数学的帰納法は
帰納ではない?
西尾泰和
114年8月7日木曜日
数学的帰納法
• 「数学的帰納法は帰納ではなくて演繹」
という言葉がひとり歩きしている感が
あるので整理してみました
214年8月7日木曜日
演繹の例
• ソクラテスは人である
• すべての人は死ぬ
• よって、ソクラテスも死ぬ
314年8月7日木曜日
一般化
特殊化 ソクラテスは人 ソクラテスは死ぬ
すべての人は死ぬ
一般的な命題から特殊化を行っている
414年8月7日木曜日
帰納の例
• ソクラテスは人であり、死ぬ
• プラトンは人であり、死ぬ
• よって、すべての人はいつか死ぬ
514年8月7日木曜日
一般化
特殊化 ソ=人かつ死ぬ プ=人かつ死ぬ
すべての人は死ぬ
特殊な命題から一般化している
614年8月7日木曜日
数学的帰納法
• 1: P(1)は真である
• 2: P(k)が真の時P(k+1)も真
• 3: 1に2を無限回適用することで
「P(1)かつP(2)かつP(3)かつ… が真」
• よって任意の自然数nについてP(n)が真
714年8月7日木曜日
一般化
特殊化 P(1) P(2)
P(k)→P(k+1)
ここは演繹
814年8月7日木曜日
一般化
特殊化 P(1) P(2)
P(k)→P(k+1)
P(3) P(4)
演繹を無限に繰り返し…
914年8月7日木曜日
一般化
特殊化 P(1) P(2) P(3) P(4)
得られた個別の命題から…
P(5) P(6)
1014年8月7日木曜日
一般化
特殊化 P(1) P(2) P(3) P(4)
得られた個別の命題から帰納によって一般化
P(5) P(6)
すべての自然数nについてP(n)
1114年8月7日木曜日
数学的帰納法
• 1: 演繹を無限回繰り返すことで
 全対象についての命題を網羅し
• 2: そこから帰納で全称命題を導く手法
→演繹と帰納を組み合わせた手法
1214年8月7日木曜日
よくある疑問
• 演繹は論理的に正しい
• 帰納は論理的に正しくない
• 数学は論理的に正しい
• よって数学は演繹だけから構成されてい
るのでは?
1314年8月7日木曜日
ポアンカレ
• 1906年「科学と仮説」でこの問題を考察した
• 「数学が演繹でないなら、なぜ正しい結果が
得られるのか?数学が演繹なら、なぜ新しい
一般化された命題が得られるのか?」(要約*)
* 以下同様
1414年8月7日木曜日
ポアンカレ
• 出直し法*(proof by recurrence)による加算の
結合性の証明を実例として紹介
• 「物理的な帰納法は我々の外にある秩序への
信念に基いているので、不正確。一方、数学
的な帰納法(出直し法)はそうではない」
• ...
ポアンカレ
• つまり「帰納は論理的に正しくない」
は正しくない
• それは物理的な帰納法では成立するが、
数学的な帰納法では成立しない
• 数学的帰納法が帰納であるがゆえに
新しい一般化した命題を得ることができる
1614年8月7日木曜日
ペアノ
• 「いや、そもそも『自然数』って
明確に定義されてないじゃん?」
1714年8月7日木曜日
ペアノ
• 自然数の最初の一つが存在する
• すべての自然数が「次の自然数」を持つ
• …などのいくつかの公理を導入すること
で「自然数」を定義した(1891年)
1814年8月7日木曜日
一般化
特殊化 P(1) P(2) P(3) P(4)
従来:帰納によって「すべての自然数∼」を導く
ペアノ以降:自然数の定義によりこの2つは同値
P(5) P(6)
すべての自然数nについてP(n)
1914年8月7日木曜日
ペアノ
• ペアノによる公理の導入によって
数学的帰納法の帰納の部分がなくなった
• 残るのは演繹だけなので
「ペアノの公理を認めるなら
 数学的帰納法は演繹」はTrue
2014年8月7日木曜日
まとめ
• 1654年 パスカルが出直し法を発明
これは無限回の演繹と最後の1回の帰納を組み合わせて自然数についての証明を行う技法
• 1900年前後、帰納が使われてる数学的帰納法が
数学として正しいのかどうかの議論が盛んに…
• 解決策1:1...
参考文献
• ポアンカレ「科学と仮説」 岩波文庫
の第1章「数学的推理の本章」p.20-40
短いので是非一読をオススメします。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/
4003390210/?tag=nishi...
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数学的帰納法は帰納ではない?

  1. 1. 数学的帰納法は 帰納ではない? 西尾泰和 114年8月7日木曜日
  2. 2. 数学的帰納法 • 「数学的帰納法は帰納ではなくて演繹」 という言葉がひとり歩きしている感が あるので整理してみました 214年8月7日木曜日
  3. 3. 演繹の例 • ソクラテスは人である • すべての人は死ぬ • よって、ソクラテスも死ぬ 314年8月7日木曜日
  4. 4. 一般化 特殊化 ソクラテスは人 ソクラテスは死ぬ すべての人は死ぬ 一般的な命題から特殊化を行っている 414年8月7日木曜日
  5. 5. 帰納の例 • ソクラテスは人であり、死ぬ • プラトンは人であり、死ぬ • よって、すべての人はいつか死ぬ 514年8月7日木曜日
  6. 6. 一般化 特殊化 ソ=人かつ死ぬ プ=人かつ死ぬ すべての人は死ぬ 特殊な命題から一般化している 614年8月7日木曜日
  7. 7. 数学的帰納法 • 1: P(1)は真である • 2: P(k)が真の時P(k+1)も真 • 3: 1に2を無限回適用することで 「P(1)かつP(2)かつP(3)かつ… が真」 • よって任意の自然数nについてP(n)が真 714年8月7日木曜日
  8. 8. 一般化 特殊化 P(1) P(2) P(k)→P(k+1) ここは演繹 814年8月7日木曜日
  9. 9. 一般化 特殊化 P(1) P(2) P(k)→P(k+1) P(3) P(4) 演繹を無限に繰り返し… 914年8月7日木曜日
  10. 10. 一般化 特殊化 P(1) P(2) P(3) P(4) 得られた個別の命題から… P(5) P(6) 1014年8月7日木曜日
  11. 11. 一般化 特殊化 P(1) P(2) P(3) P(4) 得られた個別の命題から帰納によって一般化 P(5) P(6) すべての自然数nについてP(n) 1114年8月7日木曜日
  12. 12. 数学的帰納法 • 1: 演繹を無限回繰り返すことで  全対象についての命題を網羅し • 2: そこから帰納で全称命題を導く手法 →演繹と帰納を組み合わせた手法 1214年8月7日木曜日
  13. 13. よくある疑問 • 演繹は論理的に正しい • 帰納は論理的に正しくない • 数学は論理的に正しい • よって数学は演繹だけから構成されてい るのでは? 1314年8月7日木曜日
  14. 14. ポアンカレ • 1906年「科学と仮説」でこの問題を考察した • 「数学が演繹でないなら、なぜ正しい結果が 得られるのか?数学が演繹なら、なぜ新しい 一般化された命題が得られるのか?」(要約*) * 以下同様 1414年8月7日木曜日
  15. 15. ポアンカレ • 出直し法*(proof by recurrence)による加算の 結合性の証明を実例として紹介 • 「物理的な帰納法は我々の外にある秩序への 信念に基いているので、不正確。一方、数学 的な帰納法(出直し法)はそうではない」 • 「両者は異なる基礎に基づくが、同じ向き、 特殊から一般へと進んでいる。」 * 今で言う数学的帰納法は、パスカルによる出直し法が起源 1514年8月7日木曜日
  16. 16. ポアンカレ • つまり「帰納は論理的に正しくない」 は正しくない • それは物理的な帰納法では成立するが、 数学的な帰納法では成立しない • 数学的帰納法が帰納であるがゆえに 新しい一般化した命題を得ることができる 1614年8月7日木曜日
  17. 17. ペアノ • 「いや、そもそも『自然数』って 明確に定義されてないじゃん?」 1714年8月7日木曜日
  18. 18. ペアノ • 自然数の最初の一つが存在する • すべての自然数が「次の自然数」を持つ • …などのいくつかの公理を導入すること で「自然数」を定義した(1891年) 1814年8月7日木曜日
  19. 19. 一般化 特殊化 P(1) P(2) P(3) P(4) 従来:帰納によって「すべての自然数∼」を導く ペアノ以降:自然数の定義によりこの2つは同値 P(5) P(6) すべての自然数nについてP(n) 1914年8月7日木曜日
  20. 20. ペアノ • ペアノによる公理の導入によって 数学的帰納法の帰納の部分がなくなった • 残るのは演繹だけなので 「ペアノの公理を認めるなら  数学的帰納法は演繹」はTrue 2014年8月7日木曜日
  21. 21. まとめ • 1654年 パスカルが出直し法を発明 これは無限回の演繹と最後の1回の帰納を組み合わせて自然数についての証明を行う技法 • 1900年前後、帰納が使われてる数学的帰納法が 数学として正しいのかどうかの議論が盛んに… • 解決策1:1906年 ポアンカレ 「数学の帰納法は 物理の帰納法と違って論理的に正しいんだ」 • 解決策2:1891年 ペアノ 「『自然数』を定義し て、数学的帰納法の帰納のステップを公理として 認めよう」 2114年8月7日木曜日
  22. 22. 参考文献 • ポアンカレ「科学と仮説」 岩波文庫 の第1章「数学的推理の本章」p.20-40 短いので是非一読をオススメします。 http://www.amazon.co.jp/gp/product/ 4003390210/?tag=nishiohirokaz-22 • もしくは英語版を無償で読む http://www.gutenberg.org/ebooks/37157 2214年8月7日木曜日
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