【経営への提言】
自立型組織への組織改革について
人と組織のイノベーションを実現した企業にみる先進的人事制度
およびマネジメント方法
1
まえがき
今、企業に求められているのは、単なる制度の改革レベルではなく、人と組織のイノベーションそのも
のである。社会の構造が大きく転換し、企業を取り巻く環境や条件が劇的に変化しようとしている中で、
企業の競争力を回復し、高めていくためには、人...
目次
第一章 自立性の高い組織を構築する ・・・・・・・・・ 5
【1】ピラミッド組織から自立組織へ
・自立と自立
・高い自立性が求められる経営環境とは
【2】ソリューションビジネスと自立組織
【3】先行指標に基づくセルフマネジメント
・結果指...
【6】リーダー育成確保の方法論
【7】リーダーシップを育む土壌
・ソニーのケース
・ミスミのケース
・・・・・・・・・ 5
・・・・・・・・・ 5
第五章 自立組織を実現している企業 ・・・・・・・・・ 5
【1】事例紹介 ミスミ
【】ミスミの...
第一章 自立性の高い組織を構築する
1. ピラミッド組織から自立組織へ
自立と自律
仕事には、WHAT・HOW・DO・CHECKの四つのフェーズがあり、全体で一つのサイクルが形成される。何を
なすべきかという問題発見や課題設定(WHAT)が行わ...
である。
それでは、より自立的な組織でなければ競争に打ち勝てないような経営環境とはどのようなものか。以下に7つの
一般的な特徴をあげる。そのなかのいつくかでもあれはまれば、高い自立性が求められていると考えていいだろう。
【高い自立性が求められる...
①商品価値から使用価値へ
ソリューションを提供することより、顧客における使用価値を極大化させることが求められるように
なっている。
②第一線での自立組織が不可欠
何が顧客にとってベストであり、どのようなソリューションを売るべきかは、第一線の人間...
陥り、顧客との利益相反が生じやすい。
結果指標ではなく、全社員が先行指標へのコミットメントを高め、自分たちがチームとしてどのように
これを高めていくかという意識を共有していく。これがセルフマネジメントの仕組みのベースとなり、次
のWHATへとつ...
に会社によっては、地球環境や人権といった普遍的なものもステークホルダーととらえることもある。
このように広くとらえた、すべてのステークホルダーの満足度、要望などを調査し、それに基づいて会
社の課題を設定し、その課題に取り組む姿勢を公に公表してし...
4. 自立組織実現のための基本的要件
第一線のリーダーの存在
自立組織実現のうえで必要なことは多々あるが、主なものを挙げてみよう。先行指標によるセルフマネ
ジメントの仕組みとともに不可欠ともいえるのが、第一線におけるWHAT構築能力の高いリーダ...
るかどうかを担保するために、組織品質を管理することも重要になってくる。組織品質とは、簡単に言え
ば、組織の健全性や自立性、強さのことだ。英国でも経営品質重視の流れで組織品質を重視する企業が非
常に増えている。
ビジョンやバリューはどの程度浸透し...
第二章 組織の序列を流動化させる
1. 秩序維持という階層の機能と価値観としての序列
ピラミッド組織における組織階層の意味は、指示命令による全体性敵の秩序維持にあった。これに対し、
自立組織においては組織階層ではなく、ビジョンやバリューといった...
3. 成果主義の導入は、給与制度ではなく人材の流動化から
このように実力が伴わない上位ポストに就いたまま固定化した状態を打破するにはどうするか。まず成
果主義の導入、給与制度の改革を考えるだろう。しかし、成果主義とは、給与制度から始まるのではな...
4. 序列流動化の方法論
それでは、序列を流動化させるための方法論にはどのようなものがあるだろうか。
日本の企業においては、役職定年制、給与の減額が行われているが、方法論としてはかなりの限界が見
えつつある。
これに対し、米国ではどのような方法...
5. 序列重視から機能重視へ
序列が固定化した場合、これを流動化していくのは改革の重要な方向性である。しかしながら、序列の
流動化だけでは限界があるのもまた事実である。
なぜなら、序列は価値観の問題であり、社員の心のなかにそれが根強く定着してい...
ここで、序列の概念を軸に組織がどのように進化してきたか、そして、今後どの要綱で変化していくか
を4つのフェーズでもう一度整理しておく。
【組織序列の4つのフェーズ】
第一フェーズ:機能としての階層から価値観としての序列へ
第二フェーズ:人生の目...
ある日、外部からの資本の論理によって一気に風穴をあけられるようなハードランディングを余技なくさ
れる可能性もある。
米国でも、序列が硬直化していた企業が一気に流動化を迫られ、改革志向の強い経営トップやリーダー
に交代せざる得なくなったケースが数...
第三章 柔軟で自立的な組織マネジメントを実現する
1. 柔軟なチーム組織の特徴
自立組織を実現するには序列を流動化することが大前提だが、一方組織における日々に運営はどのよう
にすればよいだろうか。いかなるマネジメントが必要なのだろろうか、機能の...
そこで、先見性のあるドラッカーが考えたのが目標管理(Management By Objective)の手法だった。自
分は今年、何を目指すのかという具体的な目標を設定し、その目標にどのように近づいていくのかという
プロセスにおいては、かなりの部...
一律目標管理にそぐわない仕事が増えてきた
さらに企業の実態に即していえば、目標管理のサイクルと合わないサイクルで回っている仕事もある。
Plan(仮説)・Do(実行)・See(検証)のサイクルは、業種や職種、同じ職種でも扱う商品や顧客の違い
な...
3. 個人の役割と目標が固定的か柔軟か
一人ひとりの仕事をマネジメント、その役割や目標によって、高いパフォーマンスを引き出すためのマ
ネジメントスタイルはどのように違ってくるのか。個人の役割が固定的であるか、それとも流動的である
か、個人の目標...
チーム全体の使命と目標を共有したうえで、個々のメンバーについては、まず、それぞれ抽象度の高い
レベルで基本的な役割を認識する。それ以降の具体的な役割分担や個別の仕事のターゲットは、状況の変
化の応じ、週単位や月単位でどんどん変えていき、アップデ...
割と目標を流動化させようとしてもうまくいかず、結局は固定化の方向に向かうようになる。
<ポイント>
成果申告型のマネジメント
役割流動的、目標流動的な業務の場合、成果申告型のマネジメントを行う。
役割流動的、目標流動的な業務:チーム全体の使命と...
やバリューを重視する会社では、名刺サイズのカードに印刷し常に携帯させたりしている。
例)楽天
②たとえ話や具体的事例で繰り返し説明する(成功事例の共有)
例えば、顧客に対し戦略的なソリューションを提供することが、そのチームのミッションであったと...
GEのジャック・ウェルチ会長はその名手といわれる。例えば、リーダーたちのミーティングにおいて、
一人が自分の担当する案件にプレゼンテーションしているとき、鋭い質問を次々とぶつけ、どれほど仕事
の本質を理解しているかを見抜く。さらには、その案件と...
ているのか」「このビジネスの成功のために今何を優先すべきかと思うか」‥‥‥といった、本人の目線
を足元から少し先へと移してやるような質問を投げかけてみる。
不十分パフォーマーには「過去分析」と「問題解決支援」
今現在の仕事もクリアできず、このま...
第四章 リーダーシップを開発する
1. リーダーの人材要件の重層性
リーダーシップの開発は、人と組織のイノベーションを実現する上で最も重要なポイントの一つである。
目指すべき自立組織のあり方や組織マネジメントのスタイルがわかっても、それを体言し...
【リーダーに求められる能力と資質】
①WHAT構築能力
「何をすべきか」「何をしたいのか」という問題定義をする思考特性や行動特性を持った人間が第一
線のリーダーにいないと、自立組織は立ち上がらない。
②顧客シミュレーション能力
顧客の価値観をシ...
ほど、開発に時間がかかる。つまり、WHAT構築能力はその習得が難しくなってから求められるようになる
というパラドックス。ピラミッド組織を自立組織へと改革しておいくきの最大のネックがここにある。
WHAT 構築は「やりたいこと」がドライブになる
...
自立型組織への組織改革について
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人と組織のイノベーションを実現した企業にみる先進的人事制度およびマネジメント方法に関するレポート、2003年。

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自立型組織への組織改革について

  1. 1. 【経営への提言】 自立型組織への組織改革について 人と組織のイノベーションを実現した企業にみる先進的人事制度 およびマネジメント方法 1
  2. 2. まえがき 今、企業に求められているのは、単なる制度の改革レベルではなく、人と組織のイノベーションそのも のである。社会の構造が大きく転換し、企業を取り巻く環境や条件が劇的に変化しようとしている中で、 企業の競争力を回復し、高めていくためには、人と組織の抜本的なイノベーションが強く求められている。 同じ国の同種の業界にあって、経営環境に共通する部分が多くても、経営ビジョンや経営戦略が異なれ ば、人と組織のイノベーションもあり方も大きく違ってくる。このことは、人事制度改革を進めるうえで、 独自のビジョンや戦略を明確に持つことがいかに重要であるかを物語っている。 個々の企業の経営者にとって重要なのは、経営環境の厳しさを十分認識したうえで、自らの意思として 変革を決断し、ビジョンや戦略の選択を行うことである。そして、独自のビジョンや戦略にあわせた人と 組織のイノベーションの進め方をテーラーメードで考えることである。あるのは"わが社流"のイノベーシ ョンだ。 そのとき、どのようなポイントでものごとを考えればいいのか。今までの人事制度を何のためにどんな 問題意識から変革してくのか。そして、どのようなフレーム枠でイノベーションを実現していくのか。そ れらを提示することに、本稿のねらいはある。 人と組織のイノベーションを行ううえで、その根本において求められる最大のテーマでありながら、イ ノベーション実現の大きなハードルとなっているのが、自立性の高い組織づくりをするという課題である。 まず、第一章では、自立性の高い組織とは何か、どのような経営環境でどの程度の組織の自立性が求め られているのか、もし自立性が必要であれば、その実現のための基礎となるマネジメント方法や基本的要 件は何なのかについて述べる。 第二章では、自立性の高い組織において最初の難関である組織の序列を流動化させるための方法につい て述べる。なぜ、組織の序列の流動化が必要であるのか、また、序列流動化を進める上で陥りやすい罠は 何か、序列重視から機能重視へと移行するための方法について述べる。 第三章では、自立組織における日々のマネジメントはどのようにすればよいのか。環境や状況の変化に 対応できるチーム組織を生み出すには、いかなるマネジメントが必要なのか。機能の流動化、サッカー型 組織の構築はそもそもどのようなものかについて述べる。 第四章においては、自立的な組織には、そのためのマネジメントのスタイルだけでなく、それを体言し ていくリーダーが不可欠である。そのようなリーダーを育成するためのリーダーシップの開発について述 べる。リーダーに求められる「WHAT 構築能力」を中心とした能力や資質、そして、リーダー育成方法論や、 リーダーシップを育む土壌について述べる。 第五章以降では、先進的な人事制度を導入・実施している企業にフォーカスし、どのような制度を運用 しているのか詳細にみていく。 第五章では、第四章までを踏まえ、自立組織を実際に実現しているミスミ、ED コントライブ、京セラの 人事制度について、そのコンセプト、導入の経緯、運用方法について取り上げる。 第六章では、人材排出企業で有名なリクルートの人事制度を取り上げる。自分のキャリアは自分で開く 個人主導のキャリアマネジメントを実現し、社員のエンプロイアビリティを上げているリクルートの取り 組みについて取り上げる。‥‥‥ 第七章では、リーダーを育成するための人事制度で有名な GE を取り上げる。自立性の高い組織において 重要になるビジョンやバリューの共有や、また健全な序列の流動化には欠かせない 360 度多面的評価をは じめとしたステータスオークションを実現している GE の人事制度を取り上げる‥‥‥ 2
  3. 3. 目次 第一章 自立性の高い組織を構築する ・・・・・・・・・ 5 【1】ピラミッド組織から自立組織へ ・自立と自立 ・高い自立性が求められる経営環境とは 【2】ソリューションビジネスと自立組織 【3】先行指標に基づくセルフマネジメント ・結果指標より先行指標 ・バランススコアカードのアプローチ ・自立組織実現のための基本的要件 ・第一線のリーダーの存在 ・コーチング的マネジメントおよび少ないルールと多くのリソース ・仕事へのコミットメント ・結果指標より先行指標 ・バランススコアカードのアプローチ ・ビジョンやバリューの共有 ・組織品質の管理 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 第二章 組織の序列を流動化させる ・・・・・・・・・ 5 【1】秩序維持という階層の機能と価値観としての序列 【2】序列固定化の弊害 【3】制度精緻化では流動化できない 【4】序列流動化の方法論 【5】序列重視から機能重視へ 【6】4つのフェーズ 【7】健全な序列流動化を生むステータスオークション ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 第三章 柔軟で自立的な組織マネジメントを実現する ・・・・・・・・・ 5 【1】柔軟なチームの特徴 【2】目標管理はなぜうまくいかないのか 【3】個人の役割と目標が固定的か柔軟化 【4】抽象性の高いメッセージの伝達 【5】柔軟な組織のリーダーのマネジメントスタイル 【6】支援的マネジメントスタイル ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 第四章 リーダーシップを開発する ・・・・・・・・・ 5 【1】リーダーの人材要件の重層性 【2】人材タイプによる重要要件の違い 【3】個人の役割と目標が固定的か柔軟化 【4】リーダーに求められる能力と資質 【5】コンピタンシーとしての WHAT 構築能力 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 3
  4. 4. 【6】リーダー育成確保の方法論 【7】リーダーシップを育む土壌 ・ソニーのケース ・ミスミのケース ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 第五章 自立組織を実現している企業 ・・・・・・・・・ 5 【1】事例紹介 ミスミ 【】ミスミの制度 導入プロセス 【】ED コントライブ 【】PD 制度 【】導入プロセス 【】アメーバ経営 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 第六章 個人主導のキャリアマネジメント ・・・・・・・・・ 5 【】柔軟で自立的なキャリアマネジメントを実現する 【】事例紹介 リクルート ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 第七章 成果主義に納得性をもたらす 360 度多面的評価 ・・・・・・・・・ 5 【】事例紹介 GE 【】GE 評価制度 【】導入プロセス ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・ 5 4
  5. 5. 第一章 自立性の高い組織を構築する 1. ピラミッド組織から自立組織へ 自立と自律 仕事には、WHAT・HOW・DO・CHECKの四つのフェーズがあり、全体で一つのサイクルが形成される。何を なすべきかという問題発見や課題設定(WHAT)が行われた、それを誰がいつまでに行うかという方法論(HOW) に分解し、実際に実施し(DO)、その結果を検証する(CHECK)。検証により、新たなWHATが設定されたり、 HOWの入れ替えが行われたりする。 新たな問題発見も過大設定も行われず、検証もなされないような同じ仕事の単純な繰り返しでは、現代 の変化の時代には到底対応できない。WHAT・HOW・DO・CHECKのサイクルが、会社全体の経営から個別の仕 事への対応まで、さまざまなレベルで回っていくことが要求される。 このサイクルのなかでも、そのスタートとして最も重要なポイントになるのがWHATの項目である。この WHATを自ら作り出し、生み出し続けることができることを自立と呼ぶ。さらにWHATの構築だけでなく、そ れをHOWに分解し、DOを行い、その結果をCHECKして、次なるWHATやHOWへと展開し、自らのサイクルを回し ていけることを自律と呼ぶ。そして、自立組織とは、自立的にWHATを構築し、自律的に仕事のサイクルを 回していくことができる組織をいう。(以下、自立といった場合、狭義の自立と自律の両方を含む)。 現代においては、企業の組織はピラミッド組織からフラット組織へと移行していくことが求められてい るといわれるが、組織の自立性の観点から考えたとき、フラット組織という呼び方が必ずしも本質的でな いことがわかる。 今の時代に本当に変革が求められているのは、ピラミッド組織のような階層の数よりも、組織の自立性 の問題である。組織の自立性が高まらなければ、無理に階層を減らしても混乱を引き起こすだけだ。自律 組織になれば必要な組織階層の数は結果として減ることになるが、むしろ数が減るというより階層が柔軟 化するといった方がより本質的だろう。つまり、ピラミッド組織からフラット組織へではなく、ピラミッ ド組織から自律組織への変化が求められているのである。 第一線での組織の自立性が高まれば高まるほど、上から下への統制が減るため、結果として組織階層の 数は少なくてすむようになり、フラットになる。とにかく、組織改革というと、組織上の階層をフラット にすることが目的化しがちだが、本質的には組織の自立性を高めることを目的とすべきであって、結果的 にフラット化すると考えるべきなのである。 <ポイント> 自立と自律 自立的な組織とは、自立的にWHATを自ら作り出し、WHAT・HOW・DO・CHECKのサイクルを自律的に 回すことのできる組織 そのためには組織の自立性を高めることが必要 組織のフラット化は目的ではなく結果でしかない 高い自立性が求められる経営環境とは しかしながら、求められる組織の自立性の度合いはその会社が置かれている経営環境によって異なる。あるいは、 複数の事業をお子案っている会社の場合、同じ会社のなかでもそれぞれの事業の取り巻く環境の違いによって、あ る組織につちえはきわめて高い自立性が求められるが、別の組織においては従来どおりのピラミッド的な組織が適 しといるようなケースもある。 まず考えなければならないのは、自立組織へと変革することが本当に緊急の課題になっているのかどうか。自立性 が必要であるとすれば、なぜ、どの程度まで高めていくべきなのか、組織を取り巻く経験環境を検討し、分析すること 5
  6. 6. である。 それでは、より自立的な組織でなければ競争に打ち勝てないような経営環境とはどのようなものか。以下に7つの 一般的な特徴をあげる。そのなかのいつくかでもあれはまれば、高い自立性が求められていると考えていいだろう。 【高い自立性が求められる経営環境】 ①市場成長率が低く、新規参入顧客が少ない ②顧客にとっての選択肢が多く、顧客が情報をたくさん持っている 顧客により高いレベルの満足度が必要となる。付加価値が必要にある。そのため、顧客に最も近い ところで判断し実行できる自立的な組織が必要。) ③利権や希少性のある原材料などを押さえる先行者利益が発生しにくい より第一線に近いところで頻繁に小単位の利益構造を作り込み、環境変化に柔軟に対応できるよう な自律組織への変革が急務。 ④設備投資など規模の経済で勝負しにくい 規模の経済が通用しなくなると、社員一人ひとりの創造性や自立性がきわめて重要な意味を持って くる ⑤競合企業が多数かつ種類も多様で絞りにくい 競合相手が増え多種多様化して敵を絞れなくなってくると、それぞれの組織で自分たちの競合相手 になりうる対策を常に自立的かつ分散的に考えていかなくてはならない。 ⑥デジタル化などによりスキルの陳腐化のスピードが速い 今必要とされる第一線で考え、自立的に習得していかなければ、組織として時代に対応できない。 スキルの獲得構造においても、きわめて自立性の高い組織が求められているのである。 ⑦競争のスピードが速く、戦略的意識決定と実施の迅速化がきわめて重要 スピード化の時代に、ピラミッド組織ではとても迅速な戦略意思の決定や実施はおぼつかない。し かし、階層を減らせばいいのか。6段階を4段階に階層を減らしても、意思決定のやり方を変えない 限り、スピードは1.5倍にしかならない。今求められているのは数倍から10倍近い速さであり、1.5倍 といったレベルではない。 重要なのは意思決定のやり方をそのものを変えることである。組織の第一線において、上まで上げ ずに自立的に決定できる部分を非常に大きく設定する。すなわち、人と組織のイノベーションによっ て、初めてスピードは圧倒的に速くなる。 <ポイント> 高い自立性が求められる経営環境 市場成長率が低く、新規参入顧客が少ない 顧客にとっての選択肢が多く、顧客が情報をたくさん持っている。 利権や希少性のある原材料などを押さえる先行者利益が発生しにくい 設備投資など規模の経済で勝負しにくい 競合企業が多数かつ種類も多様で絞りにくい デジタル化などによりスキルの陳腐化のスピードが速い 競争のスピードが速く、戦略的意識決定と実施の迅速化がきわめて重要 2. ソリューションビジネスと自立組織 組織の自立性はどのレベルまで必要か、もう少し具体的にいくつかのパターンに分けて考えてみたい。 第一にソリューションビジネスについて検討してみる。 6
  7. 7. ①商品価値から使用価値へ ソリューションを提供することより、顧客における使用価値を極大化させることが求められるように なっている。 ②第一線での自立組織が不可欠 何が顧客にとってベストであり、どのようなソリューションを売るべきかは、第一線の人間しかわか らない。つまり、何をすべきかという正解は顧客と接する部下が持っていて、上司が持っていないとい う世界になる。正解は部下本人しかわからない異常、上司は後ろから支援していくしかない。 ③顧客との利益相反を避ける「持たざる経営」 ソリューションビジネスにとって、なぜ、持たざる経営が重要かといえば、まずスピード経営に対応 するためである。しかし、それ以上に着目すべきは、持つ経営から必然的に出てくるシナリオが、ソリ ューションビジネスと相容れない点である。自分たちで資産を抱え込んでいればいるほど、その資産を いかに活用し、利益に結び付けるかというシナリオが生まれがちだ。その結果、会社と顧客との利益相 反の可能性が増えてくる。 ④顧客にWHATを聞くな 本当は顧客に「見たことがなかったが、こういうのが欲しかった」と思わせるのがソリューションビ ジネスのプロフェッショナルである。顧客に置かれている状況や基本的目的、問題意識を理解し、専門 的知識を駆使して今後の環境変化の技術革新の動向を読みながら、顧客が本当に求めているものを発見 し、WHATを提案する。それにより、顧客から信頼を得ることができれば、振り回されることなく、顧客 満足と向けが両立できる。 つまり、「客の0.5歩後を必死でついていく顧客満足」ではなく、「客の0.5歩先を行って、客を引っ 張っていく顧客満足」が可能になる。 3. 先行指標に基づくセルフマネジメント 結果指標より先行指標 自立組織を実現していくときに何よりも必要なのは、第一線がWHAT・HOW・DO・CHECKのサイクルを自ら 回していけるためのセルフマネジメントの仕組みである。それには、第一線に対して経営指標を提供して いかなければならない。経営指標を経営者や一部の経営幹部だけが持っているような状況では、第一線で はWHATを構築することは到底不可能だ。 経営指標のなかでも、自立組織にとって特に重要なのが先行指標である。先行指標とは、会社の業績の 動向を示す経営指標のうち、業績の動きに先駆けて動く指標のことである。将来的な業績につながるであ ろうと思われる先行指標が大切になるということだ。その典型が顧客満足度や顧客継続率である。 また、同じ収益指標でもくくり方を変えると、それを重要経営指標としたときの第一線の行動は大きく 変化しうる。顧客生涯収益という概念などその典型である。個別の顧客から継続的にどれほどの収益をあ げているかを示す指標だ。例えば、自動車の販売は、従来は製品別収益が重視されたが、顧客生涯収益は まったく発想が異なる。販売後の顧客満足度が高ければ、その後も、各種カー用品、部品、整備、車検な どの売上がかなりついてくる。一番大きいのは、3年ないし5年後の車の買い替え時に、また買ってくれ ることだ。顧客満足度が高ければ、高いほど顧客継続率も高くなり、顧客生涯収益は上がっていく。逆に 言えば、顧客生涯収益を見れば、どの組織で顧客満足を軸とした健全な利益が実現され、どの組織では不 健全なのかが判断できる。 これまでは、儲けの目標を第一線にまで分解し、組織の成果志向性を高めようとする手法を多くの企業 が行ってきた。それは決して、今求められている成果主義ではなく、あくまでも結果主義の考え方であっ た。また、結果を出すならば、方法は本人に任せ、やり方の是非は問わないといった、古いタイプの自立 組織もこれまでよく見られた。それは、新しいマーケットがどんどん伸びているような高度成長、ないし は急成長の状況においては、一つの方法論としてきわめて有効に機能した。しかし、マーケットの成長率 が低下したにもかかわらず、依然、結果指標を重視すると、第一線は目先の数値を追うだけの短期志向に 7
  8. 8. 陥り、顧客との利益相反が生じやすい。 結果指標ではなく、全社員が先行指標へのコミットメントを高め、自分たちがチームとしてどのように これを高めていくかという意識を共有していく。これがセルフマネジメントの仕組みのベースとなり、次 のWHATへとつながり、次のサイクルが回っていくのである。 <ポイント> 結果指標より先行指標が大切 第一線がWHAT・HOW・DO・CHECKのサイクルを自ら回していけるためのセルフマネジメントの仕組 みを築くには、第一線に対して経営指標を提供しなければならない その中でも先行指標を提供することが大切。これがセルフマネジメントの仕組みのベースになる 先行指標とは、会社の業績の動向を示す経営指標のうち、業績の動きに先駆けて動く指標のこと 組織のフラット化は目的ではなく、結果でしかない 同じ収益指標でもくくり方を変えると、それを重要経営指標としたときの第一線の行動は大きく 変化しうる 今までの成果主義とは、結果主義でしかなく、短期志向に陥り、顧客との利益相反が生じやすい バランススコアカードのアプローチ 先行指標を重視する経営には、いくつかの方法があるが、近年米国で注目されているのが、結果指標と 先行指標を組み合わせたバランススコアカード1 と呼ばれる手法だ。 簡単に説明すると、さまざまな指標のなかでも4つの分野、すなわち、①財務指標、②オペレーション 指標(事業の運営指標)、③顧客市場指標、④組織社員指標のなかから、その会社や事業にとって重要と 思われる指標をバランスよく、それぞれ2つないしは3つ、合計8~10選び出す。 一つ目の財務指標は、PL、BSをはじめ、ROEやEVAなども含まれるがあくまでも結果指標である。二つ目 のオペレーション指標は、例えば、航空会社にとっての定時出発率などオペレーション上のトラブルの少 なさや提供する商品やサービスの品質、石油精製会社にとって原油からガソリンを精製するユニットコス トなど、それぞれの業界のオペレーション部分で競争力の源泉となるような指標である。三つ目の顧客市 場指数は、顧客満足度や顧客継続率、顧客生涯収益、マーケットシェアなど。そして、四つ目の組織社員 指標は、社員のコミットメントの度合い、意識調査の結果、あるいは、社員の育成や組織学習などをなん らかの形で評価したものなどが使われる。 これらのなかから選び出した指標について、来年、再来年の目標を明確に打ち立て、その目標を達成す るために行うべきことにプライオリティをつけて組織的に展開していく。その際、経営者や経営幹部ばか りでなく、第一線のリーダーや社員たちも、会社全体のバランススコアカードの指標とリンクを取りなが ら、自分たちの目標を立て、行動計画を作り上げ、実現していく。そして、経営幹部自身のボーナスに加 えて社員全体のボーナスバジェットも、単に財務指標だけでなく、選び出した指標全体の達成率で決めて いく。これがバランススコアカード・アプローチの考え方である。財務指標以外は、先行指標が大きなウ ェートを占めていることがわかるだろう。 同じように欧米で関心が高まっているステークホルダー経営と呼ばれる形態も、先行指標経営の一つと いえる。ステークホルダーとは、一言で言えば、企業活動による利害関係者(もしくは利害関係のあるも の)を意味する。企業にとってもっとも重要なステークホルダーは株主、社員、そして顧客。三大ステー クホルダーと呼ばれている。 しかし、ステークホルダー経営においては、株主、社員、顧客だけでなく、この概念をより広くとらえ る。例えば、会社の取引業者や納入業者といった具体的な存在から、地域社会、より広い社会全般、さら 8 1 1994 年に、カプランとノートンという二人の経営学者がハーバード・ビジネスレビュー詩に論文を寄稿して提唱したことから広まった。
  9. 9. に会社によっては、地球環境や人権といった普遍的なものもステークホルダーととらえることもある。 このように広くとらえた、すべてのステークホルダーの満足度、要望などを調査し、それに基づいて会 社の課題を設定し、その課題に取り組む姿勢を公に公表してしまうことで自らを縛り、結果としてステー クホルダーとの利益の一致を目指す。そして、ステークホルダーの利益に合った経営をしているかどうか を先行指標としてチェックし、セルフマネジメントに使用していく。これがステークホルダー経営だ。 ただ、顧客満足度などは、比較的数値化しやすいが、ステークホルダーの設定の仕方によっては、その 利益と合致度の評価が難しいものもある。そうした場合は、そのステークホルダーの利益を代弁してくれ るような外部の専門家による評価を取り入れる。例えば、地球環境を自社のステークホルダーにとらえて いれば、地球環境の保全のための自社の具体的な取り組みについて、環境保護団体にアンケート調査を行 って評価してもらい、その結果を毎年公表している企業もある。 このように、ステークホルダーを多面的に設定し、多様な先行指標をバランスよく取り入れている点に おいて、バランススコアカード・アプローチの考え方に近いといえる。 ところで、日本でも急速に拡大しているスターバックスコーヒーにおいては、ユニークな先行指標の仕 組みを取り入れている。ミステリーショッパーと呼ばれる訓練された外部調査員が、一つの店舗について 最低で月一回、客を装って来店し、コーヒーの味、店の清潔度、接客の態度・・・・・などなど、50以上 の詳細な項目について評価し、100点満点で総合評価を行って、A4サイズ一枚の報告書のまとめ、店にフィ ードバックする。店長以下全員がそれを見て反省点を発見し、翌日に向け、改善するためには何を行うべ きかを話し合う。 つまり、ミステリーショッパーによる評価は、第一線の店長によるセルフマネジメントのための重要な 先行指標になっているわけだ。日本のスターバックスコーヒー2 では、店長の賞与の評価の3分の1は、月々 のポイントで決まるといわれるほど、非常に大きな意味を持っている。 <ポイント> 先行指標を重視する経営:バランススコアカードのアプローチ 結果指標と先行指標を組み合わせたものに、バランススコアカードがある 4つの分野、①財務指標、②オペレーション指標(事業の運営指標)、③顧客市場指標、④組織 社員指標先行、の指標の中から、それぞれ2つないしは3つ、合計8~10選び出す 【財務指標】:財務指標は、PL、BSをはじめ、ROEやEVA 【オペレーション指標】:オペレーション上のトラブルの少なさ、提供する商品やサービスの品 質 【顧客市場指標】:顧客満足度や顧客継続率、顧客生涯収益、マーケットシェア 【組織社員指標先行】:社員のコミットメントの度合い、意識調査の結果、あるいは、社員の育 成や組織学習 選び出した指標について、来年、再来年の目標を明確に打ち立て、その目標を達成するために行 うべきことにプライオリティをつけて組織的に展開していく 経営幹部自身のボーナスに加えて社員全体のボーナスバジェットも、単に財務指標だけでなく、 選び出した指標全体の達成率で決めていく 9 2 スターバックスコーヒーの
  10. 10. 4. 自立組織実現のための基本的要件 第一線のリーダーの存在 自立組織実現のうえで必要なことは多々あるが、主なものを挙げてみよう。先行指標によるセルフマネ ジメントの仕組みとともに不可欠ともいえるのが、第一線におけるWHAT構築能力の高いリーダーの存在で ある。社員一人ひとりのWHAT構築能力ももちろん大切だが、それ以上に、現場で顧客に近いところにいる リーダーがどれだけWHAT構築能力を持っているかが、その組織の自立性を大きく左右する。 もちろん経営者にWHAT構築能力が求められるのは言うまでもない。これまで、中間管理職の多くは、そ のWHATをHOWに分解する能力が求められていた。しかし、その役割が大きく変わったことは、すでに述べた とおりだ。WHAT構築能力を持つリーダーが第一線に数多く配置されていればいるほど、自立組織が生み出 されていく。 コーチング的マネジメントおよび少ないルールと多くのリソース 自立的組織におけるリーダーのマネジメントスタイルは管理的・命令的であるよりは、コーチング的な ものとなる。マニュアルやルールなど、こうしなければならないという縛りはできる限り少なくし、その かわり、自分で考え、行動しようとする人間に対し、会社として与えうるリソースはできる限り多く用意 する。これも自立組織における重要な要件となる。 仕事へのコミットメント 一方、リーダーが管理的・命令的でなく、コーチング的なマネジメントを行っても、社員一人ひとりの 仕事へのコミットメントの質が低い状態では、当然、パフォーマンスは期待できない。ポイントは動機づ けにある。これまで動機づけは様々な形で行われてきたが、自立組織になってくると、報酬や地位でつる といった形のインセンティブが機能しにくくなる。命令が単純化・具体化されていればそれも可能だった が、それが抽象化され、具体的に何をなすべきかを自分で考えなければならないと、あるいは報酬ではな くその仕事そのものへの納得やコミットメントが強くないと人は動かせなくなる。WHAT構築能力を持ち、 コーチング的なマネジメント能力に優れたリーダーと、自ら仕事へコミットメントしていく社員の組み合 わせがあって、自立組織は成り立つのである。 ビジョンやバリューの共有 組織の自立性が高くなると、ややもすると、それぞれの組織の方向性がバラバラになる可能性も出てく る。そこでビジョンやバリューといった抽象性の高いメッセージをいかに共有できるかが、会社全体とし て非常に大きなテーマとなる。そのビジョンやバリューを社内に明確に提示することが、今、経営者の大 きな役割となっている。 例えば、「世界でもっとも賞賛される企業」とされるGE3 は、社員がいかに高い実績をあげたとしても、 そのプロセスにおいて、企業として堅持するバリューに反した行為を行っていれば、評価の対象外となる。 それほどに、ビジョンやバリューの共有は自立組織にとって大きな位置づけがされている。 組織品質の管理 ビジョンやバリューを徹底的に浸透させ、全体的な方向づけを行いながら、その一方でラインの第一線 における自立性を高めていく。そのとき、第一線での自立的な動きが、結果的に全体最適に結びついてい 3 GE のバリューについては、○を参照 10
  11. 11. るかどうかを担保するために、組織品質を管理することも重要になってくる。組織品質とは、簡単に言え ば、組織の健全性や自立性、強さのことだ。英国でも経営品質重視の流れで組織品質を重視する企業が非 常に増えている。 ビジョンやバリューはどの程度浸透しているか、一人ひとりの社員がそれをどれだけ正しく理解し、ア ライン(軸が合致)した組織行動をとっているか。そして、どれほど自立的に自分の仕事をデザインして いるか。反対に細部まで上司の指示命令で動いているようなことはないか。上司はリーダーシップを十分 に発揮し、マネジメントスタイルはコーチング的になっているか。人材の育成抜擢は十分に行われている か、それとも中長期的な人材の育成を犠牲にしたうえでの業績になってはないか・・・・・・などなど、 さまざまなチェックポイントからの組織品質を測定し、それを改善のアクションにつなげていくという連 鎖の仕組みを定着さえていく。組織品質こそが究極の先行指標といえるのではないだろうか。 <ポイント> 自立組織実現のための基本的要件 第一線におけるWHAT構築能力の高いリーダーがどれだけWHAT構築能力を持っているかが、その組 織の自立性を大きく左右する 自立的な組織におけるマネジメントスタイルは、コーチング的マネジメントで、少ないルールと 多くのリソース 社員一人ひとりの仕事へのコミットメントが高い状況であることが重要 組織としての全体的な方向づけには、ビジョンやバリューの共有が不可欠 経営品質(組織の健全性や自立性、強さ)を管理することが大切になる。これが究極の先行指標 である 11
  12. 12. 第二章 組織の序列を流動化させる 1. 秩序維持という階層の機能と価値観としての序列 ピラミッド組織における組織階層の意味は、指示命令による全体性敵の秩序維持にあった。これに対し、 自立組織においては組織階層ではなく、ビジョンやバリューといった抽象的概念や方向性の浸透とコーチ ングを通じて全体最適を維持することになる。 ピラミッド組織において、組織階層は全体最適の秩序を維持する機能としてつくられたが、機能として の組織階層を価値観としての序列に変えることにより、秩序維持をより容易にし、より効率的な組織運営 が図られたのである。その結果、組織にとっては秩序維持のための序列が社員にとっては人生の目標とな っていった。序列順位が上がれば、給料があがる。机も大きくなる。このような世界を見せることによっ て序列志向を高め、人生の目標とさせた。 これに対し、自立組織において組織階層はどのような意味を持つのだろうか。実は自立組織へと変わっ ても階層がまったくなくなるのではない。個々の自立性が高まることにより、上意下達が減り、階層の数 が減るのは間違いないが、階層そのものがまったく必要なくなるわけではない。しかし、階層の機能は大 きく変わってくる。自立組織においては、結果的に組織品質として全体最適の度合いが測られることはあ っても、予定調和的に事前につくりあげられた全社最適のシナリオはない。 したがって、階層の役割は、全社最適の秩序維持ではなく、第一線に対する方向付けや支援を行うこと にある。ここが大きな違いだ。 つまり、階層の機能の違いが重要なのであって、数の多い少ないは一義的な問題ではない。一般にピラ ミッド組織の反対概念として、階層の少なさを意味するフラット組織という名称が使われるが、本論でこ れを使わず、ピラミッド組織と自立組織を対置させているのはそのためである。 2. 序例固定化の弊害 序列の過剰な重視はどのような弊害をもたらすようになったのか。もっとも大きな問題は、序列の固定 化による弊害である。 例えば、実力が伴わなくなってきたからといって、簡単にポストからはずすようなことを行うと、モラ ル上の大きな問題がおきる。そのため序列が動かせない。つまり、実力が伴わない多くの人間が上位ポス トに就いているのに、ポストが固定化してしまう。序列としての価値観が強固に定着している組織ほど、 こうした現象が多く見られるようになる。 その結果、きわめて内向きで、外部環境に対応できない非自立的な組織ができあがってしまう。なにし ろ、序列をあがって偉くなることが人生の目標であるから、外部環境に対しては関心を持たず鈍感になる。 顧客の利益より上司の意向を重視するため、顧客志向性が極端に低くなる。 <ポイント> 秩序維持という階層の機能と価値観としての序列 ピラミッド組織における組織階層は全体最適の秩序を維持する機能 自立組織における階層の役割は、全社最適の秩序維持ではなく、第一線に対する方向付けや支援 を行うことにある 従って、階層の機能の違いが重要なのであって、数の多い少ないは一義的な問題ではない そのような意味で、ピラミッド組織に対置されるのは、フラットな組織ではなく、自立組織とな る 日本では、職能資格制度、米国ではジョブサイズ(職務等級制度)による序列のシステム化を図 った。この制度も環境変化に対応できなくなり、新たな進化が求められるようになった 12
  13. 13. 3. 成果主義の導入は、給与制度ではなく人材の流動化から このように実力が伴わない上位ポストに就いたまま固定化した状態を打破するにはどうするか。まず成 果主義の導入、給与制度の改革を考えるだろう。しかし、成果主義とは、給与制度から始まるのではなく、 人材の流動化から始まることを強く認識すべきである。 つまり、報酬基準よりも、人材に関する基準を抜本的に見直し、序列の流動化を図る。求められるのは 思い切った人材登用である。能力と意欲のある人間を上位ポストに抜擢し、機能していない人間には外れ てしまう。 これはよく混同されがちだが、報酬基準としてどのようなものを持つべきかという議論と、どのような 人材登用の基準を持って、どのような人間を抜擢し登用していくかという議論とは基本的に異なるところ がある。 報酬基準に関してはよりオープンでわかりやすい基準を用意し、全社員に対して毎年一回、給与見直し やボーナスのため、その基準に基づいて評価を行わなければならない。その際、本人の給与にリンクする 重要な評価項目については、社員からの一定の納得性を得られなければならない。 一方、人材登用のおいては、納得性よりも効果性、すなわち、実際にそれを使って効果が出るかどうか が重要になる。コンピタンシーも人材登用の歯留まりを挙げるための試みとして注目されてきたものであ る。それを詳細化・精緻化することによって、人材登用に対する社員の納得性を担保させるために使われ るものではない。人材登用への納得性は制度ではなく選ばれた人物と、その人の成果を見形成させるもの だ。 人材登用とは、これまでその仕事をやったことのない人間に思い切ってやらせてみることである。過去 の違う仕事における成果は一つの参考にはなっても、これからの仕事の成果を直接保障するものではない。 過去の成果だけでは、その人がどれほどポテンシャルを持っているかわからない。そこで、抽象性の高い コンピタンシーを科学的な分析指標によって測り、それに基づいて思い切った登用を行い、同時に人材登 用の歩留まりを高める。こういった序列の流動化が、米国では90年代に多くの大企業で積極的に推進され た。 プロモータビリティという概念が米国で生まれてきたのも、この過程である。プロモータビリティとは、 直訳すれば、「その人の持っている昇進する力」とでもいえばいいのだろうか。企業側からいえば、その 人をどこまで昇進させることができるかどうか、要は将来に向けての器の大きさのようなものだ。 この人間は第一線のリーダーとしてチームを引っ張っていけるか、ある程度、試練と経験をつめば、一 つのビジネスユニットのリーダーレベルまで上がっていくことができるか、あるいはチームリーダーレベ ルも難しいか。リーダーポジションの上下流動化を積極的に進める会社ほど、その人の中長期的なポテン シャルを若いときから継続的に評価していくケースが増えている。リーダー選びから次期CEO選びに至るま で、人材登用に非常に力を入れるGE4 などは、その典型である。評価には必然的に主観的な判断も入ること になる。いずれにしろ、人材登用基準の制度精緻化では、序列の流動化は実現できない。 <ポイント> 成果主義の導入は、給与制度ではなく人材の流動化から行う つまり、報酬基準よりも、人材に関する基準を抜本的に見直し、序列の流動化を図る。求められ るのは思い切った人材登用 報酬基準と人材登用基準は違う 報酬基準で重要なのは、納得性。よりオープンでわかりやすい基準。本人の給与にリンクする重 要な評価項目については、社員からの一定の納得性が必要 人材登用では、納得性よりも効果性、すなわち、実際にそれを使って効果が出るかどうかが重要 人材登用とは、これまでその仕事をやったことのない人間に思い切ってやらせてみること 13 4 GE のリーダー選び、次期 CEO 選びについては、
  14. 14. 4. 序列流動化の方法論 それでは、序列を流動化させるための方法論にはどのようなものがあるだろうか。 日本の企業においては、役職定年制、給与の減額が行われているが、方法論としてはかなりの限界が見 えつつある。 これに対し、米国ではどのような方法論が行われているのか。一般的には、HPIプログラム5 (ハイポテン シャル・インディビジュアル・プログラム)が導入されるケースが多い。人材分析によって、ポテンシャ ルの高い人材を若いうちから発掘してプーリングし、異なった分野で経験させたり、高度なプロフェッシ ョナル教育を行うなど特別なプログラムを提供するなどの投資を積極的に行い、思い切った人材登用に応 えられるための予備軍を常に確保しておく。これはビジネス・リーダーだけに限らず、人事や経理財務な ど職種ごとに行われる。このHPIプログラムは上下流動化が行われることが前提になっているわけで、ハイ ポテンシャル人材がしっかりとプーリングできればできるほど、流動化が実現できるわけだ。 また、上下の流動化を進めるとき、恣意的な人材登用や降格が横行すれば、社内にはポリティックスや ねたみ、そねみで充満することになる。その歯止めとして、バリュー(行動指針)を重視した多面評価に 力を入れるケースも米国では増えている。GEのセッションC6 と呼ばれる評価の仕組みはその典型だろう。す べての管理職について毎年、それぞれの部門長と部門担当の人事責任者が、成果実績評価とバリュー評価 の二つの軸で評価を行う。GEにはリーダーシップバリューと呼ばれる全リーダーに求められる行動規範7 が あり、それに適合した行動をとっているかどうかを360度多面評価するのがバリュー評価であり、どんなに 高い実績を上げていても、それを実現する過程でのバリュー評価が一定以下のリーダーはポストから外さ れる。 また、GEにおいては、リーダーは部下のパフォーマンスをより高めていくことも求められている。その ため、セッションCにおいて、各リーダーは部下の中でもトップ25%とボトム25%に対する具体的なアクショ ンプラン8 も必ず求められる。トップ25%については、その人間をより背伸び(ストレッチ)させ、もうワン ランクアップさせるために何を行うのか、ボトム25%については、パフォーマンスを緊急に平均レベルまで 上げるための具体策を提示させる。そして、場合によっては、そのアクションプランのなかで昇格や降格 に結び付けていく仕組みになっている。 これは大手米国企業の日本法人であった話だが、会社の変革を進める過程で、米国本社の人事から、管 理職全員について、過去の実績や行動評価などをもとに上から下まで順位をつけるように命令がきた。そ こで、命令どおりに順位をつけたところ、トップ10%は直ちに昇格、ボトム10%は降格の処遇が下された。 なかなか流動化が進まない場合、最後の手段として相対評価を行い、その結果により上下を強制的に流動 化させる。緊急措置的な面もあるが、現にこのようなアクションを取る会社も少なくない。 <ポイント> 序列を流動化させるための方法論:HPIプログラム 若いうちから異なる経験をさせ、プロフェッショナル教育を行い、思い切った人材登用の予備軍 を育てておく HPIプログラムは上下流動化が行われることが前提 社内政治、ねたみ、そねみ防止のため、バリュー(行動指針)を重視した多面評価に力を入れる GEでは、すべての管理職に成果実績評価とバリュー評価(360度多面評価)の二つの軸で評価を 行う。要な評価項目については、社員からの一定の納得性が必要 高い実績であっても、バリュー評価が一定以下のリーダーであれば、ポストから外される GEでは、各リーダーは部下の中でもトップ25%とボトム25%に対する具体的なアクションプランも 必ず求められる。それによっては昇格や降格に結びつく 5 6 7 8 14
  15. 15. 5. 序列重視から機能重視へ 序列が固定化した場合、これを流動化していくのは改革の重要な方向性である。しかしながら、序列の 流動化だけでは限界があるのもまた事実である。 なぜなら、序列は価値観の問題であり、社員の心のなかにそれが根強く定着している場合、序列を流動 化できても、序列をあがることが人生の目標化している部分については、なかなか薄まらないからだ。そ のため、内向き志向は依然続き、変化対応能力の不足や顧客志向性の欠如などの問題は、どうしても残っ てしまう可能性がある。そればかりか勝ち組、負け組という発想を強め、圧倒的多数の負け組みをつくる ことになる。 このときアップオアアウト9 、つまり昇格しなくなった時点で退社する仕組みが取り入れられるなら、負 け組みの組織コミットメント低下による悪影響はかなり防止できる。欧米系プロフェッショナルファーム などで行われる伝統的方法だ。 また、より大きな改革のステップとして、序列重視から機能重視への転換が求められるようになる。こ の転換をより明確に理解するため、序列の概念をもとに組織のあり方を整理したのが以下である。 【序列という概念による組織の整理】 ①序列重視+序列固定的(年功序列組織) ②序列重視+序列流動的(相撲型組織) 例) 実力主義。GE。 ③機能重視+機能固定的(野球型組織) 例) スペシャリストの集団。 ④機能重視+機能流動的(サッカー型組織) 例) 序列よりも機能を重視し、その機能さえ流動的な組 織。もっとも先進的な組織。 流動的 機能重視 <ポイント>序列という概念による組織の整理 固定的 相撲型組織 サッカー型組織野球型組織 年功序列組織 序列重視 四つのフェーズ 15 9
  16. 16. ここで、序列の概念を軸に組織がどのように進化してきたか、そして、今後どの要綱で変化していくか を4つのフェーズでもう一度整理しておく。 【組織序列の4つのフェーズ】 第一フェーズ:機能としての階層から価値観としての序列へ 第二フェーズ:人生の目的化と序列の制度化 (序列の固定化) 第三フェーズ:序列の流動化 (序列重視の価値観) 第四フェーズ:序列重視から機能重視 (自立的な組織) 6. 健全な序列流動化を生むステータスオークション ステータスオークションとは、直訳すれば、"実力の競り売り"という意味になるが、動物生態学の用語 で、どちらが実力的に強いかを競うとき、実際に闘うのではなく、自分の胸を叩く、歯茎を剥き出しにす るなど、なんらかの示威行為をお互いにすることによって優劣を決め、服従あるいは禅譲の意思を表明す ることをいう。 つまり、ステータスオークションにより日常的にお互いの強さを試し合い、最終的な殺し合いをせずに、 序列の流動化を実現し、最も力のあるものが最上位に座るという序列の秩序が担保される。ステータスオ ークションが行われるのは、常に最強のサルをボスに就けることにより、群れの力を維持し、他の強い群 れに襲われる危険性を避けるためだ。 ビジネスの世界においても、序列の流動化をより効果的に実現するうえで、このステータスオークショ ンが日常的にどれだけ機能しているかが、大きなポイントになる。つまり、何らかの形で相手の実力を知 ると同時に、自分の実力を知ると同時に、自分の実力に気づく場を日常的に設けることができるかどうか。 例えば、上司も部下も一堂に介し、創造的なアイデアや企画を自由に提案し合うブレーンストーミング、 社内公募制の整備などにより部下が上司を選べるようにする市場原理型の柔軟なチーム組み替え10 、それぞ れが出した成果をみんなが知ることのできる場の設定など、さまざまな形でステータスオークションが考 えられる。 ブレーンストーミングでただ黙って聞いているだけで質問にも明確に答えられないリーダー、社内公募 しても部下が集まらない、あるいは、自分の部下が社内公募にどんどん応募して離れていくようなライン 長、明らかに成果を出していないことが誰の目にもわかってしまうような上司などは、現実に実力がない ことがされけ出されてしまう。 GEで行われているワークアウト11 と呼ばれる場も、スタータスオークションの一種と考えられる。それぞ れの職場ごとに一泊二日などの期間を設定してTQCの発表会のような場を設ける。そして、第一線の社員た ちに自分たちの職場についてディスカッションさせ、一人ひとりに具体的な問題定義と解決案を次々発表 させていく。職場のリーダーはすべての提案に対してそれを行うか行わないかを全員の前で即決即断しな ければならない。なぜなら、GEのリーダーシップバリューには、即決即断も要件の一つに入っているから だ。イエスと答えれば、リーダーとして遂行責任を負わなければならないし、ノーと却下すれば、アイデ アを出した人間に対し、明確な理由づけと今後の方向づけを与えなければ、納得性は得られない。その場 にはリーダーを統轄する役割の統轄責任者も出席し、後ろに座って一部始終を聞いている。まさに、リー ダーとして機能しているかどうかが試される場である。こうしたステータスオークションの場がいろいろ な場面で設定されることにより、自然な流動性が担保される。 これに対し、日本の場合、序列上位の人間に対し、恥じをかかせないことが部下の最大の使命となって いるような組織が依然多く、ステータスオークションが成り立ちにくい土壌がある。しかし、ステータス オークションがあまりにも少なく、序列の固定化が進むと、サルの群れが他の強い群れに襲われるように、 10 11 ワークアウト 16
  17. 17. ある日、外部からの資本の論理によって一気に風穴をあけられるようなハードランディングを余技なくさ れる可能性もある。 米国でも、序列が硬直化していた企業が一気に流動化を迫られ、改革志向の強い経営トップやリーダー に交代せざる得なくなったケースが数多くあるが、そのきっかけは、資本化によるコーポレートガバナン スという名の一種の"暴力的介入"であったことを深く記憶に留めるべきである。 <ポイント> 健全な序列流動化を生むステータスオークション 序列の流動化をより効果的に実現するうえで、このステータスオークションが日常的にどれだけ 機能しているかが、大きなポイント つまり、何らかの形で相手の実力を知ると同時に、自分の実力を知ると同時に、自分の実力に気 づく場を日常的に設けることができるかどうか 例)ブレーンストーミング(一堂に介し、創造的なアイデアや企画を自由に提案し合う) 社内公募制(部下が上司を選べるようにする市場原理型の柔軟なチーム組み替え)、 成果報告プレゼン大会(それぞれが出した成果をみんなが知ることのできる場の設定) GEではワークアウトとよばれる場がある それぞれの職場ごとに一泊二日などの期間を設定してTQCの発表会のような場を設ける。そして、 第一線の社員たちに自分たちの職場についてディスカッションさせ、一人ひとりに具体的な問題 定義と解決案を次々発表させていく。職場のリーダーはすべての提案に対してそれを行うか行わ ないかを全員の前で即決即断しなければならない。なぜなら、GEのリーダーシップバリューには、 即決即断も要件の一つに入っているからだ。イエスと答えれば、リーダーとして遂行責任を負わ なければならないし、ノーと却下すれば、アイデアを出した人間に対し、明確な理由づけと今後 の方向づけを与えなければ、納得性は得られない。その場にはリーダーを統轄する役割の統轄責 任者も出席し、後ろに座って一部始終を聞いている。 リーダーとして機能しているかどうかが試される場である 17
  18. 18. 第三章 柔軟で自立的な組織マネジメントを実現する 1. 柔軟なチーム組織の特徴 自立組織を実現するには序列を流動化することが大前提だが、一方組織における日々に運営はどのよう にすればよいだろうか。いかなるマネジメントが必要なのだろろうか、機能の流動化、サッカー型組織の 構築はどのように行うのか。 柔軟なチーム組織とはそもそもどのようなものか。まずは、その特徴を十分に把握しなければならない。 以下主な特徴を列挙する。 ①業務波動の山崩し: 一人ひとりの業務を限定せずに、業務の繁閑の波動の状況に応じて、手の空いている人はより忙しい 人の仕事を手伝う。 ②目標や使命の共有と仕事の柔軟な分担: より柔軟度が高いチームでは、仕事分担をはじめに固定せず、短い単位で進捗状況を判断し、それに 応じてその都度、仕事を分担していく。 ③時限的組織であること: チーム組織は一般的に、日常的業務のみを行う部や課の箱型組織と違って、特定の改革、改善、ある いは、新たな創造など、変化を起こすような業務を担当することが多い。そのような場合は、チームは 永続的でありえず、存在そのものが時限的になる。 ④どこに所属したいではなく何をしたいか: 柔軟なチーム組織のおいては、どのチームに所属していようと、それ自体ではその人の仕事を意味し ない。 ⑤チーム自身の課題設定の自立性: 単に仕事の分担が柔軟なチーム組織と、自立性の高いチーム組織との大きな違いは、チーム自身が課 題設定を行うことができるかどうかにある。 2. 目標管理はなぜうまくいかないのか 目標達成度を給与制度とリンクさせたことによる弊害 チームとしての明確な使命と目標を設定し、それを共有したうえで個別のメンバーがどのような目標を 持ち、どのような仕事を分担するかという仕事分解についても柔軟性を持たせるのが柔軟なチーム組織だ が、仕事分担の柔軟性が高ければ、当然、報酬配分の柔軟性も高くなる。事前に前者一律の評価と報酬配 分のルールを詳細に決めておくようなことはいない。 ただ、チームとしての明確な使命と目標を設定することは大前提としても、仕事分担と報酬の配分の仕 方については、現実にはさまざまな方法が行われている。それは仕事の性格にもよる。つまり、チームと しての報酬を重視するのか、それとも、個人別の報酬管理をより重視するのかは、仕事分担の柔軟性と関 係してくるわけで、それは仕事の性格による部分も大きい。 チーム内での仕事分解の方法として、一般的に広く行われているのが目標管理の手法だ。チームとして の使命や目標を設定したら、目標管理によって仕事を分解し、一人一人に落とし込んでいく。ところが、 目標管理は現実問題として、多くの企業においてうまく機能していない。それはなぜなのか。 目標管理は決して新しいマネジメント手法ではなく、1950年代にかの有名なピーター・ドラッカーが考 案したものであるといわれる。もともとは、変革的な仕事へのコミットメントを高めるためのものだった。 米国では当時、定型的業務を職務記述書に箇条書きにし、そのとおりに職務を遂行させるマネジメントが 行われていた。誰がその仕事を行うかに関係なく、安定したアウトプットが出てくるようにする管理手法 である。しかし、これでは仕事のなかにダイナミズムが出ないという問題が生じてきた。 18
  19. 19. そこで、先見性のあるドラッカーが考えたのが目標管理(Management By Objective)の手法だった。自 分は今年、何を目指すのかという具体的な目標を設定し、その目標にどのように近づいていくのかという プロセスにおいては、かなりの部分、本人に自由裁量を持たせる。つまり、職務記述書に管理されるので はなく、自分も設定に参加した目標に対してコミットしていくことにより、変革的な仕事へのドライブを 高めていこうとする組織運営の仕組みだった。 この目標管理が米国では80年代から、日本では90年代あたりから、報酬制度と直結するようになってい きた。すなわち、個人別にできる限り、客観的かつ定量的な目標を期首に設定し、一年間なり半年間なり たった期末の時点で、目標に対する達成率によって評価を行い、何らかの形で報酬にリンクさせていく方 法が米国や日本において給与制度改革とともに取り入れられるようになっていった。その是非については いろいろ議論があるが、目標管理がうまく機能しなくなったきっかけは、報酬制度とのリンクにあったこ とは間違いない。目標の達成率をあまりに重視するようになったことから、さまざまな弊害が起こるよう になったのだ。 典型的な弊害は、結果数値が重視されたため短期志向が強まってしまったことである。目標を客観的か つ定量的にしようとすればするほど、売上や利益など、財務系指標、金に計算できる指標ばかりを目標に 設定するようになる。すると、顧客満足度など将来に向けた中長期的な収益に結びつくことではなく、単 に期間内に結果に結びつくことしかやらなくなる傾向が強まった。 もう一つの典型的な弊害は、安全志向の高まりである。達成率が重視されるため、あらかじめ達成可能 な比較的低めの目標を立て、チャレンジングな目標には挑戦しようとしない人たちが増えてきたのだ。米 国での目標管理の最大の弊害はここにあったといわれる。 その教訓から、米国の企業はさまざまな改革を行った。なかでも、ストレッチゴール12 という概念はその 代表例だろう。本人も当然、ストレッチ(背伸び)したゴールを立てることが求められるが、それ以上に 上司であるリーダーも部下にいかにストレッチゴールを立てさせ、その力を伸ばしたかが評価の対象とな る。 なおかつ、達成率は達成率で評価を行うが、それを直接機械的に給与制度に結ぶつけるようなことはし ない。事業責任者や第一線のリーダーに全体のバジェットだけを与え、組織内での配分については、自由 裁量に大幅にゆだねる。13 このように目標管理は行うが、給与制度に直結させえるようなことはせず、評価 においてはプロセス評価を重視し、特にバリュー評価を強化していく考え方が、米国で今、一つの大きな 流れになっている。 目標管理の給与直結の弊害でもう一つ付け加ええるなら、数字重視のため仕事の質が低下するという問 題もある。それぞれの仕事には数字としては現れにくいが、いろんな意味で質を支えているものがある。 しかし、数字を意識するあまり、その部分がなおざりになり、質の低下を招くのである。 19 12 <ポイント> 目標管理と給与制度を結びつけてはいけない 目標管理がうまく機能しなくなったきっかけは、報酬制度とのリンクにあった 典型的な弊害は、結果数値が重視されたため短期志向が強まってしまったこと もう一つの弊害は、安全志向の高まり。達成率が重視されるため、あらかじめ達成可能な比較的 低めの目標を立て、チェレンジングな目標には挑戦しようとしない人たちが増えてきた また、数字重視のため仕事の質が低下する そこで、ストレッチゴールが導入された 本人も当然、ストレッチ(背伸び)したゴールを立てることが求められるが、それ以上に上司で あるリーダーも部下にいかにストレッチゴールを立てさせ、その力を伸ばしたかが評価の対象と なる 達成率は達成率で評価を行うが、それを直接機械的に給与制度に結びつけない 組織内での配分については、自由裁量に大幅にゆだねる 評価においてはプロセス評価を重視し、特にバリュー評価を強化していく 13
  20. 20. 一律目標管理にそぐわない仕事が増えてきた さらに企業の実態に即していえば、目標管理のサイクルと合わないサイクルで回っている仕事もある。 Plan(仮説)・Do(実行)・See(検証)のサイクルは、業種や職種、同じ職種でも扱う商品や顧客の違い などにより、早いものもあれば、期間を要するものもある。目標の設定と成果の評価という目標管理のサ イクルと、仕事のサイクルがうまく合えば、その人にとって成果を出したタイミングで評価が行われるこ とになるが、サイクルが合わない場合、その人によって、必ずしもいいタイミングで評価されるとは限ら ない。 また、計画どおりに仕事が進むことが必ずしもいいとは限らない仕事も多々ある。基礎研究的な仕事は その典型だろう。では、目標と立てることに意味はないかというとそうではない。目標に向かって努力し ている過程で、思わぬ副産物が生まれ、それが予定とは違った形で商品化され、結果として利益に貢献す ることになった事例は枚挙にいとまがないだろう。 つまり、基礎研究のような仕事では、目標を立てそれに向かって頑張るプロセスが重要なのであって、 最初に当てた計画どおりに仕事が進まなくても問題ではなく、ましてや目標達成度を重視するなどは論外 となる。 さらにいえば、きちっとした計画を立てることそのものが難しく、なじまないものもある。例えば、非 常に変化の激しい業界で新規事業を立ち上げるような場合、最初に計画は立てても、日々その内容や計画 の数値が変わっていき、それでも立ち上げにこぎつけられればいいが、途中で当初予定していた事業のビ ジネスモデルそのものが根底から崩れてしまうこともありうる。となると、一年先の目標そのものが意味 をなさない。 あるいは、コンサルティング的な職種の場合、プロジェクトは顧客サイドの都合によってスタートし、 仕事の規模も、終了の時期も顧客の事情によって異なる。必ずしも、定常的に一定の仕事が動いているわ けではない。そのため、会社の給与制度で決められた昇給のタイミングで評価しようとしても、なじまな い部分が多い。むしろ、プロジェクトの節目節目ごとに、その人の目標達成度や成果貢献度を測るほうが 実態に即すことになる。 このように、全社一律の給与制度と直結した全社一律の目標管理は、現実的にはなかなかうまく機能し ない場合が多い。それは、目標管理の本質を考えれば、ある意味で当然のことであるともいえる。目標管 理は先ほど述べたように、組織運営を変革するための手法として生まれたものであって給与制度として生 まれたものではない。 そのため仕事の性格の違いによって、その運用の仕方も当然変わってこなければならない。基礎研究は 計画通り進むことが必ずしもいいとは限らないが、他方、商品開発も最終段階に入れば、日程どおりに市 場に新製品をリリースすることが至上命題となる。仕事の種類によって、プラン・ドゥ・シーのサイクル のあり方も違えば、目標どおりであることの重要性も変わってくる。 それを給与制度と直接的に結び付けると、硬直的で画一的な目標管理の運用が行われるようになり、そ れぞれの仕事の実態に合わないばかりか、逆効果として、組織のなかでの仕事の柔軟性が失われていくこ とになり、目標管理の本来の目的とまったく逆の方向に進む危険性があることを、十分に認識すべきであ る。 20 <ポイント> 一律目標管理の弊害 目標管理のサイクルと合わないサイクルで回っている仕事がある サイクルが合わない場合、その人によって、必ずしもいいタイミングで評価されるとは限らない 計画どおりに仕事が進むことが必ずしもいいとは限らない仕事も多々ある プロジェクトの節目節目ごとに、その人の目標達成度や成果貢献度を測るほうが実態に即す 全社一律の給与制度と直結した全社一律の目標管理は、現実的にはなかなかうまく機能しない場 合が多い 給与制度と直接的に結びつけると、逆効果として、組織のなかでの仕事の柔軟性が失われていく ことになり、目標管理の本来の目的とまったく逆の方向に進む危険性がある
  21. 21. 3. 個人の役割と目標が固定的か柔軟か 一人ひとりの仕事をマネジメント、その役割や目標によって、高いパフォーマンスを引き出すためのマ ネジメントスタイルはどのように違ってくるのか。個人の役割が固定的であるか、それとも流動的である か、個人の目標が固定的であるか、それとも流動的であるか、この二つの軸によって、スタイルは大きく 四つに分かれる。 役割 目標流動的 <ポイント>パフォーマンスマネジメントのスタイル 目標固定的 役割 目標約束型(数値目 標重視) 成果申告重視役割専門性の発揮・ コンピタンシー重視 目標とプロセスの精 緻な目標管理型 ①目標固定的+役割固定的 ⇒目標とプロセスの精緻な目標管理型 例) ソフトウェア開発、プログラマー ②目標固定的+役割流動的 ⇒数値目標重視の目標約束型 握りの目標管理という呼び方もする。 売上目標はきちんと決めるが、やり方は問わない。責任が高い立場ではこのようになる場合が多い。 例) 従来型の一匹狼的な営業マン、経営者、経営幹部 ③役割固定+目標流動的 ⇒役割専門性重視型 一人ひとりの役割としての専門性が重視されるが、具体的な仕事のやり方につちえは柔軟でその人の裁 量に任される。 専門性の高さ、専門性の発揮度、コンピタンシーや社内顧客満足度といったものが重要な指標となるが、 それは達成目標というより、役割を果たしているかどうかの評価になる。 例) 基礎研究、法務、社内専門家集団 ④役割流動的+目標流動的 ⇒成果申告型 チーム全体の使命や目標は明確に設定されているが、それをチーム内で分解していくとき、個人の役割 も目標も流動的に考える。これがもっとも柔軟性が高く自立的な組織マネジメントのスタイルであり、環 境変化や状況変化の激しい仕事を行うチームに求められる。 例) 新規事業の立ち上げ、コンサルティングプロジェクト、 21
  22. 22. チーム全体の使命と目標を共有したうえで、個々のメンバーについては、まず、それぞれ抽象度の高い レベルで基本的な役割を認識する。それ以降の具体的な役割分担や個別の仕事のターゲットは、状況の変 化の応じ、週単位や月単位でどんどん変えていき、アップデートしていく。 このように個別の役割も目標も柔軟な組織の場合、成果評価の方法も大きく変わってくる。まず、チー ム全体としての目標の達成度が評価される。そして、個別のメンバーについては、チームの成果にしたいs 手、一年間に自分がどれだけ貢献したかを自己申告する。つまり、期初に明確な個別の目標を設定するの ではなく、期末の段階で、個人で成果申告責任を課す点に大きな特徴がある。 成果申告は具体的には次のように行われる。各メンバーは期初に具体的な目標ではなく、基本的な期待 役割や期待成果を設定する。そして、期末になると、自分は一年間にどのような成果を出し、どれほどチ ームに対し貢献したかを記述し、評価者であるチームリーダーに提出する。記述した事実について、リー ダーが確証に至る十分な資料を持っていない場合は、その事実をよく知る人間の名を挙げ、確認してもら うように説明する責任も負う。リーダーは記述された成果貢献が、チーム全体、会社全体の業績にどう貢 献したか、期初に設定された期待役割や期待成果に対しどの程度応えているか、一人ひとりのメンバーと じっくり話し合い、評価を決定する。 こうした成果申告型の評価が、柔軟で自立的なチーム組織において効果的に機能するためには、いくつ かの大切なポイントがある。 ①リーダーとメンバーの間での価値軸のすりあわせ 利益と成長のバランス、利益重視か成長重視か。顧客満足度にしても、どのような面で重視するのか。 そのためには、どのような行動が期待され、反対にどのような行動を避けるべきなのか。何をもって評価 するのかという基本的な価値軸を最初に確認し合うことが不可欠だ。 ②期中でのイエローカードの出し方 すり合わせをした価値軸は、抽象性のレベルが高いため、具体的な行動に対しては、適宜イエローカー ドを出し、方向付けをしなければならない。本人はチームのためになると思ってとった行動が、リーダー から見て明らかに期待された貢献でないと判断されたとき、できるだけ早い段階でイエローカードを出す。 何もいわずに期末になって低い評価をつけたら本人のモチベーションは一気に下がる。成果申告に対する 評価の納得性を高めるためにも、イエローカードは必須の要件となる。 ③リーダーは多面的な情報収集に大きな関心を払うべきである。 柔軟で自立的な組織であればあるほど、リーダーはメンバー一人ひとりの行動をすべて把握することは 難しくなる。リーダーも自分の関知している情報以外にも多面的に情報を収集し、評価の納得性を高める 努力を怠るべきではない。 ④メンバー一人一人の成果貢献とそれに対する評価に対して、組織内でコンセンサスが得やすいようなマ ネジメントを日頃から行う。 例えば、チーム内のそれぞれの仕事について主担当と副担当をつけ、互いに仕事が半分くらいずつ重な りあうように担当させる。完全に担当をわけると、誰が何をやっているかわからず、評価に対する組織的 なコンセンサスが得られにくい場合があるからだ。 また、ステータスオークションのところでも触れたが、プレーンストーミングのような場を日常的に設 定するのも一つの方法だろう。自由に発言試合、アイデアを出し合うなかで、自分との比較を含め、誰が どれだけ貢献しているかを確認していくわけだ。 あるいはナレッジマネジメント的に互いの知恵や経験、成果物を共有し合うことにより、閉鎖的な個人 主義を排除し、チームとしてのパフォーマンスを高めていくと同時に、より成果貢献度の高いメンバーに 対しては、チームとして積極的に高い評価を与えていくという前向きな組織風土を定着させていく。 そもそも、日頃から担当する仕事の重なり合いや情報交換の場がないと、個々の役割や目標を柔軟に変 えていくことは難しい。仕事の分担を完全に分離したり、ナレッジの共有を軽視すると、いかに個々の役 22
  23. 23. 割と目標を流動化させようとしてもうまくいかず、結局は固定化の方向に向かうようになる。 <ポイント> 成果申告型のマネジメント 役割流動的、目標流動的な業務の場合、成果申告型のマネジメントを行う。 役割流動的、目標流動的な業務:チーム全体の使命と目標を共有したうえで、個々のメンバーに ついては、まず、それぞれ抽象度の高いレベルで基本的な役割を認識する。それ以降の具体的な 役割分担や個別の仕事のターゲットは、状況の変化の応じ、週単位や月単位でどんどん変えてい き、アップデートしていく 成果申告の実施方法 1)各メンバーは期初に具体的な目標ではなく、基本的な期待役割や期待成果を設定する。 2)期末になると、自分は一年間にどのような成果を出し、どれほどチームに対し貢献したかを 記述し、評価者であるチームリーダーに提出する。 記述した事実について、リーダーが確証に至る十分な資料を持っていない場合は、その事実を よく知る人間の名を挙げ、確認してもらうように説明する責任も負う。 4)リーダーは記述された成果貢献が、チーム全体、会社全体の業績にどう貢献したか、期初に 設定された期待役割や期待成果に対しどの程度応えているか、一人ひとりのメンバーとじっくり 話し合い、評価を決定する。 成果申告を行うときのポイント ・リーダーとメンバーの間で、何をもって評価するのかという基本的な価値軸を最初に確認し合 うことが不可欠 ・できるだけ早い段階でイエローカードを出す ・リーダーは多面的な情報収集に大きな関心を払う ・メンバー一人一人の成果貢献とそれに対する評価に対して、組織内でコンセンサスが得やすい ようなマネジメントを日頃から行う 例)プレーンストーミング(ステータスオークション) ナレッジマネジメント的に互いの知恵や経験、成果物を共有し合う 日頃から担当する仕事の重なり合いや情報交換の場を設ける 4. 抽象性の高いメッセージの伝達 ピラミッド組織においては、組織階層を上から下へ下がるにしたがって、命令の分解が行われるため、 最終的に第一線に達するまでに、命令がかなり具体化される。それを序列に基づく服従やマニュアルなど の管理手法によって行動に移させてきた。しかし、組織が柔軟性や自立性を持てば持つほど、こうした管 理手法は使えなくなる。そこでさまざまな抽象性の高いメッセージの伝達と共有をしっかり行わないと、 結果としての全体最適が実現できなくなる。 では、第一線の人間一人ひとりに抽象性の高いメッセージを的確に伝えるためには、どうすればよいの か。以下7つのポイントを指摘する。 【抽象性の高いメッセージの伝達7つのポイント】 ①言葉にして伝え、印刷物として配る ビジネスユニット単位、事業単位でもう少し具体化させたビジョン、バリューの設定、あるいはビジ ネスにおける全社ビジョン、バリューの解釈とうものを作成する。そして、それを印刷物にして配り、 各自の机の前に張るなど、目に見える形で伝える方法も目新しい方法でないが無視できない。ビジョン 23
  24. 24. やバリューを重視する会社では、名刺サイズのカードに印刷し常に携帯させたりしている。 例)楽天 ②たとえ話や具体的事例で繰り返し説明する(成功事例の共有) 例えば、顧客に対し戦略的なソリューションを提供することが、そのチームのミッションであったと する。しかし、戦略的とはどのようなことか、言葉はわかっても行動がついていかない。そんなとき、 一人のメンバーがある顧客に対して行った企画提案が、先方から非常に高い評価を受けた。そこで、そ の企画書を全員に見せ、「戦略的ソリューションとはこのようなものである。その理由は‥‥‥」と、 チーム全体で成功事例を共有する。これによってメンバーが「なるほどリーダーの言っていたことはこ ういうことだったんだ」と本当に腑に落ちて理解するまでこれを行う。 ③階層を使わない直接的コミュニケーション 抽象性の高いメッセージほど、発信者からの直接的なコミュニケーションが求められる。 例えば、セブンイレブン・ジャパンでは、毎週欠かさず、北は北海道から南は沖縄まで、1000人を超 えるFC(現場で店舗経営の指導に当たる社員)を東京本社に集めて早朝から全体会議を開き、鈴木会長 が直接語りかける。 ④"究極の選択"を活用した研修 究極の選択を題材に、研修などの場でディスカッションを繰り返すことにより、ビジョンやバリュー といった抽象的な概念がいかに重要であるかを十分に認識させることができる。 ⑤評価基準へのバリュー評価の取り組み 抽象的メッセージの具体例を自ら実感させる、あるいは、身近に示す意味で効果的な方法である。360 度多面評価も同じである。 ⑥リーダーには行動のバリュー適合度が必須条件 リーダーが明らかにビジョンやバリューを無視した行動をとっていてもリーダーが明らかにビジョン やバリューを無視した行動をとっていても、売上げや利益での貢献が大きいからと、会社がその存在を 認めてしまえば、そこからビジョンやバリューの崩壊が始まる。そうしたリーダーは必ずポストから外 していくことも一つの伝達法になる。 ⑦組織品質の継続的トラッキング ビジョンやバリューなどの抽象的メッセージが社内で本当に理解されているか、どこまで浸透してい るか、一人ひとりがそれに基づいた行動をとっているか、そして、組織の健全性は確保されているか。 こうした組織品質は継続的にトラッキングしていかなければ把握できない。 <ポイント> 抽象性に高いメッセージの伝達7つのポイント 言葉にして伝え、印刷物として配る たとえ話や具体的事例で繰り返し説明する(成功事例の共有) 階層を使わない直接的コミュニケーション "究極の選択"を活用した研修 評価基準へのバリュー評価の取り組み リーダーには行動のバリュー適合度が必須条件 組織品質の継続的トラッキング 5. 柔軟な組織のリーダーのマネジメントスタイル ①仕事の本質の理解度をチェックする 部下に対し、仕事の本質の理解度をチェックするための質問をことあるごとに行う。その仕事は何のた めにやっているのか、なぜ、その仕事が必要なのか、その仕事において一番重要なポイントは何なのか‥ ‥‥等、仕事に対する問題意識をつく質問をぶつける。 24
  25. 25. GEのジャック・ウェルチ会長はその名手といわれる。例えば、リーダーたちのミーティングにおいて、 一人が自分の担当する案件にプレゼンテーションしているとき、鋭い質問を次々とぶつけ、どれほど仕事 の本質を理解しているかを見抜く。さらには、その案件とはまったくかかわりのない人間に向かって、突 然、「君はこの件についてどう思う」と質問をぶつけ、仕事の本質を理解できる人間であるか、目線の高 いものの見方をしている人間であるかチェックし、非常に高いポテンシャルを持っていれば、より責任の 重い仕事を与えていく。 ②確信犯は許さない 会社のビジョンやバリューにそぐわない行動を確信犯的に取るような人間は、絶対に許してはならない。 ビジョンやバリューを共有するのは、組織の自立性や個々人の自立的行動を実現していくためのベースで あり、それに反する行動を容認すれば、自立組織そのものが成り立たなくなるからである。 ③自分で考えさせ自分で決めさせる チームのメンバーから質問をされたときに、リーダーとして的確な答えを返さなければならないが、答 える前に必ず行わなければならないことがある。それは、「君はどう考えるのか」と問い返すことである。 それに対して、リーダーは適切なアドバイスをしたり、別のオプションを提供したりする。このとき、 もう一つ重要なのは、最終的にはメンバー自身に決めさせることであらう。何でもメンバーの質問に答え ていては自立性は高まらない。リーダーとして答えはわかっていても、メンバーたちに自分で考えさせ、 自分で決めさせ、そして、決めた以上、自分の仕事については自分で責任をとるというメンタリティを定 着させる。自分の能力や判断に自信のあるリーダーほど、メンバーの質問にすぐ答えようとするが、そこ で一つ間を置き、相手に問いかけることも大切なマネジメントスタイルである。 <ポイント> 柔軟な組織のマネジメントスタイル 仕事の本質の理解度をチェックする 確信犯は許さない(ビジョン・バリューにそぐわない行動を許さない) 自分で考えさせ自分で決めさせる 6. 支援的マネジメントスタイル トップタレントには「場の整備」と「チャンスの提供」 チームのメンバーに対してどのような支援をしていくか。支援マネジメントのスタイルは相手のレベル によって異なってくる。大きく四段階にわけて考えてみる。 一番レベルの高いトップタレントとは、会社のビジョンやチームの方向性など抽象性の高いメッセージ を伝達すれば、それをすぐに理解し、あとは自分でWHAT(課題発見・設定)を行い、自ら進んで仕事を創 造し、膨らませていくことができるような人材のことだ。このようなトップタレントに対しては、仕事を 進めるうえで障害になるものを取り除いて活躍しやすい場をつくり、さらに、本人のポテンシャルをより 開拓するため、より責任の重い仕事を振り分けるなど、チャンスを提供していくことが重要な支援となる。 十分パフォーマーには「未来拡大質問」と「後押し」 今の仕事で十分にパフォーマンスを出しているが、ただ、自立的にWHATを作り出し、自分で積極的に仕 事を発展させるまでに至っていない、いわゆる、十分パフォーマーには、今ひとつ自分からは一歩前に踏 み出せず迷っている場合、未来拡大的な質問が本人の意欲を引き出すのに効果的なケースが多い。すなわ ち、「君はどんな仕事をしたいと考えているのか」「このチームは今後どういう方向に行くべきだと思っ 25
  26. 26. ているのか」「このビジネスの成功のために今何を優先すべきかと思うか」‥‥‥といった、本人の目線 を足元から少し先へと移してやるような質問を投げかけてみる。 不十分パフォーマーには「過去分析」と「問題解決支援」 今現在の仕事もクリアできず、このままでは周りのメンバーにも迷惑が及ぶ可能性がある不十分パフォ ーマーには、なぜ、仕事がうまく機能しないのか、過去分析から始めなければならない。すると、最低限 やるべきことをやっていない、最低下エン持っているべき知識が欠如している、最低限踏むべきプロセス から外れている‥‥‥などの問題が浮かびあがってくる。その一つ一つについて解決を支援していく。 26
  27. 27. 第四章 リーダーシップを開発する 1. リーダーの人材要件の重層性 リーダーシップの開発は、人と組織のイノベーションを実現する上で最も重要なポイントの一つである。 目指すべき自立組織のあり方や組織マネジメントのスタイルがわかっても、それを体言していくリーダー の存在がなければ、単に絵に描いた餅に終わってしまう。 では、ある使命を帯びて、ある目標を達成していくリーダー像をイメージしたとき、求められる人材要 件はどのようなものなのだろうか。これは、スキル、コンピタンシー、動機の三つの層から重層的に考え る必要がある。 【スキル】:いつでも勉強で身につく ・必要なスキルは職務分析によって明らかになる。 ・自立組織のおいてはHOWのスキルだけでは通用しない ・その要件が常に変化し、きわめて流動的である ・短期間で習得可能 スキルや経験はある程度必要条件であるが、高い成果の十分条件ではない。 【コンピタンシー14 】:実地を通じて時間をかけてしかつかない *定義 より高いレベルで中長期的かつ安定的に大きな成果を出し続ける人の思考・行動特性 ・人材分析から明らかになる ・リーダーシップはコンピタンシーの一例 【動機】:成人移行は安定性が高い もともと潜在的なものであって、若いうちは本人も意識しなかったり、気づかないことが多い。いくつ かの仕事にチャレンジする中で本人も気づいていく。結果、コンピタンシーも顕在化していき、必要なス キルの習得へと結びついていく。 動機は人材要件としてきわめてベーシックな意味を持つ。人材を若いうちから発掘し、育成していこう とするならば、なんらかの強い動機を持つ人材であるかどうかを見極め、それとリンクしたコンピタンシ ーやスキルを発揮できるチャンスを与えていくことである。 2. 人材タイプによる重要要件の違い スキル、コンピタンシー、動機の三つの要件のうち、どれが最も重要になってくるかは、ジェネラリス ト、スペシャリスト、プロフェッショナル、リーダー・・・・・・等の人材タイプ、あるいは職種タイプ によってそれぞれ異なっており、特徴が鮮明に表れてくる。 ジェネラリストもスペシャリストもスキルが重要な用件になる。二つの違いはスキルのありどころが、 経営一般にあるか、特定分野の専門性にあるかの違いである。 反対に自立組織において不可欠の存在であるプロフェッショナルやリーダーには、自らWHATを作り出し、 仕事のサイクルを回していくことが要求される。そのため、スキル以上にコンピタンシーがきわめて重要 な用件となる。その意味で、リーダーシップ開発はコンピタンシーの強化が大きなポイントになる。 3. リーダーに求められる能力と資質 14 コンピタンシー 27
  28. 28. 【リーダーに求められる能力と資質】 ①WHAT構築能力 「何をすべきか」「何をしたいのか」という問題定義をする思考特性や行動特性を持った人間が第一 線のリーダーにいないと、自立組織は立ち上がらない。 ②顧客シミュレーション能力 顧客の価値観をシュミレーションできる能力を持つことによって、顧客において価値のあるWHATを海m 出すことが可能になる。 ③オリジナリティと顧客価値検証へのこだわり 顧客において付加価値を生み出す原動力は、自らのオリジナリティへのこだわりである。オリジナリ ティにこだわる人にとって、儲けはあくまでも結果であって、最大の目的は顧客価値にある。 ④動向へのコミットメント 中長期的なスパンでWHATを作り上げていくために、視野を大きく広げ、環境の様々な動向もつかんで おかなければならない。 動向を知るには、当然、さまざまな情報源を持つ必要がある。特に生きた動向は顧客のなかでもとり わけ先端的な動きのある顧客、あるいは、業界の先端プレーヤーなどとのパイプを持って、彼らが何を 考え、何を知り、どのような人間と会い、何をしようとしているか‥‥‥等を自らの行動によって、情 報を集めて行く。生きた動向は、非常に具体的なイメージを喚起し、自らの実践を惹起する。こうした 行動特性もリーダーに求められる大切なコンピタンシーといえるだろう。 ⑤リーダーとしての自己管理能力と健全な動機 健全な動機を持ち、行動規範によって自らをコントロールできるような人材をリーダーにつけていか ないと優秀な社員ほど惹きつけられないし、組織としての健全性も損なわれる。 ⑥抽象的メッセージ伝達力(EQ、コミュニケーションコンピタンシー) 自分の信じるもの、確信の持つもの、心から実現したいと願っているものとして、熱く語ることがで きるかどうか。 ⑦専門的スキル ⑧コーチングスキル <ポイント> リーダーに求められる能力を資質 WHAT構築能力 顧客シミュレーション能力 オリジナリティと顧客価値検証へのこだわり 動向へのコミットメント リーダーとしての自己管理能力と健全な動機 抽象的メッセージ伝達力(EQ、コミュニケーションコンピタンシー) 専門的スキル コーチングスキル 4. コンピタンシーとしての WHAT 構築能力 リーダー開発のパラドックス リーダーに求められるコンピタンシーの中で最も基本となるWHAT構築能力は、どのようにして高めていけ ばいいのだろうか。実はWHAT構築能力に関しては一つの大きなパラドックスがある。 コンピタンシーはスキルと違って、身につけていくのに時間がかかる。しかも、年齢が高くなればなる 28
  29. 29. ほど、開発に時間がかかる。つまり、WHAT構築能力はその習得が難しくなってから求められるようになる というパラドックス。ピラミッド組織を自立組織へと改革しておいくきの最大のネックがここにある。 WHAT 構築は「やりたいこと」がドライブになる HOWには正解があるが、WHATには正解はない。戦略的な決断もWHATの類に入る。すなわち、戦略には正解 がない。 WHATに正解がないとすれば、どのようにしてWHATを作り上げていけばいいのだろうか。 WHATに正しいも正しくもないが、顧客に対して付加価値を提供しないWHATは意味をなさない。つまり、 自分の「やりたいこと」がまずあり、なおかつ、顧客において付加価値を生み出すという使命に合致した ところで、WHATがつくられていく。 WHAT構築の能力の高い人は、自分の「やりたいこと」と会社としての「やるべきこと」を一致させ、「で きること」に変えてしまう能力が高い人といえる。リクルート社のフェローで、プロフェッショナルマネ ジャーという概念の提唱者でもある横山清和氏は、「やりたいこ぀

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