心理の法則と現実の経験に照らして明らかであると説き、
許可の基準が明確性を欠き、拒否の認定が公安委員会の裁量に委ねら
れており、かつ、問題点の多い条例であるにもかかわらず、公共の安
寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外
はこれを許可しなければならないという規定によれば、不許可の場合
が厳格に制限されているので、実質において届出制と異なるところが
ないと解し 1、合憲とした
③ 新潟県公安条例事件(最判昭29.11.24)
a. 地方公共団体の制定する公安条例が、行列進行または公衆の集団示
威運動につき、単なる届出制を定めることは格別、一般的な許可制
を定めてこれを事前に抑制することは、憲法の趣旨に反する
1本条例は、許可することを義務付けており、不許可とする場合が厳格に制限されてい
る。規定の文面上では許可制を採用しているが、この許可制はその実質において届出制
と異なるところがない。
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49. 憲法コメンタール
b. しかし、公共の秩序を保持し、または公共の福祉が著しく侵される
ことを防止するため、特定の場所または方法につき、合理的かつ明
確な基準の下に、これらの行動をなすにつき予め許可を受けしめ、
または届出をなさしめて、このような場合にはこれを禁止すること
ができる旨の規定を設け、さらにまた、これらの行動について公共
の安全に対し明らかな差し迫った危険を及ぼすことが予見される
ときは、これを許可せずまたは禁止することができる旨の規定を設
けても、これをもつて直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制
限するものということはできない
(9) 営利的言論の自由
① 広告のような営利的な表現活動であっても、国民一般が、消費者とし
て広告を通じてさまざまな情報を受け取ることを考慮し、学説は、一
般に表現の自由の保護に値すると考える
② ただし、営利的言論の自由の程度は、非営利的(政治的)言論の自由
よりも低いと解される
(10) 報道の自由・取材の自由
① 報道の自由
a. 報道機関が、新聞、放送等のマス・メディアを通じて、事実を国民
に伝達する自由
b. 報道機関の報道は、国民の「知る権利」に奉仕するものであって、
事実の報道の自由は、思想の表明の自由と並んで表現の自由を規定
した21条で保障されており、報道のための取材の自由も、同条の精
神に照らし、十分尊重に値する(博多駅テレビフィルム提出命令事
件/最決昭44.11.26)とされる
② 取材の自由
a. 新聞、テレビなどのマスコミが報道のための情報を収集する自由
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