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Original textbook on Enrtrepreneurship education, for Josai University undeagrad course.

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Entrepreneurship Textbook vol.2 Entrepreneurship Textbook vol.2 Document Transcript

  • 第4部 ビジネスプランⅠ.起業の機会と構想 起業の機会と 起業家を( 1 ) 起業家 を 生 み 出 す 要因 大学生が就職先を決める理由が千差万別であるように、起業家がなぜ事業をスタートするかの要因はさまざまである。 あえて、その要因を抽出し単純化すると、以下のように、個人的な要因と、環境的な要因に分けられる。人がなぜ新事業に乗り出すかは、その人の個人的な理由であるとともに、社会環境にも影響されるからである。言葉を換えるならば、起業家は生来自分が持っているもので起業しようとするとともに、周りや社会に動かされて起業しようとすることもある。A.個人的要因A.個人的要因1. 性格 起業家が他の人間と大きく違うのは、平均的な人間よりも「独立心」が強いことである。起業家は、他の人よりも自分の今後を自分で決めようとする独立願望が強い。2. 出自 幼少期や学生時代の影響は何といっても大きい。例えば、起業家は、その親(父親)がサラリーマンであるよりも、自営業や会社を経営しているケースが多い。あるいは、経済的に豊かではなく、学歴や資格を得て専門職につくよりも、自分で事業に乗り出したケースは、第2章の日本の起業家に見るように多数存在する。3. 過去の経歴 自分の意思で起業を選択するのは、これまでに知識・能力・人脈などを得ているからであり、過去の仕事や職場が起業の意思に間違いなく影響する。公務員や鉄鋼会社から独立する人は少ないが、寿司職人やラーメン店からは盛んに独立する。起業できる力を過去の勤務先で習得できるからだ。4. 年齢 起業家の年齢や家族構成も重要な要素である。こうした面からは、独身者が起業にあたっての障害が最も少ないが、子供がある程度の年齢になった50代後半からのシニア起業家も日本には少なくない。B.環境、B.環境、社会的要因 環境5. 教育と大学 バイオテクノロジーや情報通信産業のハイテク・ベンチャーは、起業のアイデアが大学や研究所で生まれることが多い。大学院生や付属研究施設の研究者、卒業生が大学時代のアイデアをビジネスプランにして資金を調達し起業するケースも多数起こっている。6. 成功事例 周囲に成功事例や目標とする企業や人物があることも、起業家となるきっかけの一つである。友人や親類で成功者がいるという事実も、ベンチャーを指向させる影響力になっている。7. 周囲の環境と地域 周囲に創業を支援してくれる人々や組織があるかどうか、あるいは起業に関係する人々の交流組織やネットワークが広がっているかどうかといった社会環境もベンチャーにとって重要である。起業家経済が発展している地域では、多業種のベンチャー企業や大企業、大学・研究所、ベンチャーキャピタル、ベンチャー企業を取り巻く弁護士、会計士、コンサルタント、ヘッド ~ 111 ~
  • ハンターなどがこの地域の中で共存しており、生態系的なシステムが存在する。そこに学び、働き、教える人々が、絶えず交流しあい組織を出入りしている。彼らが連合したり離れることで、ベンチャーが生まれたり潰れたりし、あるいは別のベンチャー企業が枝分かれして設立されている。(2)起業家のタイプ 起業家のタイプ タイプ1 『生計上必要 起業家』 タイプ1 : 生計上必要な起業家』⇒ 必要な “ Necessity-driven entrepreneurs “ Necessity- ・仕事を得るために必要に迫られて起業するグループ。生活を営む仕事(生業)として起業する。 ・自営業、脱サラ、家業、同族会社に多い。 ・例:飲食業、クリーニング店、個人タクシー、家電小売店、衣料品小売店、など。 ・起業家の母集団としては、こういった「生計上必要な起業家」の割合が大きい。 ・特に発展途上国では、このグループの起業がほとんどである。組織的な企業の雇用が少なく、独 力あるいは自分の縁で個人事業を行わざるをえないからである。 ・全体としては、このグループから大企業に発展する割合は低いと考えられているが、この中から マクドナルド、ケンタッキー・フライドチキン、ウォルマート(スーパー) 、サブウェイ(サン ドウィッチ)のような巨大企業に成長した起業家も存在する。 タイプ2: 機会を活かした起業家』⇒ タイプ2 『機会を かした起業家 起業 “ Opportunity-driven entrepreneurs “ Opportunity- ・自分にある機会を活かして起業するグループ。自分の意思と目標にもとづいて起業する。 ・いわゆるベンチャービジネスを起業する人々を指している。 ・「機会を活かした起業」においては、以下のようなビジネスのタイプがある。 A.『ハイテク・ベンチャー』 ・最先端分野において、日本国内だけでなく世界と競争し、勝ち抜こうとするベンチャー。 ・権利は特許などで保護する。 ・大企業との独立性を保ちつつ、提携で資金や人材という経営資源を得ようとする。 ・ビジネスのリスクは高いが、成功するとリターンが高い。 ・例:半導体ベンチャー、バイオベンチャー。 B.『技術応用・組合せ型の新事業ベンチャー』 ・起業家が過去の職場や経験で得た技術を応用して開始するベンチャー。 ・ニーズに合致すれば大当たりするが、ニーズ把握・市場開発が難しい。 ・例:風力発電ベンチャー、ネットベンチャー。 C.『技術改良型ベンチャー』 ・生業的なスモールビジネスから脱皮して、新事業で成長しようとする。 ・市場や消費者のニーズを熟知していることが多い。 ・小回りは利くが、大化けの可能性は小さい場合もある。 ・例:郊外型衣料小売、格安航空券、英会話学校、人材派遣、100円ショップ。 D.『アイデア勝負型の起業』 ・消費者のニーズをつかみ、新アイデアと新商品で人気・ブームを得ようと事業に乗り出す。 ・当たれば大きいタイプのビジネスであり、ブームが去るときの引き際が重要。 ・例:飲食店、アパレル(衣料)、美容(エステ、ビューティーショップ)など。( 3 ) 起業 のプロセス に 必要 な 事項 起業のプロセス 必要な のプロセスに①スタートアップに必要な3要素 無からスタートするベンチャー企業の経営力は、既存の大企業を対象にした経営理論ではほとんど説明できない。ベンチャーの世界は混沌そのものであり、不確実性やリスク、他社の攻勢、社内紛争等の側面で経営を揺るがすような事件が頻繁に起こりうる。 こうしたベンチャー経営において、起業家がスタートアップするためには何が求められるか。何よりもまず次の3要素が欠かせない。 ~ 112 ~
  • 1. 創業者(Founders) 創業者( ) 事業を志した本人、あるいはベンチャーの 経営を担うマネジメント・チーム(経営陣) の力量が何よりも欠かせない。2. 事業機会(Opportunity) 事業機会( ) いつ、どのマーケットに乗り出すか、自分 の持つ技術をビジネスにどのように応用す るか、どのようなかたちで事業を始めるか、 誰とビジネスを組むか、といった事業機会 の認識が必要である。3.経営資源(Business Resource) 経営資源( 経営資源 ) 起業家の持つ技術をもとに始めたベンチャ ーで、これから何が必要かを検討しなけれ ばならない。資金や従業員、オフィスや工 場・機械、あるいは資材購入・販売のための提携先といったものが次から次へと求められる。②創業者と経営チーム ベンチャー企業が成功するには、「技術」よりも「創業者とマネジメントチーム」が重要である。ハイテクベンチャーでは、市場を切り開くだけの技術が必要なのはもちろんである。にもかかわらず、米国のベンチャーキャピタリスト達は、ベンチャーの企業評価(すなわち投資判断)において第一にマネジメントチームの力量を優先しているのである。この力量は具体的には、経営陣各人についての技術力、経験、人格、リーダーシップ、周囲の評価や、彼らが過去どのようなポジションで何を行ってきたかという経歴である。 例えば、ベンチャーキャピタリストにベンチャー経営で重要な要因のトップ5は何かと問われた場合、「一にも二にもマネジメントチーム。三、四がなくて五に市場の将来性」と答えると言われている。ベンチャーキャピタリストの伝説的存在といわれるアーサー・ロック氏は、「一流の経営陣を見つければ、彼らは常に問題点を解決し製品を改良していける。私の失敗のほとんどはビジネスプランが悪かったのではなく、経営陣が悪かったせいである。」と語っている。③アイデアは必ずしも事業機会ではない 起業家が事業に乗り出すきっかけには、先にあげた「事業機会」がかかせない。ここでいう機会とは、事業のアイデアのことを言っているのではない。世の中では、事業についてのアイデアは起業の機会よりはるかにずっと多いはずである。アイデアは必ずしも事業機会ではない。 事業機会は起業家が好きなようにこしらえるアイデアではない。事業機会は、技術、マーケット、競争相手などが変化する中で、利益になるビジネスとして成立する可能性があってこそ生まれるものである。ベンチャーの成功は、この事業機会をしっかりとつかんだ企業のみが得られるものである。したがって起業家にとって何が自分の事業機会か、いつどのように乗り出すべきか、という事業機会をとらえ理解するプロセスが重要になる。 実際、革新的なアイデアは世の中で一人だけの人間が見つけているわけではなく、大体は他にも似たような構想を持っている人がいるものである。ダーウィンの進化論やアインシュタインの相対性理論も、同じ時代に類似のアイデアを持っている学者が存在したことがわかっている。また、1959年にテキサス・インスツルメント社のジャック・キルビーが発明したIC(集積回路)も、その直後にロバート・ノイス(後のインテル創業者)が独力で作っている。今日のインターネットの世界でも、ネットスケープだけが1994年にインターネット・ブラウザーを商品化したのではなく、同じくヤフーだけがサーチエンジンを商業化したわけでもない。 ~ 113 ~
  • ④市場のニーズをつかむ 起業家にアイデアはあっても、その製品やサービスは誰が求めているのか、誰に売るのか、という認識が明確でないと、うまくスタートアップするのは難しい。これは古今東西に共通の単純な理屈である。顧客が求めない製品やサービスは、単なるアイデアであってビジネスとしては成立しない。きわめて革新的な製品が作られ、抜本的な低価格や高い品質・サービスによってこれまで隠れていた消費者のニーズが一度に顕在化するケースもあるが、それは数少ない成功例である。⑤タイミング 事業に乗り出すタイミングも重要な要素である。起業家は潜在的には成功の可能性があるとしても、他社や他の商品・技術との競合、経済環境、提携先や販売代理店などの諸々の条件がスタートアップに好都合な時を選ぶことが肝要である。もっとも、最適のタイミングを選べといっても、起業家が自信を持って判断できる程の十分な情報が集まってくるわけではない。好不況の経済サイクル、消費者のトレンド、技術の変化のような、起業家が十分に予測できるとはいえないファクターを、どこまで見極めて、かつ迅速にスタートアップし事業を拡大していくのか。誰もがわかる「最高のタイミング」があるわけではない。⑥経営資源 たいていの起業家は、資金、設備、人員等の経営資源がほとんど手元にない条件から事業をスタートさせる。ここがベンチャーたるゆえんでもある。たとえば、アメリカの高成長新興企業を代表する「インク500社」における設立時の資金調達をみると、全体の26%の企業で創業資金が5千ドル未満からスタートしており、10万ドル以上の資金で始めた企業は全体の25%である。 したがって、起業家は次の点に注意を払わなければならない。 1.必要な経営資源の優先順位をつける:コストを節約しながら外部から経営資源を導入するというや : りくりが必要である以上、まずは何が必要か、どれから確保していくかを考えていく。 2.重要な経営資源は品質を落とさない:経営に決定的な経営資源のレベルを落とすことはできない。 : 例えば、コンビニエンスストアのような小売業で、賃料を重視するあまり路地裏の二階に入居す る起業家はいない。 :設立されたばかりのベンチャーはガレージ、 3.さほど重要でない経営資源を節約する: 工場跡のビル、 あるいは他の起業のオフィスに間借りしたりして、極力費用を切りつめる。中古のオフィス家具 をみつけて回ったり、通信販売で工具の一番安いものを一個ずつ買うような節約をする。 4.経営資源を社内で持たず、社外を活用する:ベンチャーの場合、従業員を常勤で雇用する必要はな : い。業務の一部を外部に委託(アウトソーシング)することもできる。自分の工場やオフィスを 所有せずリースすることも常套手段である。そのほか、会計や宣伝広告、マーケティングも外部 に委託するなど、コストをできるだけ低くすることはベンチャーに欠かせない仕事である。⑦開業資金の調達 起業家はアイデアや技術をみがき最適の機会を探り、開発計画や原材料の仕入れや従業員の採用を検討したとしよう。検討するのはタダだけれども、事業をスタートするには資金が必要になる。このような開業資金を調達するには、4通りの方法がある。1.自己資金 自己資金とは、創業者メンバーの手持ち資金で作る資金である。開業する際の資金としては自己資 金が最も多く、中小企業全体でみれば、 開業資金の半分以上は、自己資金によって調達されている。2.周囲・取引先からの調達 創業者の家族や友人、従業員、取引先等のパートナーが資金を提供する場合もかなり多い。彼らか ら借入や株式発行の形で調達したり、代金の前払などさまざまな形で、資金繰りをサポートしても らうものである。米国では、関係者からの調達と自己資金をあわせて、 「ブーツストラップ・ファ ンディング」(Bootstrap Funding、今あるものだけで何とかするという英語)と呼んでいる。3.銀行借入 借入は企業経営では、最も一般的な資金調達手段である。当事者が企業と銀行のみであり取引が単 純で、株式発行に比べれば時間や手間がかからない。しかし、スタートアップしたばかりで資産も 信用もない企業が銀行から資金を調達するのは容易ではない。しかも、借入は創業者の所有権が守 られるが、当然ながら利子と元本を貸し付けた銀行等に返済しなければならない。ベンチャーのよ ~ 114 ~
  • うに今後の収入の不確定要素の高い企業は、資金調達を借入には多くを依存しにくい。4.株式発行 株式発行で調達した資金は、借入と違って返済の必要がない。その反面、創業者の株式所有比率が 下がり、経営への発言権も低下する。株式だから借入より義務が少ないわけではない。投資をする 外部株主は、ベンチャー企業が株式公開会社となって株式の価値が上昇することを期待している。 そうでなければ投資した企業が利益を上げて高い配当を出してくれることを期待している。外部株 主は、企業が高いリターンが期待できなければ、リスクが高いベンチャーには投資しない。それだ けに、起業家がビジネスプランによって投資家に説明したとしても、投資家が出資をしてくれるケ ースは少ない。たとえば、ベンチャーキャピタルに来る投資案件のうち、彼らが実際に投資するの は1000件の中で数件程度である。 下図は、国内のベンチャー企業を対象に、立ち上げから現在までの資金調達形態を調査すると、最も多いのが銀行で、次いで本人(自己資金)である。 企業の立ち上げから現在に至るまでの資金調達(複数回答)⑧収益をあげる 起業家にとって、収益は大企業の経営者以上に大きな目標である。 第一に、収益を上げなければ、経営者自身や従業員のサラリーすら払えない。収益を上げない限りは、常に資金調達に駆けずり回らねばならない。 第二に、ベンチャー企業がリスクの高い事業である以上、資金を提供する投資家や銀行は、大企業よりも高いリターンを要求する。事業が失敗して「取りっぱぐれる」危険性が高い以上、この要求は経済原理にかなっている。このためベンチャーは将来に高い収益性が見込まれていなければ、なかなか外部から資金を得ることは難しい。■設問31 設問31 1. 「生計上必要な起業家」とはどのような人々をいうのか。簡単に説明しなさい。 2. アフリカやイスラム世界では、「生計上必要な起業家」と「機会を活かした起業家」のどちらが多いだろ か。自分の考えと理由を簡単に述べなさい。 3. 「アイデア勝負型の起業」の具体的な例を、自分で考えて述べなさい。 4. 「経営資源」とはどのようなものか。簡単に述べなさい。 5. 起業家は、なぜ経営資源を節約しなければならないか。簡単に述べなさい。 6. 「アイデアは必ずしも事業機会でない」ということについて、簡単に解説しなさい。 7. 起業家が開業時点で調達する資金で最も多い形態について述べなさい。 ~ 115 ~
  • Ⅱ.ベンチャーの組織運営と経営モデル ベンチャーの組織運営と経営モデル 組織運営 ベンチャー的経営( 1 ) ベンチャー 的経営「ベンチャーは、 種がまかれ、 芽がでて、 ふくらみ、 育ち、 収穫される」 " Ventures are sown, sprout, grown, and harvested." -Jeffry Timmons “New Venture Creation” ベンチャー企業の成長は均質的、安定的なものではないが、ベンチャーの経営を時間軸でみると、大きく創業期、高成長期、成熟期、安定期の4つに分類される。創業期は、ベンチャーをスタートさせた後2~3年までの期間である。最も経営問題が起こりやすく、苦難の多い、すなわち起業家にとって危険性が高い期間であり、この時期に半分以上のベンチャーが淘汰されていく。売上高はゼロから数百万ドル以下、経営者は創業者を含め2~3名、従業員も20名を超えるケースは少ない。創業期の艱難を過ぎると、売上が急速に伸びる高成長期に入る。この時期には、業容が拡大するにつれ経営陣や従業員の数が増え組織も拡大する。 創業期から高成長期にかけての経営スタイルは、 Doing(実行中心型)と呼ばれる。絶え間ない変化、問題、不安定の中にベンチャーの経営は置かれている。皆早く会社を立ち上げ軌道に乗せるために必死になっており、社内の経営陣・従業員各人の指揮命令系統や具体的責任を細かく検討する時間はない。経営は創業者の力と意志によって運営されており、社長一人が会社をひっぱる「トップダウン」経営である。従業員は少ないだけに会議、決定、通知、あるいは従業員間のコミュニケーションは組織化されたものではなく、その都度弾力的に行われることがほとんどである。 ベンチャー企業が高成長期に入り、売上や従業員が急増する中では、経営形態が変化していく。業務量が増えるに従い、ベンチャー経営者は自分や同僚・従業員の業務分担を決め、責任範囲や各人の裁量度を定めていく必要がある。つまりこの時期の経営はManaging(組織中心型)である。さらに、業容が拡大する成熟期、安定期に入ると、経営者はさらに権限を下位の従業員に委譲し、彼らが経営の意志決定や業務を遂行していき、経営者はその管理者の管理が仕事となる。したがってこの時期のベンチャー経営者は、Managing Managers(=組織管理者)としての特性が強くなる。( 2 ) ベンチャー 経営者 は 他 とどう違 うか ベンチャー経営者 経営者は とどう 違 以上に述べた起業家としての資質や能力は、全体的には普通の企業経営者が求められているものとさして変わらないように思うかもしれない。実際、企業経営者やマネージャー層がこのような力を充分に持っていたらどんなにか素晴らしいことだろう。しかし、ベンチャー経営者である以上、力点の置かれ方が異なる。ベンチャーのように高成長をめざす社歴が若い企業と、充分な経営基盤があり安定経営を続けている大企業の経営者(ここでは管理的経営者と呼ぶ)との違いを考えてみよう。この差異は、以下の8つのポイントに整理できる。①起業家は創造的である 起業家は創造的である であ ベンチャー企業は新しいものを創っていかねば淘汰されてしまう。同時に起業家は何かを創造しようとして独立している。大企業の経営者は会社を安定的に存続させることに注力するが、起業家に期待されるのは安定や維持ではなく創造である。既存の知識だけでは新しいものは創造できない。起業家は知的好奇心と想像力で新しいチャンスをみつけ、それをどう成功させていくかに長けている人間が多い。決して学位や専門知識だけの人間ではないことは、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズの成功が示している。20年余にわたりハイテク巨大企業の経営者を務めている二人は、博士どころか、大学に4年通うこともなく中退しているのである。②戦略の違い 戦略の 大企業の管理的経営者は、現在自分達が持っている経営資源をどのように維持し活用していくかを重視するが、起業家が目指すものは、自分のビジネスチャンスを事業として成功させることである。ビジネスチャンスはたえず変化する。ベンチャーは経営資源も少なく、またビジネスチャンスの変化に迅速に柔軟に対応していくために、他から経営資源を獲得しなければならない。現在の経営資源の活用と存続を重視するのが管理的経営者だが、起業家はチャンスに適合した新しい経営資源を求める。 起業家はビジネスチャンスを重視する③起業家はビジネスチャンスを重視する 当然のことながらベンチャーの「リスク」は、他の企業よりも大きい。倒産につながりかねない問題が発生することも多く、起業家はそれらの問題を短期に集中して解決しなければならない。一方、管理的経営者は、経営問題の処理は起業家に比べて長期のスパンが許され、また自社内の部下や他の ~ 116 ~
  • 経営者に委ねることも可能である。起業家は、結果第一主義の立場から迅速に意志決定を行い、議論よりも実行を重視して、ビジネスチャンスをいかにうまく事業化するかに集中しなければならない。④経営資源の違い 経営資源の ベンチャーには、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源は限られている。ことに多くのベンチャーは慢性的な資金不足にさいなまれている。起業家は、常時外部の経営資源を獲得することに注力するのに対し、管理的経営者は既存の自分たちの経営資源をどのように有効活用するかを重視する。⑤組織の違い 組織の 管理的経営者は、企業を運営するために重厚な組織や階層を充分に構築することを重視する。しかし、起業家は自分たちの個人的欲求は「独立」にあり、したがってベンチャー社内においてもフラットな階層、指揮命令系統やインフォーマルな人間関係を重視する。ベンチャー経営者は組織としてその権限や権威が裏付けられておらず、組織的な「虎の威」を借りず個人としての力量によってベンチャーを営んでいかねばならない。⑥起業家は経験不足である 起業家は経験不足である 他の大企業や長年経営されている中小企業に比較して、ベンチャーの経営陣は平均して若くビジネス経験が少ない。彼らが会社を設立して直面する経営問題は、過去に彼らが経験していないことがほとんどであろう。このため、ベンチャー経営者は未体験のパズルを柔軟かつ冷静に解決していく力量が求められる。⑦起業家は、非定型的・直感的な意志決定をする 起業家は 非定型的・直感的な意志決定をする しかも、ベンチャーのような高成長で変化が早く競争的なマーケットでは、経営者は不確実な情報や論理でもって経営的な決断を行う場面にしばしば直面する。技術情報とともに、ビジネスとしての収益性・成長性や社内外のネットワーク・人間関係などの情報・意見・アドバイスを踏まえて、ベンチャーを成長する方向に持っていくには、 論理や情報の整理分析だけでは対処できない。 ある意味で、ビジネスや技術の「勘」がモノをいうのがベンチャービジネスでもある。これは多種多様な情報を迅速に整理して自社の利益に結び付けられるアイデアを企画でき、決定できる能力である。おおざっぱな言い方であるが、「頭が良く回る人」(英語でいうとQuick learner)であることが重要となる。⑧起業家は、ベンチャー的な企業風土を重視する 起業家は ベンチャー的 企業風土を重視する ベンチャーには、ベンチャー的な経営風土や企業文化が存在する。経営者も従業員も、寄らば大樹の陰にいるよりも独立することを好み、そして自分達の会社が成長してIPOのようなかたちで成功することを夢見ている。こうした彼らの価値観や個々人の目標は他の企業とは異なっている。経営陣も管理者も地位や権威といったものにはこだわらず、自由な雰囲気やコミュニケーションを好む。ベンチャーの経営方針にも、このような起業家的風土が強く影響する。ベンチャーではフレックスタイム制などと制度づけるまでもなく、社員の裁量労働制は空気のように当たり前である。経営トップであっても個室を持つベンチャーは少ない。オフィスにはいつでも自在にレイアウトを替えられるように、簡単な間仕切りで仕切った机、什器、会議室があるだけが普通である。 (参考資料)小野正人「ベンチャー 起業と投資の実際知識」東洋経済新報社。 ■設問32 設問32 1. ベンチャーの経営者(起業家)は、大企業の経営者とどのように違うかについて、上記の解説をもとに 自分の意見を加えて述べなさい。 2. 大企業の経営者はベンチャーの経営者と比較して、どこが有利か。自分の意見を述べなさい。 3. ベンチャー的な企業風土とはどのようなものと思うか。上記の解説をもとに自分の意見を加えて述べ なさい。 ~ 117 ~
  • Ⅲ.ビジネスプランの作成 ビジネスプランの作成 ◎ビジネスプランとは、新しい事業の「事業計画」のことである。企画書、事業計画書と呼び換え ることもできる。重要なことは、何を、何のために、どのように書くのかを最初に理解しておく ことである。 ◎ビジネスプランの最終目的は、 『資金調達をすること』であり、この理解が最も重要である。 ◎ベンチャーでなくとも、会社の新事業計画や、役所で行う企画書など、新しい取り組みには大抵 は企画書が存在する。ここで学習するベンチャーのビジネスプランは、こうした他の業態の企画 書作りにも十分に応用できる。 ビジネスプランを作成 する目的 作成する( 1 ) ビジネスプランを 作成 する 目的①資金調達が最終目的 資金調達が ベンチャービジネスを立ち上げる場合に、起業家が最も欲しいものが資金である。『地獄の沙汰も金次第。阿弥陀の光も金次第。』と諺で皮肉られるように、資金がなければ前に進まないのが世の常である。最終目的が資金調達であるだけに、調達を可能とするようなビジネスプランを書く必要がある。ビジネスプランの立案は、資金調達という最終目的 資金調達という最終目的 資金調達という最終目的によってしばられている。 グルーポンの最初のビジネスプラン (紙ナプキンに書かれてある) 創業チームの目標と方針を共有化する チームの目標②創業チームの目標と方針を共有化する その資金調達は最終目的ではあるが、ビジネスプランによって、 ベンチャーを立ち上げた起業家や参加メンバーの目標と方針を一つの文書にまとめて、チームの中で「共有化」ができることになる。③ビジネスプランを他に活用する ビジネスプランを 活用する また、ビジネスプランの一部を、 上の2つ以外の目的に利用することも少なくない。 ・会社の核となる社員の採用の際に計画を説明する。 ・他企業との提携の際に、一部を説明する。 ・会計士、監査法人、弁護士に、会社の状況を説明する。( 2 ) ビジネスプランはトップ・シークレット 企業は競争の世界で生きている。特に、新事業に乗り出すベンチャーの大半は、激しい企業間競争にさらされている。資金も人材も十分でないベンチャーは、知識、技術、ノウハウが最も重要であり、それを他人に明らかにすると出しぬかれる可能性が高い。ビジネスプランは、ベンチャーという会社の技術、ノウハウ、経営戦略の核心が書かれた資料であり、会社において「提出先以外には秘密にしなければならない資料」である。ベンチャーの多くは、ビジネスプランを提出先の金融機関や投資家とは守秘義務契約書を結び、その情報が当事者以外にはっ絶対に流出しないような手を打っている。 ビジネスプランを書( 3 ) ビジネスプランを 書 く 前 に ビジネスプランを書く前に、頭にイメージを描かなければならないことは、以下の9点である。 ①事業を始める自分と時代環境を確認する。 ②市場(お客さんとライバル)と事業機会を調べる。 ③どんな事業を行うか、どうやれば利益を上げられるかを考え、計画を立案する。 ④損益分岐点と必要資本を検討する。 ⑤事業のリスクを検討する。 ⑥メンバーの役割を明確にし、会社立ち上げ後の作業の流れを描く。 ⑦事業計画を作成し、必要な事業資本のメドを計算する。 ⑧自分達の「会社の価値」(評価価格)を決める。 ⑨資金調達する投資家(ベンチャーキャピタル等)のリストと接触方法を構想する。 ⑩実際に資金を調達する行動をとる。 ~ 118 ~
  • ①事業を始める自分と時代環境の確認をする 事業を める自分と時代環境の確認をする 自分 どんな会社も、事業を立ち上げる前提となる諸条件を確認しておく必要がある。この出発点が曖昧だと、途中で大混乱が待っている。確認すべきポイントは以下の事項である。 ・どのような技術やサービスの発展を使って、どんな社会ニーズに応えようとするのか。 ・法令の制約や、業界でビジネスの制約はあるか。逆に自由化で制約が緩和撤廃されるか。 ・会社を起こすにあたって、自分や家族に制約はあるか(勤務先、収入、年齢、病気、教育等) ・自分が事業を興す真の動機は何なのか。その動機に矛盾はないか。 ・自分の経験や判断力、洞察力、対人能力のような力量に制約はないか。また、その制約を人の採 用や支援によってどのようにカバーしていくか。 ここでいう「制約」とは、創業メンバーの限界、あるいは欠けているものである。自分一人あるいは少人数で事業を始める訳であり、制約があるのが当たり前である。問題はその制約を理解しないままに会社を立ち上げ、後でそれに気づくようなことが少なくなるように、ビジネスプランを作る段階で制約を意識する必要がある。②市場(顧客とライバル)と事業機会を調べる 市場(顧客とライバル) 事業機会を とライバル ベンチャー企業の失敗の大半は、顧客と競合他社をよく見ていないことが原因である。 ・事業で販売する顧客はどのような人々か(世代・性別・好み・ライフスタイル)、あるいはどのよ うな企業・組織か。機械会社、製薬会社、通信会社、あるいは官公庁、学校か。どのようなニー ズを持つ会社か。 ・製品や商品を販売する場所はどこか。皆に知られている場所か。(立地、商圏、認知度) ・販売は、時刻や季節で変化するか。 (顧客の購買想像する) ・他の競合会社はどのようなビジネスをやっているか(やりそうか)(事業は常に隣との競争) 。③どんな事業を行うか、どうやれば利益を上げられるかを考え、創業計画を立案する どんな事業を うか、どうやれば利益を げられるかを考 事業 利益 創業計画を立案する どのような製品を作るか、何を販売し何のサービスを行って、顧客に買ってもらえるようにするか。それはどれ位の規模の販売で、持続的に販売できる規模か、という観点で事業の構想を立てる。 ・販売する製品・商品・サービス(商品開発)。 ・購入する顧客(標的市場、標的地域、標的の顧客の特性)。 ・商品・サービスを準備できるか(生産ライン、仕入れ、加工、在庫) ・店舗、販売方法(店舗・販売戦略と価格) ・事業は収益を上げられるか:製造(仕入)コストの見積もりと、販売し た場合の利益率、利益額。④損益分岐点と必要資本を検討する 損益分岐点と必要資本を検討する 事業の内容を決めて、儲かるかどうかを、さらに細かく具体的に計画を検討し構想していく。 ・販売計画、売上計画:何をいくらで、いくつ、どんな時間・時期に売るか。 ・仕入計画、経費の計画:いくらで材料を仕入れて、いくら経費がかかるか。開発や管理にどれだ けの費用がかかるか。 ・損益分岐点:経費が回収できる最低限の売上、販売個数はどれだけのものか。 ・この計画は、収益をあげられる(もうかる)計画だろうか。 ・事業の準備資金はどのくらいかかるか。=必要資本の見積り。 ・仕入や開発に、どのくらいお金がかかるか。 ・経費(事業に必要な機材・設備・道具・人員)が、どのくらい必要か。 ・事業が遅れた場合にかかる支払経費を前もって準備しておく。⑤事業のリスクを検討する 事業のリスクを検討する のリスクを検討 新しい事業はリスクが高い。また人材も資金も足りないから、十分な製品やサービスを世の中に出せないことも少なくない。そのような制約のある状況だからこそ、事業を始める起業家は、予想される事業のリスクについて、冷静に客観的に綿密に分析し、自分達の「弱点」を知らなければならない。⑥メンバーの役割を明確にし、作業の流れ図を描く メンバーの役割を明確にし、作業の 役割 にし 会社を立ち上げた段階で働いているメンバーについて、社長(会社の全責任者) 、開発、製造、販売、仕入、経理、管理総務、それぞれの役割を明確にする。昔から「適材適所」と言うが、それぞれの知識能力経験に応じて、役割(業務分担)を明確に定めることは実際の経営で重要である。 そして、これから開発、製造、販売、代金回収に到る事業の流れについて、各人が行う作業の大まかな流れ図を描くことが有効である。 ~ 119 ~
  • ⑦事業計画を作成し、必要事業資本のメドを計算する 事業計画を作成し 必要事業資本のメドを計算する のメド 最初に述べたように、ビジネスプランを作る最終目的は、投資家を説得し、必要な資本を調達することである。投資家にとって魅力的な事業計画を説明して、投資家が資金を出してくれるような内容でなければならない。・事業の収益性が第一:したがって、学術的な研究水準が高いことを言っても、きれいで美しい資料 を作っても、「投資家が収益を得られそうだと判断できる」事業内容であることがまず必要である。 事業が高い収益を得られるか、事業のリスクはどのように対処して減らすか、について投資家が納 得できる内容の説明をしなければ、投資家は資金を出してくれない。つまり、ビジネスプランとは、 「お金」について現実的で実践的でなければならないのである。・必要資金の金額:そして同時に、事業ではいくらの資金が必要かを説明する必要がある。・資金の使途:また、投資家には、調達した資金を何に使うのか、どうして使わないといけないかを 説明しなければならない。 事業資金をうまく手に入れるには、理屈だけではない。とにかく相手(投資家)を説得するには、いろいろな実践的なテクニックが必要である。とにかく、情熱を持って、誠意をもって投資家を説得し、事業に必要なお金を投資してもらう。 ○ビジネスプランの実践的なテクニック ・事業や製品が、注目をひくような上手な名前を考える。 ・とにかく「製品・サービスが売れて、もうかる」ことを説得する。 ・第一印象を大切にする。 ・投資家への発表時間が短いので、時間内に上手にまとめる。 ・ビジネスプランは、わかりやすいように大きな字ではっきり書く。 ・5W1H(何を、いつ、だれが、どこで、なぜ、どうやって)をはっきりさ せる。 ・発表は、大きな声で自信を持って説明する。 ・発表の前に、メンバーとよく話をまとめて準備をしておく。 ・他社の良いところを真似して取り入れる。⑧自分達の「会社の価値」 企業評価価格)を決める 自分達の 会社の価値」 企業評価価格) (企業評価価格 ( 会社に投資するということは、その会社の株式を買うことであるが、その株価を決めなければならない。同じ1,000万円を投資するにしても、1株10万円で投資するのと、 1株1,000円で投資するのでは、その会社の価値(企業評価価格)は、10万円:1,000円で100倍も違うのである。起業家側からすれば、自分達の会社を投資家に高い値段で買ってもらう(上の例でいえば10万円の株価で株式を買ってもらう)ことを望むが、投資家はできるだけ安い会社の価値で株式を購入したい(上の例でいえば1,000円の株価で株式を買う) 。その両者の思惑によって、資金調達においては、株価の価格交渉(=どの株価にするか)が行われるのである。 したがって、ビジネスプランによって外部の投資家から資金を調達する場合は、投資家と交渉する前に、自分達の会社がどれだけの価値(企業評価価格)があるのかを、まずは自分達の考えを決め、それから投資家と価格交渉することが望ましい。 例えば、あるベンチャー企業で発行済の株式が5000株あるとする。その会社の株価を1株10万円にしたいというならば、その会社の価値はいくらだろうか?。 【会社価値の計算-1】 1株10万円(株価) ×5,000株(発行済の株式数)= 5億円 この5億円が「会社の価値」(企業評価価格、あるいは時価評価価格)である。 逆に、この会社で株価が1株1000円とすれば、会社の価値はどうなるか。 【会社価値の計算-2】 1株1,000円(株価)×5,000株(発行済の株式数)= 500万円 500万円 このように、二つのケースの間で会社の価値に100倍もの差がでてくる。起業家や創業メンバーにとって、会社価値が低まるということは、自分達が持っているベンチャー企業の株式の経済的価値が低下すると同じである。それだけに、まずは会社の価値を計算することが起業家達の利害につながる。 ~ 120 ~
  • ⑨資金調達する投資家(ベンチャーキャピタル等)のリストと接触方法を構想する 資金調達する投資家(ベンチャーキャピタル等 のリストと接触方法を構想する する投資家 接触方法 理屈だけで資金は調達できない。事業を理解してくれる、自分達のことを理解してくれる投資家に資金を提供してもらうことが重要である。単に銀行が融資をするのではなく、投資家は自分達の会社の株主になるのであるから、株主として意見を言ってくることが多いからである。 したがって、投資家の目的は何だろうか、投資家は、どこをどう評価してくるか、投資家は資金以外に何を手伝ってくれるだろうか、投資家は、自分達の会社の価値(株価)どう評価するだろうか、などの観点を予想し、対策を打つことが、資金調達の成功度を高めることになる。⑩実際に資金を調達する 資金を調達する 事業に必要な資本を調達するには、 ・投資家を説得し自社に投資をしてもらうために、投資家と打ち合わせをして、投資を決断しても らう。 ・投資を決定した後、会社は株式を発行するための作業を行う。株式を発行するには、取締役会の 決議が必要であり、また投資家がベンチャーキャピタルの場合は投資条件を同意した投資契約書 の締結が必要となる。 また、投資(株式出資)ではなく、銀行から融資を受ける(会社が銀行借入を行う)場合には、投資家への説得と同様に事業計画を説明して、銀行の融資担当者に銀行の判断として融資が可能かどうかを判断してもらう必要がある。融資が決定した後は、融資の契約書(正式には「金銭消費貸借契約書」 )に、借り入れる企業の代表者(代表取締役)と銀行が契約書の内容に合意し両者の印鑑を捺印して契約が成立する。★融資は事業の成否に関係なく返済義務を負う (株式との根本的な違い) 融資の場合は、会社の事業がうまく行っても事業が頓挫しても、契約書で合意した借入額に金利を合計した金額(元利)を、間違いなく銀行に返済する必要がある。この点が株式出資による投資との根本的な違いである。株式出資は事業の成否により配当を払ったり無配であったりするし、会社が倒産したら株式は無価値となるが、融資の場合、銀行は事業の成否を問わず貸し出した金額の返済を求める権利がある。 会社は借りたお金(融資)は返さないといけないが、 株主(投資)に対しては返済義務はない。 ■設問33 設問33 1. ビジネスプランの最終目的は何か。 2. ビジネスプランを秘密にする理由はなぜか。 3. ビジネスプランを利用してできることをあげなさい。 4. ビジネスプランにおける「会社の価値」について、簡単に説明しなさい。 5. 融資と投資の違いについて、簡単に説明しなさい。 ~ 121 ~
  • ( 4 ) ビジネスプランを 作 る ビジネスプラン を 実際には、株式会社のビジネスプランは「事業計画書」と名づけられて完成することが多い。この事業計画書は、株式会社の取締役会に付議されて、会社として決定した事業計画となる。起業家は、資金調達を求める銀行やベンチャーキャピタル等にこの事業計画を提出し、資金を提供(融資や株式出資)が可能かどうかを検討してもらうことになる。 事業計画書を受け取った銀行やベンチャーキャピタルは、この計画書が同社の公式文書であるから、これを真剣に読み、論理的であるか、外部環境をしっかり把握しているか、計画に無理はないか、遺漏はないか、同社の長所・持ち味はどこか、問題点・欠点はないかなど、綿密かつ多面的に資金調達を企図するベンチャー企業の分析を行うのである。それだけに、きちんと洗練された内容と形式になっていないビジネスプランは、文字通り「門前払い」になる。 本気度 じられるビジネスプラン①本気度が感じられるビジネスプラン 起業は、「夢」への第一歩であると同時に、多くは苦難が待ち受けるものである。起業家がその道を歩み始めるに当たって、まずは十分な覚悟があるか、情熱が込められているかが重要なカギとなる。起業家がそう思わなくとも、経験のある投資家や銀行の融資担当者はそう思っている。彼らは、起業家の情熱の感じられないビジネスプランでは、資金を出す考えにならない。思いつきや軽いノリで始めようとしても、ビジネスプランの中でそれが露呈してしまう。アイディアだけで起業しようと相談に来る人もいるだろうが、思いつきだけで成功する人はいない。思いつき=アイディアを、いかに実行可能なビジネスプランに昇華させるかが重要である。本気のビジネスプランから、周到な準備と細心の計画がくみ取れ、かつ成功に向かっての強い信念が読み取れるビジネスプランを目指さなければならない。②独りよがりのビジネスプランでないこと 良いビジネスプランは、起業家が独力で一気に書き上げることは少ない。起業家一人の能力や情報は限界がある。起業家の弱点を補強してくれるパートナーと共にビジネスプランを練り上げるのが現実的である。起業家を理解する人、目指すビジネスに経験や造詣の深い先輩を探し出して、ビジネスプランに対するアドバイスをもらい、欠点を発見し修正していくのである。③簡潔で、わかりやすく、成功を予感させるものであること 簡潔で わかりやすく、成功を予感させるものであること 投資家や金融機関に理解してもらうためにはたくさん記述した方がよいと考える人も少なくない。プレゼンテーションでも長々と事業内容を説明する人がいる。しかし、部厚いビジネスプランは変化に対応して適宜見直しを図るには不向きであり、それを読む忙しい投資家の目には止まりにくい。 簡潔で、メリハリがあって、ポイントをはずしていないこと。そして洗練度が高くまとめあげられたビジネスプランこそ望ましいものである。米国には「エレベータ・ピッチ」という言葉がある。エレベータに乗っている間にビジネスを説明して、投資家を巻き込んでしまう位の熱意と資料であることが大切と言われる。例えば、A3見開き1枚のビジネスプランのサマリー(まとめ)を使って、自分の口で3分以内に事業を説明できるような訓練が必要である。 簡潔さとともに、「わかりやすいこと」も重要である。専門的な説明のみに終始すると、読み手の理解度を下げ、興味を失わせる。 また、市場や財務のデータは、「数字」はごまかしの効かないものであり、説得力を増すために重要であり、ビジネスプランを構築する上で根幹となるものである。「全く新しい商品だから予測がつかない」 「爆発的に売れる」という人も少なくないが、それでは検討と分析の練度が低いことを吐露しているにすぎない。まとまった統計データがなくても、他の代替できるデータや推定データを活用することが可能なはずである。④顧客の視点で考えていること 顧客の視点で ている ビジネスプランは、顧客の視点で考えられていることが必要である。提供する商品・サービスが何で、何故、顧客は対価を払ってそれを購入するか、それが実現する顧客価値は何かを突き詰めて考え、立証することが必要である。 ・その商品はどこが新しいのか。 ・顧客が待ち望んでいたものなのか。 ・安いから買うのか。あるいは同じレベルの性能のものだから、同程度売れると考えるのか。 サプライヤー論理でなく、顧客の視点で考えられていることが必要である。それは書いている形式だけでなく、その中身に顧客の視点があるかどうか。顧客のニーズや反応を立証できるテストデータや顧客のアンケートがあると説得力が増すことになる。 ~ 122 ~
  • ⑤リスク分析:事業計画は、最悪に備えているか? リスク分析:事業計画は 最悪に えているか? 分析 経営環境は目まぐるしく変化しており、企業があらゆるリスクに対応して常に成功することは難しくなっている。現実的には傷口が大きくならないうちに、業容を転換して経営革新を図る、また場合によっては事業そのものを閉鎖することも考えなくてはならない。起業家は、あらかじめどういうリスクが予見されるか、それに対する対策は何があるかなど、リスクを十分に分析しておくことが、事業計画の説得力を増すことにつながる。 それには、まずどういうリスクがあるかを把握することから始める。一般には、顧客ニーズの読み違え、新しい技術・サービスによる自社製品の陳腐化、市場の停滞や縮小、競争相手の参入、法律改正などが考えられる。また、業界特有の問題、例えば飲食店であれば食材の感染問題や食中毒もあるだろう。少なくともリスク要因が十分上げられるだけの業界知識がないと成功は覚束ない。最悪のシナリオや環境も想定して備えることも、ビジネスをスタートさせる上で考えなければいけないことである。⑥ビジネスプランで必要な項目と内容 ビジネスプランで必要な項目と 必要 完成した事業計画書の形式はさまざまであるが、最近では最終的にパワーポイントで作成し、A4版横で印刷した資料とすることが多い。必要な項目は、下表のようなものである。 先述のように、計画書が提出される投資家や銀行の担当者は多忙であり、じっくり読む時間はない。それだけに事業計画書の最初の5ページ(導入部分)で彼らに興味関心を持たせるような流れで作成しなければならず、計画書の最初に計画書のサマリー(まとめ)、自社のプロフィール、事業の全体像を配置し、会社がどのようなもので、この計画書で何を言いたいのかを説明するのである。 ◆ビジネスプランの標準的な記載項目(例) 1 プレビュー 1.表紙 2.サマリー 3.目次 2 会社プロフィール 1.会社概要 2.経営陣プロフィール 3.社外の支援者、アドバイザー、協力体制 3 事業の全体像 1.基本方針、経営の理念 2.事業の内容 3.ターゲットとする市場 4.顧客ニーズとその対応策 4 事業の分析 1.主力製品・サービスの開発・製造・販売のプロセス 2.新規性、独自性の分析 3.市場規模、特性、将来性 4.市場の競合状況、自社の優位性 5.市場で取るポジション 6.リスクの分析 5 事業展開 1.商品・サービスの開発計画 2.製造・調達計画 3.販売計画 4.将来(1~5年後)の予測と戦略 6 財務計画 1.収支計画 2.資金計画 3.財務分析(損益分岐、財務指標分析) 7 資金調達計画 1.資金調達の目的 2.資金調達形態(スキーム) 3.今後の調達スケジュール、他の調達先候補 8 参考資料 1.会社・主要メンバーの信用調査先(リファレンス) 2.関連調査資料、データ ~ 123 ~
  • Ⅳ.会社機関設計と設立 会社機関設計と 学習内容:事業を行うための組織として、「株式会社」の機関設計と設立を学習する。 ①会社の機関設計 ②会社の名称、住所、目的 ③株式と資本構成 ④役員構成と株主総会、取締役会 ⑤会社の登記 ⑥雇用と就業規則 ⑦事業を開始するための諸届け( 1 ) 会社の 機関設計 会社 の 事業は、考えと行動だけでは前に進まない。「会社」という箱を作り、その箱のもとでビジネスを展開し、その成果を売上と費用という数値により計算し利益(損失)を生み出し、資金を提供した投資家や銀行に配当や返済を行っていかなければならない。したがって、実際に会社を作り、どのような基本ルールに基づいて会社を運営していくのかを学習することが重要である。この会社の基本ルールづくりのことを「会社の機関設計」と呼ぶ。 しかし実際のところ、ベンチャーに乗り出す起業家は、この「会社」を設計しルール作りをするという考えが抜けていることが多いのである。◎どのような会社を作るか?:会社の種類 どのような会社を るか? 会社の 会社 ベンチャー企業を始める際、どのような会社を作るかを考える必要がある。もちろん、会社を設立せずに「個人事業主」として自分だけで事業を行う手段もある。個人でビジネスの責任を負い、利益も損失も個人が処理するつもりならば、個人事業で経営する手段も考えられる。しかし、起業家個人だけでなく創業メンバーが共同で事業を行う場合には、利益分配や責任分担、他者との契約、従業員の雇用を考えれば、「会社」を作って経営する方が効率的である。 会社には、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社がある。合名会社、合資会社、合同会社の3形態は、概して10名以内の少数の株主メンバーによる少人数経営に適した会社形態であり、基本的に全員一致を原則とした規則で運営されている。したがって、外部の投資家が株主となるような資金調達を考えるベンチャー企業の場合には、株式会社の形態での会社運営が適している。◎まず何を決めなければならないか?:機関設計で必要な項目 まず何 めなければならないか?:機関設計で必要な ?:機関設計 株式会社を設立するには、まず以下の事項を決めなければならない。この事項が決定されたことを前提に株式会社ははじめて公認される、すなわち登記される。トヨタも、SONYも、ミクシィも、今活動している会社はすべてこうした作業を行っているのである。 ○機関設計で決定すべき事項(基本項目のみ) ・会社の名称と場所。 ・会社の目的。 ・取締役と監査役。 ・代表取締役。 ・発行する株式および株主構成。 ・取締役会、株主総会。 ・会計と決算。 ~ 124 ~
  • 定款の定款の決定 このように機関設計で取り決めた内容は、「定款」(ていかん)という会社の基本規則の書面に記載することで正式なルールとなる。会社の定款を正式に決定し、この定款を登記(国の法務局に登録)することで、その会社が公に認められたものとなるのである。 ●定款(ていかん)とは? 定款( 定款 ていかん)とは? ・会社などの法人において、その目的・組織・活動・構成員・業務執行等についての基本規則、ま た、それを記した書面・記録。 ・すなわち、会社の定める規則の中で基本かつ最高のもの。「定款は会社における憲法」である。取締役、監査役の取締役、監査役の決定 株式会社には1名以上の取締役を設置することが必要である。また、監査役は、監査役を選任しない旨を定款で定めて設置しないこともできるが、株式公開を目指すような株式会社では監査役を設置する会社が大半である。 取締役は、会社内では会社の業務執行を行い、社外に対しては会社を代表する者である。また、取締役会設置会社(取締役会を設置している株式会社)においては、取締役が取締役会の構成員であり取締役会での議決権を持つ。また、取締役と監査役の任期は定款で定める必要があり、取締役は1年か2年の任期、監査役は4年の任期が多い。代表取締役の代表取締役の決定 代表取締役は、株式会社を代表する権限(代表権)を有する取締役であり、取締役会を設置している会社においては、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない(会社法362条3項) 。取締役会非設置会社においては、各取締役が原則として会社の業務執行権と代表権を有するため、必ず取締役の中から代表取締役を選定しなければならないわけではない。決算日の決算日の記載 そして、会社の定款で決算期を決めなければならない。会社の決算は1年の中である特定の日を1日だけ決算日に指定しなければならない。会社が事業を行う事業年度は1年間を超える年度は認められておらず、3年間の事業年度とすることはできない。通常、会社の事業年度は1年であり、決算日は3月31日とか12月31日と取り決め、定款に記載しなければならない。 会社の 名称、 住所、( 2 ) 会社 の 名称 、 住所 、 目的 まず、会社の定款に何を定めるべきだろうか。一般には、定款の第一章を総則とし、会社の名称や住所、会社の目的などの基本的な情報を決める。 (ソフトウェア開発会社の定款の例) 定 款 第1章 総則 (商 号) 第1条 当会社は、株式会社○○○○○○と称し、英文では◇◇◇◇◇, Inc.と表示する。 (目的) 第2条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。 1. 通信システムによる情報サービス。 2. 情報管理、処理サービス。 3. コンピュータシステムによる計算業務の受託。 4. データ通信システムに係る装置の開発及び保守の受託、販売。 5. コンピュータソフトウェアの開発及び販売。 6. 情報通信システムに係るコンサルティング業務。 7. 特許権の保有、取得、運用。 8. 情報通信技術者の養成。 9. 電話回線およびインターネットを利用した電話番号案内等の情報提供サービス。 10. 前各号に附帯する一切の事業。 (本店の所在地) 第3条 当会社は、本店を東京都渋谷区に置く。 (公告の方法) 第4条 当会社の公告は、官報に掲載する。 ~ 125 ~
  • 実際のところ、会社の名称ひとつを決定するのも簡単ではない。社長になった起業家も自分の好みだけではなく他のメンバーの意見も聞く必要があるし、世間が好印象を持つ社名でないといけないからだ。さらには、同じ地域で似たような名前の会社があると、業務を行う上で支障が出てくる(注:平成18年5月に施行された新会社法以前には同一市町村で類似の社名を使わないようにする規則が定められていたが、新会社法施行後はその規則は撤廃されている) 。 こうして会社の社名を決めた後は、会社の事業の目的を定める。そして会社の本店(本社)の住所を定め、定款が段々と出来上がり、会社の機関設計が定まっていく。( 3 ) 役員構成 と 株主総会 、 取締役会 役員構成と 株主総会、○株式会社を作る 株式会社を 株式会社における最高の決定機関は「株主総会」である。この株主総会で会社の重要事項を議決する。株主総会で議決された取締役が会社の業務を執行し、監査役が会計や業務を監査する。会社の業務執行を決定する会議が「取締役会」であり、株主総会で選任された取締役と監査役が出席する権利がある。そして取締役会で決定された方針や内容に従って、代表取締役が責任をもって担当役員や各部の部長に業務を指示して会社を実際に運営していく。 ベンチャー企業を設立する場合も、通常の株式会社と同様に、取締役会、取締役、監査役に関するの基本ルールを定款で定める。その基本ルールとは、取締役会の開催規則、取締役や監査役の数や選任の規則が中心である。 一般的な株式会社の組織図 株主総会 監査役 取締役会 代表取締役社長 執行役員A 執行役員B 執行役員C 営業部 購買部 製造部 開発部 総務部 経理部 株式と( 3 ) 株式 と 資本構成 株式会社では、株式を所有する者が「株主」である。つまり、法的には、株主は会社の共同所有者であり、その会社に対して一定の権利を持っている。しかし、株主は会社の運営についての義務や責任はない。会社の運営は代表取締役をはじめとする取締役が執行責任を持ち、その取締役や会社の運営を監査役が監督するのである。 現代の株式会社においては、株主は、会社の運営に対して自分が出資した株式の価値(出資額)以外の責任を負う必要はない。会社が違法行為をしても倒産しても、株主は出資した金額以外は責任を負う必要はない。このことを「株主の有限責任」 (=株主の出資金額分を限界とする責任)と呼んでいる。このように株主は会社に自分の投資額以上の責任と義務を負う必要がないからこそ、国民が予期しないリスクを恐れることなく会社に投資ができるのであり、こうした株主の有限責任は資本主義制度の基礎となっている。①株主の権利 株主の 株式会社の株主は、3つの権利を持っている。 1. 議決権:会社の株主総会における議決に参加できる権利。その議決権はそれぞれの株主が保有す る株式数に比例する。 ~ 126 ~
  • 2. 利益配当請求権:会社の所有者は出資者である株主であり、会社の利益は株主に帰属する。会社 の利益を配当として株主が得るのか、それとも次の年度に残すのかは、代表取締役が決めるので はなく株主の権利である。 3. 残余財産分配請求権:会社が解散をした場合には、株主は株式数に応じて、解散処理後に残った 会社の資産を所有する株式数に応じて得ることができる。②株式に関するルールの設計 株式に するルールの設計 会社は、株式を発行して、会社の持ち分という価値を、1株当たり10万円というような値段(株価)をつけて投資家に譲り渡す。投資家は、株式をある値段で購入することにより会社に投資する。つまり、投資家は金銭を支払って株式を購入し、その会社の先述のような権利を獲得するのである。 会社を設立する時には、その株式に関する基本事項を定款に定める必要がある。 その基本事項とは、 ・会社が発行できる株式数の上限。 ・株式の権利。 (普通株式か、特定の権利を持った優先株を発行できるか。) (株式の譲渡制限の有無:株式は自由に譲渡売買できるか、取締役会の許可が必要か。 ) ・株式の取扱いの規定。 が代表的な事項である。③株式発行による資金調達 株式発行による資金調達 による したがって、新しく会社を立ち上げる起業家は、自分達の会社の株式を発行し、それをある値段(株価)で投資家に買ってもらうことにより、会社の資金を調達できる。例えば、1株10万円で500株の株式を投資家に買ってもらうことができれば、会社は10万円×5000株=5000万円の資金を獲得することができ、しかも融資とは異なり「返済義務のない資金を得る」ことになる。株券という一枚の紙切れを1株10万円のような値段をつけて投資家に販売することによって、会社は資金を得ることができる。 (実際の株券の見本)④資本構成の検討 資本構成の しかしながら、株主とは会社の所有者であり、会社の基本事項を決めることのできる者である。会社の株式を100%外部の投資家に売ってしまえば、その会社は起業家や創業メンバーのものではなく、投資家の所有となり、投資家が会社の事項をすべて決めることができるようになる。そうなると、起業家達は会社を立ち上げても、 (役員や従業員としての給与報酬はあっても)配当は得られず、会社の株式を所有してなければ会社が拡大して会社の価値が高まってもその恩恵を受けることができない。 したがって、起業家達は、株式による資金調達を行う際には、 「会社を高く売る」ことにより、自分達の保有する株式のシェアをできるだけ高いままにしたいと考える。株式発行によって会社の持ち分を投資家に売るのであって、少ない持ち分を高く売るのが起業家達にとって有利である。逆に外部の投資家は、多い持ち分を安く買いたい。この両者の利害の違いから、株式による資金調達では、起業家達(会社の経営者)と投資家の間で交渉が行われ、両者が合意した株価で投資が行われる。この合意した株価に会社の発行した株数を乗じた金額が、会社価値(企業評価価格)である。 起業家達は、こうした株価とともに、株式発行によって、自分達それぞれの保有する株式数やその割合がどうなるのか、そして投資家の株数の割合がどするかという資本構成に細心の注意が必要となる。なぜならば、株主総会における株主の「議決権」は株式数に比例したものであり、配当も株式数に比例する。したがって、起業家達が高い株式シェアを持てば株主総会で自分達の株式数で多数決を得ることができるが、逆に株式シェアが低ければ外部の投資家の意見が通ってしまう危険性がある。 ~ 127 ~
  • 下表の例のように、会社創業時は創業メンバーや親族・知人だけで会社の株式を取得し、 「内輪のメンバー」で100%の株式を保有することになる。しかし、外部の投資家が参加する場合(ここではベンチャーキャピタルが投資する場合) 、表のように投資後には3000万円の資金調達が実現するけれども、ベンチャーキャピタル2社が会社の株式の24%を保有する株主となる。 株式による資⾦調達と会社の資本構成(例) 会社創業時 ベンチャーキャピタルの投資後 取得株 発⾏時の 取得株 発⾏時の シェア 資⾦調達額 シェア 資⾦調達額 式数 株価 式数 株価 田中 洋 代表取締役社⻑ 100 52.6% ¥50,000 ¥5,000,000 100 40.0% 創業 ⻘⽊ 和夫 取締役 20 10.5% ¥50,000 ¥1,000,000 20 8.0% メンバー 上田 明 取締役 20 10.5% ¥50,000 ¥1,000,000 20 8.0% 親族・ 田中 一成 田中社⻑の⽗親 30 15.8% ¥50,000 ¥1,500,000 30 12.0% 知⼈ ⽊村 安雄 田中社⻑の知⼈ 20 10.5% ¥50,000 ¥1,000,000 20 8.0% ベンチャー 第一キャピタル 30 12.0% ¥500,000 ¥15,000,000 キャピタル 大阪キャピタル 30 12.0% ¥500,000 ¥15,000,000 合計 190 100% ¥9,500,000 250 100% ¥30,000,000 会社の( 5 ) 会社 の 登記 株式会社は、法人登記がなければ成立しない。 会社法第49条 株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。 登記をしていない株式会社は法的に権利がないから、株式会社の存在が認められず、契約をしても無効となる。したがって、会社の機関設計を定め、資本を集めた後には、公に認められた会社とするために「登記」を行う必要がある。法人登記は法務省法務局(いわゆる登記所)に対して行い、定められた事項を登記官が法人登記簿に記載することにより完了する。 登記簿の例 商号 インフォマート・システム株式会社 本店 東京都渋谷区渋谷1丁目2番地○号 発行株式総数                  190 株 資本金の額            金  9,500,000 円 目的 1.通信システムによる情報サービス。 2.情報管理、処理サービス。 3.コンピュータシステムによる計算業務の受託。 4.データー通信システムに係る装置の開発及び保守の受託、販売。 5.コンピュータソフトウェアの開発及び販売。 6.情報通信システムに係るコンサルティング業務。 7.特許権の保有、取得、運用。 8.内外の他会社に対する投資、融資および債務の保証。 9.情報通信技術者の養成。 10.広告宣伝業及び広告代理店業。 11.電話回線およびインターネットを利用した電話番号案内等の情報提供サービス。 12.前各号に附帯する一切の事業。 役員に関する事項 代表取締役        田中 洋 取締役          青木 和夫 取締役        上田 明 社外取締役        田中 一成 監 査 役         越山 淳 平成23年3月11日 登記                                  東京法務局                        (登記官印)   ○○ ○○   (印) ~ 128 ~
  • ( 6 ) 雇用と 就業規則 雇用 と 企業を経営していく上での「人、モノ、金、情報」が四大要素であり、人の生産性の向上がどんな会社にとっても大変重要である。企業の経営者は、就業規則、採用研修、給与・ボーナスなどの人事について様々な工夫を凝らして経営を行っている。 従業員を雇って経営していくには、さまざまな法令や規則・制度に対応しなければならない。社会にとって人は最も重要なものであり、会社が随意に人を雇って自由に使用することは民主主義の世の中ではできないのである。例えば、会社が1人を従業員として雇用したらすぐに社会保険の支払い義務が会社に発生する。 、また、会社が10人以上の従業員(パートタイマーやアルバイトを含む)を雇用する場合は、労働基準法により会社に就業規則の作成が義務づけられている。こうした会社の労働や社会保険の業務は小さな会社では専門知識を身につけるのは難しいため、多くの会社では社会保険労務士に相談し指導を受けている。 ≪人を雇う際に必要なこと≫ ・従業員を雇用する際の法律:労働基準法、労働保護法、労働契約法、男女雇用機会均等法。 ・就業規則:法律に基づき、従業員の規則である「就業規則」を作成する。常時10人以上の労働者 (アルバイト等も含む)を使用する事業場は就業規則を作成する義務がある。 (労働基準法89条) 。 ・従業員を雇用する会社は各種保険に加入する義務がある。会社は、雇用保険、健康保険、厚生年 金保険、労働災害保険等に加入し、また労働者の福利厚生を取り決める法律に従う。 事業を 開始するための 諸届け するための諸届( 7 ) 事業 を 開始 するための 諸届 け 会社を創業し、事業を開始する場合、公的な法令に従い、かつ社会との基本的な関係を構築するために、届出を行う必要がある。 たとえば、会社を設立すれば税務署に法人設立の届け出をし、人を雇えば社会保険事務所と労働基準監督署に届け出を出す必要がある。また、飲食店を始めるには、保健所に「食品営業許可」を申請し、かつ食品衛生責任者の資格を持った者を各営業店に1名置く必要がある。危険物を取り扱う場合や特別な場所に出店する場合は、法令に応じて届出や許可・認可が必要になる。これらに従って業務を処理していないと、業務自体が認められず、場合によっては罰せられることもあるからである。Ⅴ.事業の開始 事業の こうして、会社が設立されれば、法的に会社が認められ、契約行為もでき、従業員も雇用できるから、晴れて株式会社としてスタートすることになる。起業家にとって忘れがたい日である。日本には「創業記念日」を設けている会社が多いが、この創業記念日とは法務局で登記され会社が設立された日のことである。 会社が設立されれば、事業を始めることになる。取引先やお世話になっている人々・企業に対して株式会社を設立したことを知らせ、お礼と今後の支援を願い出る。懇意なところから本社にお祝いの花輪が届けられる会社もある。これからが起業家にとっての本番である。 ■設問34 設問34 1. 定款について簡単に説明しなさい。 2. 代表取締役の役割を簡単に説明しなさい。 3. 株主は、会社に対してどのような権利を持っているか。簡単に述べなさい。 4 会社は登記をなぜ行う必要があるのかについて、理由を簡単に述べなさい。 5 資本政策を作る際に注意しなければならない点を簡単に述べなさい。 6 会社が従業員を雇う際に行わなければならない事項を3つ述べなさい。 ~ 129 ~
  • (参考-3)株主総会 株主総会・「株主総会」とは株式会社の最高の意思決定機関であり、株主が参加して会社の基本的な方針 や重要な事項を決定する。「会社では社長さんが一番偉い」と思いがちだが、会社の重要な事 項を決められるのは株主であり、社長が会社の株主でなければ、その議決にも参加できないの である。・株主総会は「定時株主総会」と「臨時株主総会」がある。定時株主総会は、毎年度1回開催さ れる株主総会で、臨時株主総会は定時以外に臨時に招集される株主総会である。定時株主総会 は、会社の決算日から3ケ月以内に開催する義務があるため、3月31日を決算日とする会社(3 月決算会社)は6月30日までに定時株主総会を開く。・株主総会で決議する事項は、会社法の定めにより普通決議と特別決議に分かれており、会社に とって重要な事項は特別決議を行う。普通決議は、出席した株主が持つ議決権(株数に比例し た株主総会での議決できる権利の数)の過半数の賛成があれば決議される。特別決議は出席し た株主の議決権の3分の2以上の賛成があれば可決される。・下記は日産自動車㈱の2010年度定時株主総会の招集通知(抜粋)だが、この通知に当日の議 案が記載されている。 第 111 回定時株主総会招集ご通知 拝啓 ますますご清祥のこととお喜び申しあげます。 さて、当社第 111 回定時株主総会を下記のとおり開催いたしますので、ご出席くださいますよう通知申しあげます。 記 1. 日時 平成 22 年 6 月 23 日(水曜日)午前 10 時 2. 場所 横浜市西区みなとみらい一丁目 1 番 1 号 パシフィコ横浜 国立横浜国際会議場 3. 目的事項 報告事項 1. 第 111 期(平成 21 年 4 月 1 日から平成 22 年 3 月 31 日まで)事業報告の内容、連結計算書類の内容 並びに会計監査人及び監査役会の連結計算書類監査結果報告の件 2. 第 111 期(平成 21 年 4 月 1 日から平成 22 年 3 月 31 日まで)計算書類の内容報告の件 決議事項 第1号議案 監査役 2 名選任の件 第2号議案 当社の従業員並びに当社関係会社の取締役及び従業員に対しストックオプションとして発行する新 株予約権の募集事項の決定を取締役会に委任する件 第3号議案 取締役に対し株価連動型インセンティブ受領権を付与する件 以 上 日産自動車㈱の定時株主総会 当日の総会の写真 ~ 130 ~
  • 第5部 ベンチャーズ・インフラⅠ.ベンチャーズ・インフラ 起業家やベンチャー企業は、自分達だけで発展できるわけではない。企業・産業が有効に機能するには、「インフラストラクチャー」(infrastructure、インフラ、社会的経済的な基盤)が必要である。電気が安定的に供給されなければ事業が成り立つわけがないし、人材や、金融、証券、会計、法務、コンサルティングのような機能が充実しているからこそ、企業は効率的に事業を経営できる。 特に、経営資源が少ないベンチャー企業は、このようなインフラストラクチャーが充実していないとスピーディーに発展していくことができない。逆に、インフラが充実しているアメリカのシリコンバレーのような地域はベンチャーが目をみはるような発展をすることになる。ベンチャー企業の活動は少数のファクターによって一律に強弱が決まるものではない。インフラや、時代背景、地域の状況、社会意識、産業構造、技術革新など、多くの要因が影響し合って形作られている。ここでは、ベンチャー企業の発展にかかせないインフラと環境を「ベンチャーズ・インフラ」と呼び、ベンチャーにとってそのような機能がなぜ必要であるか、またどのような機能を果たしているのかを考察する。 ベンチャーの日米格差は周知の事実、では米国でベンチャーが成功して日本でなぜうまくいかないか、という議論があちこちでなされている。このテーマは甲論乙駁、確とした答えはなかなか出てこない。しかし、米国がすべてうまくいっているわけでもない。最近はカリフォルニア州などの西海岸諸州やテキサス州、コロラド州でハイテク・ベンチャーが続々登場している一方で、東部や中西部諸州のハイテク産業は思わしくなく、それなりに地域間格差がある。また、世界的にみると、新興企業の活躍が目立つ国は、欧州ではイギリス、アイルランドと北欧、アジア地域ではシンガポール、香港、インド、イスラエルである。他方、ドイツ、フランスや日本、韓国では、こうした起業家の動きが停滞しているといわれる。 また、日本でも昔からベンチャーが育たなかった訳ではなく、明治・大正時代、あるいは第二次大戦後から高度成長の前半までの時期には、今日の多くの大企業が起業家によって勃興している。パナソニック、ソニー、カシオ計算機、京セラ、本田技研、リンナイ、YKK AP、ダイエー、イトーヨーカ堂(現セブン&アイ・ホールディングス) 、セコムといった大企業は、第二次大戦後から1960年代にスタートしたかつてのベンチャー企業である。Ⅱ.ベンチャーズ・インフラの要素 ベンチャーズ・インフラの要素 これまでの日本では、経済や金融制度のみならず、社会風土・慣行、学校教育、税制等の幅広い側面において、起業や新興企業の経営に不利なシステムが存在したことは事実である。そのような従来のシステムを着実に変革していくことが必要であり、世論も総論ではベンチャー支援に積極的である。実際、ここ1、2年の創業支援に対する政策や民間の取り組みは、これまでのペースを大きく上回る勢いであり、日本のベンチャー育成環境は着実に好ましい方向に変わりつつある。しかし、上記のような企業活動のインフラストラクチャーが一朝一夕に変わることはありえず、早急に変革の効果を求めること自体に無理がある。むしろ、日本固有の制度や慣行を利用しつつ、創業に有利な社会経済環境を整備することが重要とする意見も少なくない。 社会的・( 1 ) 社会的 ・ 文化的要因 日本人の起業家意識が米国人に比べて弱いということは、既に各方面から主張されている。各国で起業家が輩出されているかどうかの度合を国際比較したグローバル・アントレプレナーシッピ・モニター調査(次表)をみると、日本では起業する割合が低いことは明らかである。日本で高い学歴を持った若者は、まずは大企業のサラリーマンや公務員、あるいは医者や弁護士といった専門職を希望するのは大半であり、中小企業やベンチャーの経営者を目指すことは多くない。 それゆえ、 「日本人が米国人に比べ独立心の弱い国民であり、日本人の起業家意識も米国人に比べ弱い。 」という主張はむげには否定できない。しかし、こうした特徴は、それぞれの歴史の中で形作られてきた社会の価値観である。現時点では米国人が日本人よりも起業家的であるといえようが、米国人の方がなぜ起業家的であるかについて考える際には、社会的なファクターから考えた方が適切だろう。 ~ 131 ~
  • では、どのような要素が起業家意識に影響を与えているであろうか。考えられる要因をアトランダムに列挙してみよう。①ベンチャーへの評価が低い ベンチャーへの評価が 評価 日本は独立起業に保守的な風土 日本の高学歴者にとって、ベンチャー企業の経営者は人生の目標ではな •南米、アジアの発展途上国は起業家的風土が強い。い。大企業への就職が困難な場合や、 •日本は西欧先進国と同様に起業活動率が低い。大組織の中で希望するポストにつけ 世界各国の起業活動率(2007年) タイ 26.9% ポルトガル 8.8% デンマーク 5.4%なかった時、あるいは自分の働く企業 ペルー 25.9% セルビア 8.6% オランダ 5.2%が経営不振に陥った場合、といった後 コロンビア 22.7% インド 8.5% スロベニア 5.0% ベネズエラ 20.2% アラブ首長国連邦 8.4% イタリア (5.0%)ろ向きの状況下で独立する人達がこ ドミニカ 16.8% アイルランド 8.2% シンガポール (4.9%) 中国 16.4% スペイン 7.6% ラトビア 4.5%れまで多かったため、日本においては 韓国 (14.5%) クロアチア 7.3% 日本 4.3%ベンチャーの社会的評価が低くなり アルゼンチン 14.4% カナダ (7.1%) スウェーデン 4.2% チリ 13.4% フィンランド 6.9% ドイツ (4.2%)がちであったという側面がある。日本 ブラジル 12.7% ハンガリー 6.9% ルーマニア 4.0% アイスランド 12.5% ノルウェー 6.5% フランス 3.2%では、中小企業を見下す傾向、軽視す ウルグアイ 12.2% スイス 6.3% ベルギー 3.2%る傾向が払拭されていないが、ベンチ オーストラリア (11.9%) ギリシャ 5.7% プエルトリコ 3.1% 香港 9.9% トルコ 5.6% ロシア 2.7%ャーの場合もこうした中小企業のく 米国 9.6% イギリス 5.5% オーストリア 2.4%くりの中で見られる場合が多い。日本 カザフスタン 9.4% イスラエル 5.4% (注)グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)の2007年調査による。 起業活動率=(現在の独立・共同経営へ関与している者では、商品、技術よりも、会社の漠然 +将来独立し新ビジネスを行う意思のある者)/アンケート回答者全体。   カッコは2006年以前の調査による数値。黄色はG8国。 37とした信用や、規模、知名度が優先されがちで、新しい事業を興す場合には、スタートアップの段階で予想以上のエネルギーを要求されることが少なくない。②ベンチャーに人が集まらない ベンチャーに人 ベンチャー企業の社会的評価の低さは、求人面でも問題となる。先に述べた高学歴者層が大企業を求める傾向が強いため、優秀な人材を確保することが日本のベンチャー企業にとって困難である。他方、米国のハイテク・ベンチャーでは、名門大学の大学生や大学院生が卒業後の就職先候補と考えながら小さなベンチャー企業でサマー・ジョブ(夏季休暇中のアルバイト)をするケースは少なくない。日本の大学の学生が卒業後にそのままベンチャー企業に就職することは、最近増えたこそあれ、かつては変わり者扱いをされたのである。③成功者が賞賛されにくい 成功者が賞賛されにくい 起業家やベンチャー企業に対する社会的評価は日本においては米国と比べると相当低い。米国においては、ピルグリム・ファーザーズによる最初の移民以来、移民と西部開拓で培われたフロンティア精神を誇りとする気風がアントレプレナーシップに対する評価につながっている。 これに対して、日本では伝統、歴史を重んじる気風があり、成功者を「成り上がり者」と見下す意識がまだまだ残っている。ライブドアの堀江貴文社長(104~107ページ参照)が検察により強制捜査を受けると、日本の経済社会は手の平を返すようにホリエモン批判に転じ、新興のベンチャー経営者を批判・揶揄するマスコミの論調が急増したことも、日本的価値観の縮図といえよう。あるいは、 「清貧の美学」「武士は食わねど高楊枝」という貧を尊ぶ日本的な美意識も根底にある。高い賃金をもらっ 、ていなくても一生懸命に働けば良いという価値観は金儲けを軽蔑する価値観にも影響している。④目標とするベンチャー成功者が少ない 目標とするベンチャー成功者が とするベンチャー成功者 これに加え、日本では経済界の重要人物にはベンチャーの経営者が少ない。ベンチャーを目指す学生やサラリーマンにとって、理想となるようなサクセスストーリーがなかなか見当たらない。戦前戦後に企業を立ち上げた起業家は日本でも少なくないが、既に数十年前の話で身近ではない。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグや、グーグルのセルベイ・ブリンのような若い世代の起業家による強烈なサクセスストーリーが日本ではきわめて少ない。⑤終身雇用 ビジネスの構造上からも要因がある。第一に、日本の大企業では「形式上」は終身雇用を採用している。日本の労働法制でも会社業績の深刻な不振のような相当な理由がないと従業員を解雇できない仕組みにある。最近は雇用が流動化しているとはいっても、年功序列が基本にあり人並み以上の給与が生涯にわたって支給される構造であれば、学生が大企業を指向することは合理的な選択である。また、大企業に中途採用で就職することは難しく、就職しても中途採用者は昇進等で不利なこともある。 ~ 132 ~
  • このような閉鎖的な労働市場も『寄らば大樹』という労働観を結果として支えるものとなっている。⑥大企業で働くメリット 大企業で また、一度会社に入社してしまうと、そこから飛び出すには大変な勇気とエネルギーを要する。ことに大企業の研究者、技術者は、営業職などと比べても社会との接点が少ないのが一般的である。中でも、サラリー以外のメリットの大きさが、転職を阻害する大きな要因の一つとなっている。退職金や年金だけでなく、社宅や福利厚生施設、住居・自動車購入の斡旋やローンの便宜、社内の病院・診療所施設のように、日本の大企業の「居心地の良さ」は米国企業を圧している。⑦日本企業の「自前主義」 日本企業の 自前主義」 歴史的に形成されてきた日本のビジネス構造とベンチャーとの間に、数々のミスマッチが存在することも、日本におけるベンチャー経営を難しくさせている。日本企業は、経営問題から実務まで社内や関連会社の中で処理し、密接な関係のない企業に業務を委託することを回避する、内製主義、自前主義的な考えが依然強く残っている。いわゆる「ケイレツ」や「カンバン方式」にみられるように、自社を取り巻く関連グループ内で業務を効率的に完結させようとするシステムが一般的である。反面、全く取引のない新参の企業には参入障壁が高い。これは外国企業の非関税障壁の問題のみならず、ベンチャーのような新興企業が大企業に取引を開始する上で大きな問題となる。また、日本の中小企業でもこうした自前主義は強い。日本の中小企業は、慢性的な人材不足や情報不足に苦しんでいるが、外部からこうした経営資源を取り入れることができず、地道に自社内に経営資源を集めて発展させていかざるをえないのが現状である。 こうした自前主義の一方、米国のベンチャーではオープン・アーキテクチャーという経営スタイルが一般的である。彼らは、従業員は周辺の企業や大学からかき集め、生産ラインや販売ルートも他社との提携により手当てする。財務・経理やマーケティングは専門コンサルタントが期間契約で手伝うことが普通である。こうした外部頼りの経営によって、設立して2、3年のうちに売上がゼロから数千万ドルの規模に成長する「墨俣の一夜城」のような急成長企業が少なくない。⑧社外交流の少なさ 社外交流の オープン・アーキテクチャーの強調は社外ネットワークの重視にもつながる。日本のサラリーマンは、社内の情報収集や意志疎通にかかりっきりで社外の人脈は重視せず、ことコミュニケーションに関しては、社内9割、社外1割というウェイトが普通であろう。米国のベンチャーは、その正反対であり、新しいビジネスや他企業の情報を懸命に集めている。 経営資源を持たないベンチャーにとって、このような「ネットワーキング」が重要であることは間違いないけれども、現実として日本では人々がそういう動きをしておらず、「寄り合いの場」が少ないことは起業家にとって好ましい環境ではない。( 2 ) 経済的要因①成功報酬 リスクのあるベンチャーに挑戦しようとする起業家は、そのインセンティブが「もうけ」という報酬にあることは当然である。 成功報酬を得るには、以下の3つの方法がある。 ・自分の会社を成長させ、自分の給与や賞与・報酬を増やす。 ・同様に、利益を出して配当を増やし、株主として利益を得る。 ・自社の株式を公開して株主としてのキャピタルゲインを得る。 前者の2つでは巨額の利益を期待することは難しい。3つ目のIPOによるキャピタルゲインがまさしくベンチャーの創業者利益である。しかし、これまでの日本では、株式を公開できる可能性が低く、創業者利益を得られる層が限られていた。日本の株式市場には厳しい公開基準が存在し、また公開社数が事実上規制されていたからである。株式公開が難しい仕組みである以上、中小企業は経営にキャピタルゲインという大きな夢を期待することが難しかったのである。②ストックオプション(Stock Option) ストックオプション( ) 米国のベンチャーに集まった人間は、自分で会社の株を購入し所有しなくても、ストックオプション(139ページを参照)の態によってキャピタルゲインを得られるチャンスが与えられる。ストックオプションには組織マインドの高揚効果があり、組織への帰属意識を高める効果がある。企業の業績が良くなれば株価が上昇し、オプションを与えられた社員が全て潤うという単純でわかりやすい報酬システムだからである。最近の米国企業は、大企業の上位200社では9割以上がストックオプションを利 ~ 133 ~
  • 用しているなど、ストックオプションが広範囲に普及している。 ストックオプションはベンチャー企業で積極的に活用されており、大企業以上に報酬制度の中核を占めている。この主な理由は以下にある。 ・ベンチャーは役員・従業員の報酬支払いのための原資が足らない分、自社株式の配分で報いるシ ステムが確立していること。 ・優秀な人材を確保し、引き止める手段としての有効なインセンティブであること。 ・未公開企業である以上株価が安く、株式公開による大幅な株価上昇(期待)が役員・従業員の夢 と熱意を高めること。 米国の経済界ではストックオプションは労働意欲を刺激する源泉との見方が支配的であるが、日本では1995年11月に施行された改正新規事業法によって認定企業がストックオプションの導入が可能になり、1997年6月の国会で商法が改正され、すべての株式会社にストックオプションを実施する道が開かれた。 複合システムとしての システムとしての起業家支援( 3 ) 複合 システムとしての 起業家支援 以上のように、いくつかの断面だけを整理しただけでも、日本において多数の起業家が輩出しやすい環境を構築するには、さまざまな側面からの手を打たねばならないことが想像できるだろう。起業家経済は、起業家だけでは成り立たない。主役である起業家だけではなく、いくつもの種類の創業支援者群が脇役と裏方で働かなければならない。また、社会制度や国民の認識を起業家が活動しやすいものに変えていく必要がある。 こうした起業家経済のインフラは、 「起業家経済システム」というべき、複数の仕組みからなる総合的な社会システムであり、それぞれの仕組みが相互に発展して、ベンチャー育成のシナジー効果をもたらすと考えられよう。その仕組みには、次のような機能が必要である。①起業家輩出システム 起業家輩出システム 外部の支援組織が拡大し支援策を増やしたとしても、起業家自体が増えなければ起業家セクターは成長しない。ベンチャーのスタートアップはとどまるところ起業家の意志であり、起業家の予備軍となりうるセクターにいる人々が、創業を目指しやすい仕組みをどう作っていくかが重要な課題となる。 起業家は、以下のパターンによって輩出されている。 1.企業からのスピンアウトによる創業 2.企業による「のれんわけ」、親会社承認のもとでの独立 3.企業主導による新規事業(社内ベンチャー、コーポレートベンチャー) 4.大学や研究所の研究者・エンジニアによる創業 5.その他(学生の創業、主婦の創業、個人事業主の新事業進出など) この中で、日本において最も期待されるのは、1と4のスピンアウト創業である。米国でもハイテク・ベンチャーは、企業スピンアウトが最も多く、ついで大学・研究所からの創業である。創業までには、独自の技術や事業計画を開発するだけでなく、ビジネスのノウハウや人脈、交渉力のような経験を積み重ねる必要があり、その場としては大企業や大学、研究所が適するのはいうまでもない。 しかし、当の企業や研究所にとってみれば、ベンチャー振興のためにスピンアウトを奨励することはできないから、企業と起業家の双方が利益となるような手だてが必要になる。社内ベンチャー制度や、新規事業子会社におけるインセンティブ制度の導入、起業家と出身企業の共同事業、社内知的所有権の分配システムなど、今後も改善していく項目は多い。 また、大学における起業家教育の役割が大事である。日本のベンチャー支援策は、施設づくりやイベント発案のように、ハードとして目にみえるハコづくりや、華やかにみえる施策を優先しており、大学・大学院での起業家教育のような地味なインフラは発展してこなかった。起業家教育は将来のベンチャーにおける経営能力を高める場であり、米国でも高い評価を受けている。現在までのところ、十数の日本の大学で起業家教育がスタートしているが、他部門の教員の兼任や部分的な起業家教育を行うのみに留まっており、この面での公的な支援が強く望まれる。 ビジネス創造 創造システム②ビジネス創造システム 起業家がリスクマネーの供給者や他の支援者にとって魅力ある存在であるためには、事業のスピードアップが重要である。世間並みの技術やアイデアでは急成長を実現できない。ベンチャーの行うような新事業は、起業家だけで運営するのではなく、外部の脇役と裏方が支援することにより、起業家だけでは成し得ない急成長を実現することが必要である。ハイスピードで成長を実現して大きなリターンが得られるがゆえに、ベンチャーという高リスクの事業が受け入れられるのである。 ~ 134 ~
  • ③ビジネス評価システム ビジネス評価システム 評価 また、ベンチャーに資金を供給する側、支援する側においても、ベンチャーに関わることによるリターンを大きくするためには、できるだけベンチャーに早い段階から参画する必要がある。初期のシーズやスタートアップ段階の企画や企業を発掘し、先行的に参画していくことによって、ベンチャーの企業価値の飛躍的上昇、それにともなうキャピタルゲイン等のリターンが拡大するからである。 このためには、事業企画の可能性を自分で判断でき、ベンチャーを指導していけるだけの能力、経験や人脈を持った専門人材が欠かせない。専門家はリスクマネーを供給するベンチャーキャピタルだけではなく、リサーチパークやインキュベーター、支援策を推進する公的部門にも必要な人材である。④ネットワークシステム 外部の情報とつながりは、起業家にとって大企業とは比較にならないほど重要な経営資源である。自前で発展させ蓄積できる余裕がベンチャーにはないからである。この起業家と別の起業家やベンチャーキャピタル、エンジェル、大企業などの外部のプレーヤーを結びつける「ネットワーク」と「情報流通」に関する評価が先進国の間で急速に高まっている。特にベンチャーと投資家を結ぶキャピタル・ネットワークが注目されている。これらは、起業家のビジネスプランを発表して投資家や支援者の参画の機会を増やそうとするフォーラム活動や、インターネットを利用した事業計画の公開の2つが主な活動である。■設問 35 1. ベンチャー企業が発展するために必要なインフラについて、重要なものを3つあげなさい。 2. なぜ日本ではベンチャー企業に対する社会の評価が低かったのかを簡単に説明しなさい。 3. 「寄らば大樹」という格言の意味を述べなさい。 4. アメリカでベンチャー企業での成功を目指す人々が多い背景について、自分の意見をまとめなさい。 5. 起業家がベンチャー企業で成功すると、どのようなものを得ることができるか。上の説明から具体的 に挙げて述べなさい。Ⅲ.米国のベンチャー発展地域 米国のベンチャー発展地域 のベンチャー 起業家的地域の(1)起業家的地域 の 発展 起業家的地域 米国の産業集積は複数の軸がある。自動車、機械、鉄鋼のような五大湖周辺部は大企業セクターが多く、ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルス等の大都市部にはサービス・金融セクターが立地して ~ 135 ~
  • いる。起業家セクターの立地は大企業セクター地域でも大都市部でもなく、地方の都市近郊地域に分散している。 最近の発展地域はどこであろうか。成長企業が数多く分布する地域は、カリフォルニア、テキサス、フロリダ、マサチューセッツ、メリーランドである。また米国のベンチャーキャピタルの投資額を州別にみると、カリフォルニア州が全体の4割を超え、これにマサチューセッツ州9%、テキサス州4%の3つの州で投資額の半分を占める。このように、西部・太平洋諸州に成長企業が多い。 現在、米国が国際競争力を持つ企業はハイテク産業であり、起業家のスタートアップにおいてもハイテクが第一のターゲットになる。 起業家は、周りに自社の開発をサポートしてくれる企業や研究所、あるいは製品・サービスを販売するクライアントが多数立地する地域を選ぼうとする。必然的に、ハイテク産業の立地する地域に起業家が引きつけられ、ハイテク企業がますます集積する。スタートアップ企業をサポートする仕事も数が多いとビジネスの魅力が増すから、ベンチャーキャピタルやコンサルタント、弁護士、会計士の参入も増え、起業家セクターのためのインフラがおのずと集積される。 1980年代から、全米で地域振興のためにハイテク産業集積の基盤を作ろうとする動きが活発化した。これが「リサーチパーク」 (サイエンス・パーク)と呼ばれるものであり、現在全米で150ケ所を超えるリサーチパークが存在する。現在、ミニ・シリコンバレーと呼ばれるほどハイテク産業が集積した地域は、シリコン・ヒルズ(テキサス州オースティン周辺部) 、シリコン・プレイリー(テキサス州ダラス・フォートワース周辺部) 、シリコン・マウンテン(コロラド州デンバー周辺部)などがある。 リサーチパークの始まりは、1951年に設立されたスタンフォード大学に隣接したスタンフォード・リサーチパークと59年設立のノースカロライナ州ラーレイ市、ダーラム市近郊にあるリサーチ・トライアングル・パークである。手法としては、研究型大学を核としたリサーチパークを地域により設置し、新興企業のスタートを支援する施設(インキュベーター等)やメンバーをそろえ、大学や研究所の研究成果の企業化を促し、地域に起業家やハイテク・ベンチャーの輩出を促進させようとするものである。こうしたハイテクの集積運動は、各分野のニーズに合致する。大企業や起業家はリサーチパークでの技術情報や研究成果に期待し、地方自治体はハイテク産業による雇用創出などの地域発展を望み、大学では学内技術の企業化や近郊地域の発展は大学財政上メリットを生むからである。 シリコンバレーの( 2 ) シリコンバレー の 歩 み 現在、世界的にシリコンバレー地域の競争力が再評価されている。米国経済はソフトウェアやインターネットに代表される先端産業の成長によっている。アップル、インテル、ヤフー、グーグルに代表される、かつてのベンチャー企業の活躍が米国経済を牽引しているが、これらのハイテク企業の多くがシリコンバレーに立地している。 シリコンバレーの発展は第二次大戦前後に始まる。このサンフランシスコ市から南に50キロほど離れたサンフランシスコ湾岸一帯(バレーと言われる程の峡谷ではなく平坦な盆地である)は、当時は農作物と果樹園、放牧以外にさしたる産業のない温暖な田園地帯であった。①スタンフォード大学の存在 スタンフォード大学の 大学 学術研究の基礎は19世紀後半から築かれてきた。サンフランシスコの対岸バークレー市には1855年に最初のカリフォルニア大学であるUCバークレー校が創立され、また1889年にはシリコンバレーの北端にあたるパロアルト市にスタンフォード大学が創設された。 このスタンフォード大学は、大陸横断鉄道とゴールドラッシュで巨財をなしたサンフランシスコの鉄道王リーランド・スタンフォードが、息子の不慮の死をきっかけに西海岸の子弟に教育の場を与えようとした新興大学であった。1891年10月、彼が提供した基金とパロアルトの農場によりスタンフォード大学が正式に開校した。無線通信技術の隆盛した20世紀前半に、スタンフォード大学はエレクトロニクス分野で名をあげ始めた。 1927年には、MITからスタンフォード大学に戻ってきたフレッド・ターマン博士が大学で教鞭を取り始め、大勢の優秀な卒業生を育てた。大学でターマン博士の教えを受けたウィリアム・ヒューレットとディビッド・パッカードが、大学卒業後にスタンフォード大学近郊のパロアルト市へ戻り、下宿先のガレージを使ってにわか仕立てのオフィスを設け、電子測定機の開発を始めた。これがヒューレット・パッカード社(38年設立)である。また、39年には同大学で研究していたラッセルとシガードのバリアン兄弟(後に48年バリアン社を創業)が、クライストロン管(レーダー用の超高周波発振管)を発明している。両社は第二次大戦の戦中戦後に成長し、51年に開設されたスタンフォード・リサーチパークに入居している。それ以降現在までの間スタンフォード大学に端を発したシリコンバレーのハイテク企業は数えきれない。その例としてスタンフォード大学コンピューター・サイエンス学科の逸話があげられる。かつて1980年当時、この学科が入っていたマーガレット・ジャックス・ホールという建物の2階にジム・クラーク准教授(シリコングラフィックスとネットスケープの創業者)が入り、4階にはアンディ・ベクトルスハイム(サン・マイクロシステムの創業者の一 ~ 136 ~
  • 人)が博士課程で学んでおり、また地下1階ではレン・ボサックとサンディ・ラーナー(二人はシスコ・システムズの創業者)がコンピューター・ネットワークを研究していた。同じ時期に同じ建物にいた研究者が作ったベンチャーが3社の世界的なハイテク企業に成長したのである。②ベンチャーの細胞分裂 ベンチャーの細胞分裂 1950年代には、シリコンバレーに半導体産業が育ち始めた。トランジスタの発明でノーベル賞を受賞することとなるウイリアム・ショックレーは、東海岸のベル研究所を辞めてこの地に戻り、1955年にショックレー半導体研究所を設立した。やがて経営方針の対立から8人の技術者がショックレーと袂を分かち、57年にフェアチャイルド・セミコンダクターを設立、さらにフェアチャイルドからもスピンオフした技術者や彼らと関係の深いエンジニア達が次々と細胞分裂するように新会社を起こしていった。同社から独立したロバート・ノイス、ゴードン・ムーアらのインテル(Intel Corporation。1968年設立。現在はマイクロプロセッサー販売で世界最大の半導体企業)がその代表であり、スピンアウトによって新たに半導体メーカーが次々と増えていった。今日までのシリコンバレーにおける半導体開発は、このフェアチャイルドがいわば本家であり、フェアチャイルドの流れをくむ企業は「フェアチルドレン」と呼ばれている。 1951年にゼロックスがパロアルト研究所(PARC)が開設され、52年にはIBMがサンノゼ市にディスク・メモリー部門の拠点を設けていた。1970年代にはこれらの研究所からコンピュータ産業のベンチャーが発展する。1970年、IBMを辞めたジーン・アムダールがアムダール(メインフレーム・コンピュータ製造)を設立した。また、当時は20代のスティーブ・ジ シリコンバレー年表 シリコンバレー年表ョッブズとスティーブ・ウオズニックが、1977年にアップ 1769年 サンフランシスコ湾にスペインが居留地を設ける。ル・コンピュータを設立し、 1849年 サクラメント北方で金鉱発見、ゴールドラッシュが始まる。同社がパソコンを世界的に普 1850年 カリフォルニア州、米国で31番目の州に昇格。 1891年 スタンフォード大学開校。及させた功績は大きい。その 1927年 フレッド・ターマン、スタンフォード大学で教鞭を取る。1955年同大学副学長に就任。後、コンピュータの発展にと 1937年 バリアン兄弟、スタンフォード大学でクライストロン電子管を発明。もなって、ソフトウェア産業 1939年 ヒューレット・パッカード社創業。やインターネット産業も発展 1946年 スタンフォード研究所(SRI)設立。していく。 1948年 バリアン社創業。 1951年 スタンフォード大学、スタンフォード・リサーチパークを開設。 1955年 ウィリアム・ショックレー、ショックレー研究所を設立。(半導体産業の始まり)( 4 )シリコンバレーの 1957年 ショックレー研究所内で経営対立。 8人がフェアチャイルド・セミコンダクター社設立。 1967年 アプライド・マテリアルズ社創業。(半導体製造装置) 地域的特徴 1968年 フェアチャイルド社のノイス、ムーア、グローブ等がインテル社を創業。 (半導体) これまでに述べたように、 1969社 フェアチャイルド社のサンダース等がAMD社を創業。 (半導体)彼らが現状と安定から脱して 1968年 ザファロニ、ALZA社創業。(医療システム) 1970年 ゼロックス社がパロアルト研究所(PARC)を設置。ワープロなどの新技術を開発。アントレプレナーとなるのは、 1971年 シリコンバレーという名称が世に登場。起業を促進する多種多様な要 1976年 ジョブズとウオズニアックがアップル社設立。初めてパソコンを市場化。因の有機的作用であろうが、 1979年 エリソンとマイナーがオラクル社設立。 (データベース)とりわけ地域の役割が大きい 1982年 サン・マイクロシステムズ社設立。(ワークステーション)と考えられる。シリコンバレ 1982年 クラーク等がシリコン・グラフィックス社設立。(ワークステーション)ーは、エレクトロニクスやコ 1984年 スタンフォード大学のボサック、ラーナーがシスコ・システムズ社を設立。ミュニケーション、およびバ 1994年 ネットスケープ社創業。(インターネット・ブラウザー)イオ等のいわゆるハイテクを 1995年 スタンフォード大学院生がヤフーを創業。対象とする企業や研究所、大 1998年 スタンフォード大学院性がグーグルを創業。学が多数存在する、独特のコ 2003年 電気自動車を開発するテスラモータースが設立。 2004年 マーク・ザッカーバーグがボストンからシリコンバレーに移住してフェイスブックを拡ミュニティを形成している。 大。 シリコンバレーの特徴を要 2006年 サンフランシスコでツイッターが事業開始。約してみよう。①ハイテク・インフラ 経済・社会・自然・文化の各側面で、ハイテク産業に適したインフラが整備されている。サンフランシスコ近郊でありながら平坦で広大な土地が残り、かつ温暖少雨であるため、研究所や工場建設も容易である。ただし、1980年代以降にシリコンバレーが急速に発展した分、賃金や地価が上昇し全米でも生産コストの高い地域になっており、半導体やエレクトロニクス周辺機器の製造は州外や国外に移転する空洞化現象が起こっている。先端的な大学・研究所が近隣にあり、それらから受ける技術的 ~ 137 ~
  • 恩恵は大きい。また、カリフォルニアという地域だけにアジアや中南米系の移民や学生、進出企業が多く、彼らの技術・労働力がハイテク企業を支えている。 人、資金、技術の動きが激しい一方で、シリコンバレーでは企業間、個人間のネットワークが発達しており、これが新企業、新規事業の立ち上げの際に力を発揮している。スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校の優秀な学生は在学中から企業を起こすケースもあるし、卒業生の間では企業の厳しい競争関係を超えた情報交換が行われている。こうした仲間が集まってスピンアウトにより新企業を設立することが普通とされている。②テクノロジー・フロンティア 米国のフロンティアの気風を今も残し、東部のような伝統や権威あるいは閉鎖的な考え方を嫌う人々が多い。また、シリコンバレーは産業構造上からも事務管理系のビジネスマンよりもハイテクのエンジニアや研究者が多く、彼らの好む開放的なコミュニティが地域に広がっている。シリコンバレーには、ガレージから身を起こして大企業に成長した企業が珍しくない。また、優秀な技術を育てて、会社ごと大企業に売却するなどにより、富と名誉を得た人たちも多い。こうした人たちが身近にいることは、若者にとって大きな知的刺激となり、また、自分でもできるという気持ちを持たせる。 しかも、彼らは他州よりも独立志向が強く、大企業のエンジニアとして安定した生活を続けるより自らベンチャーを興すダイナミックな人生を理想とする者が数多く存在している。この地域では数年で職場を変えるをことが一般的になっている。そのため、有望企業であれば、設立間もない企業でも優秀な人材を集めることができる。大企業の従業員でも、他に魅力的な職場があれば転職を厭わない。③開放的でフランクなビジネススタイル 開放的でフランクなビジネススタイル でフランクなビジネス 東海岸よりも形式にこだわらず実質本位であり、かつフランクなビジネス・スタイルを重視する。ベンチャーの従業員でスーツ姿をしているのは、限られたセクションだけであり、経営者でも社内ではTシャツ、ジーパン姿が珍しくない。理由のない規則やしきたりに反発するのもシリコンバレーの文化であり、むしろアンチ・テーゼを作ろうとするのが彼らの風土といえる。英エコノミストでは、シリコンバレーで成功した「ハイテク成り金」を次のように書いている。 シリコンバレーの特徴 シリコンバレーの特徴 シリコンバレーの特徴 ・・・実際、シリコンバレーにはニュ 1.失敗に寛大である。 -向こう傷を評価する。 2.背信に寛大である。 -「8人の裏切り者」からスタートした土地柄。 ーヨークやロサンゼルスに比べ、成り金 3.進んでリスクを取る。 -常に大ヒットを目指す。 趣味がまったく見当たらない。典型的な 4.変化を尊ぶ気風。 -変わり身の速さが宿命。 「ハイテクおたく」百万長者は、いまだ 5.実力主義のシステム。 -移民、女性にもオープンな処遇。 にフェラーリには乗らず、技術者が好ん 6.多様性と混合種。 -異端、偏執狂を好む風土。 で乗るレクサスやBMWといった車を 7.ネットワークと助け合い。-「枝葉末節なおしゃべり」が成功を生む。 愛用しているし、カネをつぎ込むのはも 8.巧みな放任。 -政府自治体は不関与、ヘタな行動はとらなかった。 っぱら高価なAV機器やハイテク暖房 9.土壌と文化が育む「可能性追求社会」 機といった中身なのだ。新興の百万長者 -文化と産業構造がシナジー効果を発揮。 たちには、どこか愛すべき無骨さがあ 10. 「集積」は「技術」より強し。 (出所) 英エコノミスト誌、“A Survey of Silicon Valley”,March 29,1997。 る。・・・④スピードとオリジナリティの重視 スピードとオリジナリティの重視 製造部門は、州外・国外のプラントに任せて、地域内では研究開発とビジネスの企画に特化する、という特徴が、拡大しているネットワーク社会経済の中で利点となっている。シリコンバレーのベンチャー企業は、一般に、特定の分野に会社の能力を集中し、それ以外の分野では他社の技術を積極的に利用しようという姿勢が強い。自社内の技術にこだわらないので、自社の専門分野以外では、最も進んだ技術を前提とした製品開発が可能になる。他方、企業の買収も頻繁で、自社で開発できないがどうしても必要な技術は他社から、場合によっては会社ごと買ってくることも珍しくない。⑤人的ネットワークによる生態系的発展 人的ネットワークによる生態系的発展 ネットワークによる カリフォルニア大学バークレー校教授のアナリー・サクセニアンの著書"Regional Advantage"(日 )では、シリコンバレーと東海岸ボストン地域との違いを、人的な交流関係の本語訳「現代二都物語」質と密度に結びつけている。例えば、先にあげたフェアチャイルド・セミコンダクターに源を発するフェアチルドレンが成長し、その中からスピンアウトした人々があらたなベンチャーを立ち上げている。人と人の結びつきが新しい企業を生み出し、その企業からまた新しい企業が誕生する、この繰り ~ 138 ~
  • 返しがシリコンバレーだという。起業家とベンチャーキャピタリストの出会いや支援は、個人的な人と人のつながりに依存したものであり、尋常な組織的な手順を踏んだものでは全くない。 米国内のみならず、日本、マレーシア、イギリスやフランスまでシリコンバレー的な地域基盤を整備しようとしている。しかし、以上のようにシリコンバレーは意図的、統制経済的に作られたものではない。逆説的な言い方だが、スタンフォード大学の創立、同大学へのターマン教授の就任、ショックレー半導体研究所の設立とその分裂のように、偶然的な事件が発展のきっかけになっている。■設問 36 1. ベンチャー企業が発展するために必要なインフラについて、重要な要素を3つあげなさい。 2. なぜ日本ではベンチャー企業に対する社会の評価が低かったのだろうか。自分の意見をまとめてみ なさい。 3. アメリカでは、なぜベンチャー企業で成功することを目指す人々が多いのだろうか。自分の意見をまと めてみなさい。 4. 人々の交流が多い地域やネットワークが発達している社会では、起業する人々が多くなるという仮説 があるが、それはどうしてなのかについて簡単に述べなさい。 5. 起業家がベンチャー企業で成功すると、どのような成果を得ることができるか。上の説明から具体的 に挙げて述べなさい。 ~ 139 ~
  • (参考-4)ストックオプション ストックオプション・「ストックオプション」(stock option)とは、新株予約権の一部である。株式会社の役員や従 業員が、一定期間内に、あらかじめ決められた価格で、会社から自社の株式を購入できる権利 を指す。・役員や社員が自分の会社のストックオプションを得れば、その株価が上がれば上がるほど、従 業員や役員が得られる利益も大きくなるため、業績に貢献した者や入社した社員のやる気を高 めるためのボーナス(インセンティブ)として利用する企業が多い。・ストックオプションは、アメリカ企業で導入され広く用いられてきたが、1997年の商法改正 により日本企業への導入が全面解禁され、日本企業でも導入が進んでいる。・ストックオプション制度には、賞与を現金で支払う場合に比べて、以下のメリットがある。 ・役員社員の現金で支給する必要がないため、資金の余裕がなくても人材を集められる。 ・株価に基づく報酬体系であるため、指標が明確であり、また会社の目標と従業員の目標の間 にズレが生じない。 ・株価が上昇基調にある限り、従業員の忠誠心や士気の向上が期待できる。・逆に、デメリットとして以下の点が挙げられる。 ・オプションの行使によって多額の報酬を手にした人材が流出するリスクがある。 ・不況で経営努力が株価に反映されない状況では、従業員のモラールの低下が起こりうる。 ・付与基準が不明確な場合は、不公平感による従業員のモラールの低下が起きる。 ・株式の希薄化による既存株主の経済的損失の可能性 ○ストックオプション支給の例 ・会社は、入社してきたエンジニアA氏のやる気を高めるために、 自社の株式10,000株を1株5ドルで購入できる権利(オプション)を与えた。 (オプションを行使する=株をこの価格で購入できるのは5年以内の条件) 自社が株式を公開すれば、株価が50ドルになる可能性が高い。 会社が伸びれば自分の資産が増えるから、働く意欲が増す。 ・4年後に会社が株式を公開し、株価が30ドル前後まで上昇した。 ↓ ・この株価をみて、A氏がストックオプションをすべて行使した。 ↓ 1株 5ドル×10,000株=50,000ドルで自社の株式を購入した。 (①コスト) ・A氏は、すぐに、 ↓ 1株30ドル×10,000株を売却し、300,000ドルを得た。 (②収入) ・A氏の税引前の利益は、②-①=25,0000ドル(約2000万円) となる。 ・このように、A氏が入社した段階では、A氏も会社も現金を使わずに、 「将来大きな お金が得られる可能性がある」という魅力を得る(魅力を与える)ことができる。 ・ただし、A氏は購入できるのは5年以内という条件がついているから、5年後までに 株価が5ドル以上に上昇しなければ、オプションを行使する(1株5ドルで株を購入す る)意味がなくなる。すなわち、5年以内に会社を大きくして株価を上げようという 気持ちが高まることにつながる。 ~ 140 ~
  • 第6部 ベンチャー・ファイナンスⅠ.ベンチャー・ファイナンスの役割 ベンチャー・ファイナンスの役割 ベンチャー・ファイナンスとは、ベンチャー企業に関する金融活動(ファイナンス)を総称する言葉である。当然のことだが、資金を持っていない起業家やベンチャー企業が、どのように資金を調達するか、資金を持つ金融機関や投資家はどのようにベンチャー企業の企てにお金を投資する、あるいは課すのか、あるいはどうやってそうした資金提供者のリスクにベンチャー企業は応えるのか、という資金に関する機能を「ベンチャー・ファイナンス」と呼んでいる。 ファイナンスは、 ベンチャーのアキレス腱( 1 ) ファイナンスは 、 ベンチャーのアキレス 腱 ファイナンスに苦しまないベンチャーはまれである。起業家はカネ、すなわち事業の資金調達で苦労するものである。お金持ちが始めるベンチャー企業(それをベンチャーと呼べるかどうかはわからないが)を別にすれば、外部からの資金調達なしにベンチャーを経営している起業家はほとんど存在しないだろう。 起業家がどれだけ資金を集められるかは、次の4つのファクターが重要である。 1.自己資金力: 企業が自己で貯えた資金。 2.自己金融力: 設立された企業が、その事業経営によって得た利益および減価償却費というキャ ッシュフローの多寡。 3.信用力: 設立された企業が、外部から資金調達を行う際に、その信用リスク判断の裏付けとな る企業の信用力。これには、事業のパフォーマンスや将来性判断という信用力と、所有する資 産や経営者の個人資産という財務的な信用力がある。 4.金融構造: ベンチャーキャピタルや金融機関などの資金提供者が、どれだけ存在し、ベンチャ ーの経営特性に見合った資金を提供するシステムが存在するかどうか。 ベンチャーの場合、上記の自己資金力、自己金融力、信用力のいずれも劣る。にもかかわらず、短期間で売上を飛躍的に拡大させることを目指すのがベンチャーであり、それには多額の資金が必要である。結果としてベンチャーが調達可能できる資金は必要な資金を下回るのが大方であり、ファイナンスがベンチャーの可能性を強く制約する。 ファイナンスの役割( 2 ) ファイナンスの 役割①資金調達手段 ベンチャーの資金調達は、大きく分けて以下の3つの方法がある。 自己資金1.自己資金 起業家や共同経営者が事業を起こす前に貯えた資金、および家族や知人の援助(融資・出資)を「自己資金」という。事業を始めるスタートアップ段階では、この自己資金が不可欠な存在である。米国の成長企業の代表であるインク500社で設立時点における資金調達状況をみると、自己資金は資金調達額全体の74%を占めている。 自己資金だけでスタートする企業も少なくない。ハイテクベンチャーでも、デル デル(Dell Inc.、パソコ デルンメーカー)の例がある。デルは、テキサス大学の19才の大学生マイケル・デルが1984年に始めたパソコン製造のベンチャーである。彼は当初テキサス大学の寮の自室でパソコン用のメモリーやディスクドライブの通信販売を始め、次いでパソコン本体の販売に乗り出して行った。当初、彼は自己資金だけで経営していたが、 予想を上回る大量注文が殺到したため、 テキサス大学を中退し事業に専念し、事業を拡大するために株式を発行して外部の投資家から資金を調達している。デルは、設立後わずか4年の1988年に株式公開を果たし、現在は売上高が615億ドル、従業員数10万人(2010年度)の巨大企業に成長している。 また、iPod、iPad、iPhoneで現代をリードするアップルも設立当初は創業者2人の自己資金から始まった。スティーブ・ジョブズが自分のフォルクスワーゲンを、スティ-ブ・ウオズニアクが計算器を売って作った1,300ドルの資金を元手に、地元の電器屋に頼んで機械の代金支払いを延ばしてもらい、1976年にアップル社を設立し最初の製造ラインを作っている。 ~ 141 ~
  • 自己金融2.自己金融 設立された企業が、事業によって得た利益と減価償却費をあわせて「自己金融」という。別の言葉でいえば「キャッシュフロー」である。この資金が十分にあって会社の資金繰りがまわっていくのが理想的だが、そのような企業が沢山あるわけがない。設立当初の企業は、この自己金融資金で調達できる部分が少ないのが普通であり、ましてベンチャーのような開発型の企業では当初は赤字経営であるから自己資金は全く期待できない。 外部資金3.外部資金 外部からの資金調達は、大きく分けてエクイティ・ファイナンス(株式発行による資金調達)とデット・ファイナンス(借入などの負債による資金調達)の2つの調達形態がある。エクイティ・ファイナンスは株式を使って調達するファイナンスであるが、これには個人投資家やベンチャーキャピタルからの出資をはじめ、取引先・金融機関の出資、および株式公募がある。デット・ファイナンスは借入や社債等の負債の形態で調達するファイナンスであり、金融機関借入や社債をはじめ、クレジットカード、リース、取引先との企業間金融がある。②ベンチャー経営とファイナンス ベンチャー経営とファイナンス 経営 一般的に言えば、ベンチャーの事業リスクは他の中小企業より高い。ベンチャービジネスが早期に業容を拡大するためには、研究開発、製品試験、品質向上、経営幹部の採用、管理部門の編成などを行わねばならず、そのための資金調達が何よりも必要である。さらにその後には、原材料・製品の調達、販売・物流部門の編成、生産要員の採用、サンプル出荷、トレードショーや新製品発表会などのマーケティングなど、生産販売に関る資金を要する。例えば、1980年代半ばにおいて米国でソフトウェアのベンチャービジネスが要したスタートアップ資金は平均で5~6百万ドルであったという。 したがって、ベンチャーでは設立後2~3年間の収益は赤字が普通である。その間に累積損失は膨らみ、黒字転換の後に累積損失がなくなるまでには通常6、7年を要する。 したがって、事業リスクが高い分、資金提供者がベンチャーに期待する収益率は高くなる。設立初期のベンチャーは、デット形態の資金調達は行いにくい。与信枠の制限されたクレジット・カードや充分な担保を提供した借入は別として、一般の民間金融機関から他企業と同様な条件で借入れることは難しい。 次の簡単な試算をみれば明白である。仮に金融機関のベンチャー向け貸出が焦げ付く確率が1年当たり全体の10%、焦げ付いた貸出の回収率を20%とする。この場合、金融機関がこの貸出で年5%の収益率を得るためには、年14%の利子率でベンチャーに貸し付ける必要がある。このため、ベンチャーの資金調達はエクイティ調達が中心にならざるをえない。デット調達は、通常の民間金融機関ローンや社債のような一般的な手段は少ない。通常は、株主・家族・知人・取引先のような縁故先からの借入や、 政府自治体等から債務保証を得て民間から借入れるケースや、 公的金融機関からのローンが中心とならざるをえない。 また、エクイティ調達の場合、購入した株式の売却益と配当が資金提供者の収益の原資であるが、 通常はベンチャーの成長性による株価上昇 (すなわちキャピタルゲイン) を資金提供者は期待する。 しかし、資金提供者がベンチャーに期待する収益率は非常に高い。 例えば米国のベンチャーキャピタルの場合、 ベンチャーに投資した資金の期待利回りは年率40~60%(アーリーステージ投資の場合) が一般的である。このためには、 投資されたベンチャーは一般的にいって年間30%以上の売上成長を果たす必要がある。 ~ 142 ~
  • ③ファイナンス・ギャップの存在 ファイナンス・ギャップの存在 ャップの もともと、中小企業は大企業に比べ資金調達手段が限られている。仮に売上が5年で100倍になるような事業であっても、資金を提供しようとするものがいなければ実現されない。現実には、そうしたケースがベンチャーなどの中小企業に幅広く存在しており、これは「ファイナンス・ギャップ」と呼ばれている。ファイナンス・ギャップは世界的な現象であり、各国の中小企業金融政策は、このギャップを改善するのが主目的の一つである。 実際、設立後何年も累損を続けるベンチャーに資金を提供するのは、提供者にとって大きなリスクである。そういう会社に安心して貸し付ける金融機関は皆無であり、また株式を取得するにせよ、まともな期間損益が得られるまでの間は、投資家は配当は受けられない。しかし、過去にこうしたベンチャーに対する資金提供者がいなければ、ベンチャービジネスの成功例は生まれなかったのである。Ⅱ.米国のベンチャー・ファイナンス 米国のベンチャー・ のベンチャー 次に、実際にベンチャー・ファイナンスがどのようなかたちで行われているのかをみてみよう。ベンチャー・ファイナンスの市場構造は、主要先進国の間で大きな差異が見られる。総じていえば、スタートアップ時点やアーリーステージ段階といった発展初期のベンチャーに相当規模のファイナンスが行われているのは米国のみであり、日本やイギリス・ドイツでは、成長軌道に乗った段階(レイターステージ)以降のベンチャーに対する資金提供が主である。また、エンジェルと呼ばれる個人投資家層、あるいはベンチャーに対する政策金融や公的金融機関の存在も各国でかなり異なっている 米国の( 1 ) 米国 の 特徴①ベンチャー経営自体が高成長指向 ベンチャー経営自体が 経営自体 米国のベンチャーは高リスク・高成長のタイプが多く、スタートアップ初期の損失が大きい一方、期間損益黒字化後の成長スピードが速い。また、ベンチャーは事業を企画する段階から株式公開を企図しており、経営者、従業員、そして投資家がともに、株式公開によるキャピタルゲインの富を得ることを第一目的に考えている。したがって、事業のスピードも速く、開発単位は3ケ月毎が一般的である。こうしたベンチャーの資金調達は、高スピードの事業開発と直結しており、開発単位毎(3ケ月~半年毎)にファイナンスを実施するのが一般的である。 対する日本のベンチャーは、中リスク・中成長型が多いといえよう。日本のベンチャーは、期間損益が黒字化しても米国ほど成長が急速ではない。また、会社設立当初から株式公開を企図するベンチャーはまだ多くはなく(最近はネットベンチャーやバイオベンチャーでは増えているが)、売上高が数十億円レベルとなり経営軌道に乗った段階で株式公開を検討しはじめるのが一般的である。したがって、ファイナンスは必ずしも開発単位と直結しておらず、米国のように四半期単位でファイナンスを行う企業はまれで、向こう1年程度の必要資金を想定して資金調達を行っている。②幅広い民間投資家から調達 幅広い民間投資家から調達から 米国の場合、起業の時点において民間の幅広い投資家から資金が提供されている。中でも、 「エンジェル」(Angel)と呼ばれる個人投資家がきわめて多くのベンチャービジネスに投資しており、そのボリュームはベンチャーキャピタルの数倍以上にのぼる。また、ベンチャーへの出資を専門とする投資会社ベンチャーキャピタルは、特にハイテクベンチャーに相当の資金を供給するとともに組織的な支援を実施しており、ベンチャー・ファイナンスの中心的なプレイヤーである。 公的な資金供給としては、SBIC(中小企業投資会社、Small Business Investment Corporation)や州の支援する公的な投資会社によるベンチャーへの出資や、SBA(中小企業庁) ・州の融資保証のような公的な支援制度がある。③高いエクイティ比率 いエクイティ比率 中小企業に対する外部金融を日米比較すると、明確な格差がある。すなわち、日本では借入等の間接金融が圧倒的であるのに対し、米国は増資による調達が相当な割合を占めている。例えば、日米中小企業の自己資本を比較すると、日本では資本金・資金準備金の総資産に占める割合が5%にすぎないのに対し、米国では17%と3倍の比率である。 ただ、デット調達が稀なわけではない。ハイテクベンチャーでは確かに借入は少ないが、設立後ま ~ 143 ~
  • もない中小企業では株主からの融資が頻繁に行われており、クレジットカード・ローンも多い。④高利益率による自己金融力 高利益率による自己金融力 による また、自己資金の面でも日米に差異がある。全体的に言えば、日本の中小企業は利益率が相当低い一方、米国の中小企業はむしろ大企業よりも高利益率の企業が多い。例えば、最近の売上高税引前利益率でみると日本の中小企業が2.0%に対し米国では4.6%と大きな格差があり、この利益率の差はそのまま企業が再投資に使える自己資金の多寡になって現れる。⑤成長段階別にみた資金調達源 成長段階別にみた資金調達源 にみた 米国の資金供給セクターが、ベンチャーの創業初期から潤沢な投資資金を起業家に提供するわけではなく、起業家が資金調達に苦しむ点は日米とも同じである。米国では、スタートアップ段階においては、自己資金や縁故資金、エンジェル(個人投資家)の資金に頼るケースが多い。 その後の資金調達は、基本的にベンチャーの成長可能性によって異なる。潜在的成長力の高いハイテクベンチャーのような企業は、民間ベンチャーキャピタルやSBIC(Small Business InvestmentCompanies、公的ベンチャーキャピタルのエクイティ投資資金が主力となる。他方それ以外の中小企業は借入資金が中心で、SBAローン(融資保証)や民間銀行融資(マイクロローン、モーゲージローン等) 、株主からの融資、あるいはクレジット・カード、リースのような、日本の中小企業金融と基本的に変わらない調達形態である。 エンジェルと呼 ばれる個人投資家群( 2 ) エンジェルと 呼 ばれる 個人投資家群 次に、それぞれの資金供給セクターについてみていこう。起業家が事業開始当初に必要な資金は、スタートアップ資金と呼ばれるが、この資金を第三者から公に広く集めることは当然難しい。従って自己資金や友人・家族・知人等のコネクションを使って資金援助を得る方法をとらざるをえない。しかし、米国ではこうした私的関係による調達以外に、 エンジェルと呼ばれる個人投資家が多数存在し、これらの全米に広がった不特定多数の個人投資家の出資が、ベンチャービジネス、特にスタートアップ資金には重要な役割を担っている。 エンジェルとは、起業家に1件5万~50万ドル程度の出資をすることができる個人投資家である。このエンジェルは不特定多数だけに実態は正確に把握できないが、米国研究者によると、エンジェルが全米で行う投資額は年間300~500億ドル、投資企業数は2万社以上との試算がなされており、これらからするとエンジェルのベンチャー投資は民間ベンチャーキャピタル(2009年度の投資額は177億ドル)を大きく上回る規模であると推定されよう。①エンジェルの特徴 エンジェルの特徴 エンジェルは次のような特徴を持つ。 ・不特定多数の個人であり、だれがどこにいるかを正確に把握できない。このため金融機関やベン チャーキャピタルのように、起業家がエンジェルと簡単には接触できない。 ・大金持ちは多数ではなく、大半を占めるのは年収10万ドル前後のアッパー・ミドル・クラス。 ・エンジェル自身が、投資する企業の分野に詳しい人が大多数である。 ・従って、資金提供を求めてきた起業家の意見を良く聞き、かつ経営のアドバイス等の支援に熱心 である。資金のみならず、経営アドバイスやノウハウ、取引・経営情報の仲介等まで提供してく れる「天使」のような存在というのがエンジェルの語源である。 ・エンジェルの出資はスタートアップ期の企業が中心である。こうした高リスクの投資を長期間継 続するところにエンジェルの特徴があり、彼らの投資収益は、投資リスクの高い起業時に出資、 成長し株式公開の時期に売却することにより得られている。 日本ではこうした米国の個人投資家層を億万長者と誤解されがちであるが、むしろ「シニアプレイヤーによるルーキー支援」と表現した方が実態に合っている。メリル、ニコルスは"Raising Money"において、エンジェルの人物像を次のように表現している。 「エンジェルは、圧倒的多数が白人男性で、通常はかつて自分自身が事業家としてならした経歴 を持つ人達である。・・・・定説に反して、医師や弁護士はごく少数である。 ・・・・・平均年収 は9万ドル。ほとんどの人がまだ引退年齢に達しておらず、平均年齢は47才。これまでに投資し てきた企業の数は3.5社で、投資総額は平均13万1千ドルである。 ・・・・」 ~ 144 ~
  • ②エンジェルと起業家の結びつき エンジェルと起業家の 起業家 しかし、一人の起業家が、自分に投資してくれそうなエンジェルをどうやって見つけるかは千差万別であり、方法は全く明確でない。起業家が身近な有力者や指導教授・先輩等を通じて知り合ったり、諸々の交友関係や会合を経てエンジェルに出会うようなケースが多く見られるようである。 米国の社会は一般に外部のネットワークを尊重し、その領域も幅広い。私的な狭い範囲の交友関係だけでなく、大学出身者・地域内・同業者といった共通の関心をつなげたサークルが無数にある。これらは趣味関心を含めたネットワークであり、ビジネスのみを目的としたものは少ない。ベンチャービジネスの起業家も、こうしたネットワークの中からビジネスの種や資金源を見つけることがかなり多い。ビル・ゲイツはマイクロソフトを設立する際に、ゲイツの母親の知り合いであるワシントン大学の理事長から金額無記入の小切手を送られ支援してもらったといわれる。アップル・コンピューターのスタートにおいても、インテル出身の個人が最初に9万1千ドルの出資を決めている。③ベンチャーと個人投資家の組織的な結びつき ベンチャーと個人投資家の組織的な 個人投資家 また、大企業に比べて対外的な交流のチャンスが少ない中小企業や個人企業では、全米で多様な交流活動(ネットワーキング)が行われている。コンサルティング会社や会計事務所などの後援により中小企業向けの講演会やネットワーキングを目的としたセミナー、コンファレンスが全米で頻繁に開催されている。中小企業がこのようなネットワーキングを通じて調達先を見つけることも少なくない。 ベンチャーキャピタル(略称:VC)( 3 ) ベンチャーキャピタル 米国のベンチャーキャピタルは、ベンチャービジネス向けの投資業務に特化した金融会社である。この特質としてまず留意する必要があるのは、彼らは金融会社でありながら銀行・証券のような金融取引専門業者とは異なる事業家的性格が強いことである。 米国のベンチャーキャピタルは、ベンチャービジネス向けの投資業務に特化した事務所である。全米の民間VCの運用総資産は、2009年末で1790億ドルである。対する日本のベンチャーキャピタルの投資残高が8,258億円であるから、日本のVCは米国の6%程度の規模にすぎない。 また、民間ベンチャーキャピタルは、2009年末時点で全米に794社存在する(*)が、これらのうち独立系が513社、金融系83社、事業会社系14社と独立系が多数で、総資産ベースのシェアでみると独立系が全体の79%を占めている。 米国VCにおいて特徴的なことは、まず彼らは金融会社でありながら銀行・証券のような金融取引専門業者とは異なる事業家的性格が強いことである。歴史的にも、新事業で成功したメンバーが集まって始めたベンチャーキャピタルがほとんどである。 米国VCの投資額、管理資産の推移(注*:794社は全米 120 300VC協会加盟のVC事務所の数) Commitments(VCファンドへの出資約束額、十億ドル、左目盛) 101 100 250 Investments(VCの投資額、左目盛) Capital under Mgmt.(管理資産、十億ドル、右目盛) 80 200 60 150 39 40 100 28 21 19 18 20 50 0 0 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (出所)NVCA “NVCA Yearbook 2010”(March, 2010)のデータをもとに作成。数値は暦年ベース。 ~ 145 ~
  • ■設問 37 1. 「ファイナンスはベンチャーのアキレス腱」と言われる理由を説明しなさい。 2. 「自己資金」とはどのようなものか、簡単に述べなさい。 3. 「ファイナンス・ギャップ」について簡単に述べなさい。 4. 「エンジェル」とはどのようなものか、簡単に述べなさい。Ⅲ.日本のベンチャー・ファイナンス 日本のベンチャー・ファイナンス①融資主体のベンチャー・ファイナンス 融資主体のベンチャー・ファイナンス 日本の金融システムは戦後一貫して間接金融が主体であった。1980年代以降上場企業の直接金融の比率が上昇しているが、中小企業の資金調達は依然として借入が圧倒的に多い。 日本のベンチャー企業にとって、借入に限れば資金調達ソースは多い。民間銀行・中小企業金融機関の中小企業向け融資残高は230兆円に達しており、公的金融機関や国・自治体の制度金融の残高も40兆円を超えていると推定される。また、公的金融支援メニユーは自治体の中小企業金融支援を中心に世界的にみても豊富である。ただし、支援策は省庁毎、自治体毎の縦割りの制度がほとんどであり、横断的統合的な施策は少ない。 日本の伝統的企業金融の特徴として、貸し手である金融機関、借り手である中小企業ともに、長期取引、総合取引を重視する傾向にある。また、金融取引も地方企業・地方金融機関同士の地場性、粘着性も高い。また、金融機関、特に大手銀行が中小企業と取引を強化する背景には、当該企業が将来成長することを期待した、 「成長性 VCビジネスモデルの日米比較の高い中小企業」を囲い込む目的がある。 日本 米国 また、ここ1、2年は都銀・地銀・大手信金が相次いでベンチャー向け投融資の組織・メ 形態 株式会社 パートナーシップニユーを強化している。専任担当組織の設置、 公開 大手は株式公開 非公開ベンチャー投資ファンド、ベンチャー向け新 組織 大。専門担当者別。 少数スタッフ融資制度、無担保融資・知的所有権担保融資 投資手法 分散投資中心 集中投資、ハンズオンの創設が中心である。ただし、総じて対応は 投資対象 ミドル、レイター アーリー、ミドル独自性が薄く他行追随的な施策が多いという 投資範囲 広い 狭い問題も指摘されており、また制度は設けられ 報酬体系 年功序列型 成功報酬型ても実際の投融資実績が低迷しているケースが散見される。 出資者 事業会社、金融機関 年金基金・財団多い 9②発展途上のベンチャーキャピタル 発展途上のベンチャーキャピタル 日本のベンチャーキャピタル(VC)は、ベンチャー・ファイナンスの主力にまでは発展していない。それは資金規模を見れば明らかである。日本では民間銀行の中小企業融資は100兆円を超えている一方、ベンチャーキャピタル全体の投融資残高はあわせて約1兆406億円(2008年3月末、VEC調査)と、依然小さな存在である。ベンチャーキャピタル自体、その多くが銀行、証券、保険等の金融機関の系列会社として補完的な機能を期待されて設立されたものである。また、VCは1980年代後半において中小企業向け融資に力を入れていた会社が多い。 すでにみたように、中小企業金融では日米ともに金融機関の融資が大きなシェアを占めている。しかし、組織的にベンチャーに資金を供給し支援する機能という観点から考えれば、程度の差こそあれベンチャーキャピタルが主役となるべきであろう。融資のようなデット・ファイナンスはある程度基盤が出来上がったレイター・ステージ(製品販売が本格化して業績が黒字に転じるような段階)のベンチャーでなければ調達は難しい。エクイティ調達にしても、エンジェルのベンチャー投資は、積み ~ 146 ~
  • 重なれば膨大な資金量ではあるが、文字どおり一個人としての活動であり組織化されたベンチャー支援とはなりにくい。また、公的機関のベンチャー投資は、あくまでも民間のベンチャー投資の限界を補完することが使命だからである。③低い経営介入度 また、日本では、投融資を行う金融機関やベンチャーキャピタルが、ベンチャー企業に直接乗り込んで指導するケースは少ない。これは以下の理由によるものと考えられている。・経営陣の持株比率の高さ 経営陣の持株比率の 日本のベンチャーキャピタルでは、投資したベンチャー企業の持株比率は20%を超えることは少なく、彼ら外部の投資家の持株が全体で経営陣の持株を上回るケースは例外的である。したがって、米国のように資金提供者が圧倒的な影響力を持つわけではない。ベンチャー企業の経営陣も、高い持株比率を維持して企業の支配権を維持し、外部の経営介入を回避する傾向にある。実際、近年株式を公開したようなベンチャーの成功事例をみても、金融機関やベンチャーキャピタルの外部の株式保有比率が発行株式の3割を超えるようなケースは少ない。米国のベンチャー企業は日本と逆であり、経営陣の持株比率が3~4割程度で、残りはベンチャーキャピタルなどの投資家が所有するのが一般的である。 ャ・資金提供者側の専門性 資金提供者側の 資金提供者側の金融機関やベンチャーキャピタルにおいて、中小企業の事業を直接指導できる程の専門性を持った人材が少ない。他方で米国のベンチャーキャピタルは、最大の資金を提供しリード・インベスターとなっているVCが、社外取締役として経営陣に入るケースが頻繁にみられる。Ⅳ.日本のベンチャーキャピタル 日本のベンチャーキャピタル ベンチャーキャピタルの歩( 1 ) ベンチャーキャピタルの 歩 み 日本のベンチャー関連産業の歴史を追ってみると、そのほとんどが米国から始まった流れや制度を後追いしながら発展したものである。公的なベンチャーキャピタルは米国のSBICを下敷きにし、初の民間ベンチャーキャピタル(VCと略す)は米国のARD(アメリカン・リサーチ・ディベロップメント、1946年にボストンで設立)にならって作られた。ベンチャーキャピタル・ファンドもしかり、リサーチパーク、株式公開基準、ストックオプションなど、多くの施策はかつて米国が作り広めた制度を日本がひな型にして導入するというサイクルの繰り返しである。以下で、順を追ってベンチャーキャピタルの歩みを整理してみよう。①中小企業投資育成会社の発足 中小企業投資育成会社の 日本のベンチャーキャピタルは、中小企業投資育成会社という公的なVCにはじまる。1963年6月に制定された「中小企業投資育成株式会社法」により、同年11月に東京、名古屋、大阪の3大都市に同法に基づいて政府、地方自治体、民間の3者共同出資により株式会社として設立された。 投資育成会社の設立には、 米国のSBIC (Small Business Investment Copmany)中小企業投資会社)の発展が背景にあり、まさにSBICを下敷きに作られた制度である。第二に、1959年頃から60年代前半にかけての日本の株式公開が背景にある。1961年、62年には店頭売買承認銘柄および第二部市場に公開された会社が150社を越え、戦後初めての株式公開ブームが起こった。また、1961年の証券取引所第二部の発足(店頭売買承認銘柄を吸収) 、63年の店頭売買銘柄登録制度の発足のように証券市場で新制度が創設されたことも投資育成会社発足の背景にあった。 中小企業投資育成会社は、ともすれば民間ベンチャーキャピタルの陰に隠れて目立たない存在であるが、現在まで30年余の間着実な投資活動が行われている②第一次ベンチャーブーム(1970~73年) 第一次ベンチャーブーム ベンチャーブーム( ~ 年○民間ベンチャーキャピタルの発足 民間ベンチャーキャピタルの発足 ベンチャーキャピタルの 民間ベンチャーキャピタルの嚆矢は、1972年設立の「京都エンタープライズ・ディベロップメント」(KED)である。京都財界は、60年代半ばから知識集約型中堅産業の育成に取り組んできたが、米国のベンチャーキャピタルを日本に導入しようとする構想が設立のきっかけとなっている。1971年に京都経済同友会は米国ハイテク産業の実態視察を目的にボストンを訪問し、当時ボストンの代表的VCであったARDの活動に注目した。そこで京都経済同友会はARDにならったVCの設立構想を企画し、1972年11月にKEDが正式に発足した。同社の資本金は3億円、大株主は、立石電機、京都証 ~ 147 ~
  • ベンチャーキャピタルに関する日米の ベンチャーキャピタルに関する日米の出来事 日米券取引所、京都銀行、京都信用金庫、日 ●ベンチャーブーム 第一次:米国(69~69年)、日本(70~73年)本興業銀行等で、43社が株主となった。 第二次:米国(78~87年)、日本(82~86年) 同じ1972年11月に、 「日本エンタープラ 第三次:米国(93年~) 、日本(94年~)イズ・デベロップメント」 (NED)も設●中小企業庁の発足立された。これは、日本長期信用銀行、 米国:1953年(SBAの発足)富士銀行、 大和銀行、 第一勧業銀行の他、日本:1948年(中小企業庁の発足)大和証券、伊藤忠商事などが大株主とな ●民間ベンチャーキャピタルの発足り、総数39社の企業が出資した。当初N 米国:1946年(ARDの設立)EDはどの特定企業グループのも属さな 日本:1972年(京都エンタープライズ・ディベロップメント他の設立)い中立色を姿勢として、ベンチャー経験 ●公的ベンチャーキャピタルの発足者と金融機関出身者が共同で実務を行う 米国:1958年(SBICの設立) 日本:1963年(東京、大阪、名古屋の中小企業投資育成会社の発足)体制であった。また、住友銀行、住友商 ●VCファンドの発足事など住友グループ16社が「日本ベンチ 米国:1969年(アーサー・ロックがパートナーシップ・ファンド設立)ャーキャピタル」を72年12月に設立し、 日本:1982年(日本合同ファイナンスによる投資事業組合設立)73年4月には野村証券の主導により、三 ●リサーチパークの発足和銀行、日本生命、東洋信託銀行など16 米国:1951年(スタンフォード・リサーチパークの設置)社が株主となって「日本合同ファイナン 日本:1982年(かながわサイエンスパークの設置)ス」(現ジャフコ)が発足した。 これらのほか、ユニバーサル・ファイナンス (現山一ファイナンス。 山一証券系列) セントラル・キャピタル 、 (同上、東海銀行、日興証券) 、東京ベンチャーキャピタル (第一勧業銀行) ダイヤモンドキャピタル 、 (三菱銀行、三菱グループ各社)の8社の民間ベンチャーキャピタルが設立された。 なお、当時は民間ベンチャーキャピタルの設立が独占禁止法に抵触する問題が議論されたが、72年11月に公正取引委員会がVCに関するガイドラインを通達し、これに添ったかたちで民間VCが設立されている。○オイルショック後の停滞 オイルショック後 この第一次ブームで発足した民間ベンチャーキャピタルは、スタートしてすぐに大きな試練を迎えた。1973年10月に起こった第一次オイルショックを発端にした不況によって、経営基盤の弱いベンチャーが決定的なダメージを受けたからである。新規株式公開企業は78年の66社から75~80年には年間20~30社にまで落ち込んだ。 高度成長期と列島改造ブームにより積極化していた企業マインドは冷え込み、省エネ、コストダウンに注力する守りの減量経営に徹するところがほとんどであった。こうした中、積極的に事業を拡大しようとする中小企業は少なく、しかもVC自体の認知度が低かったこともあって中小企業の資金需要がVCの出資に結び付くケースが少なかった。 このリセッションで、VCの活動は停滞した。京都エンタープライズ・ディベロップメントは80年3月にわずか7年余りの営業期間をもって解散し、日本ベンチャーキャピタルはベンチャー投融資活動を収束させ、社名を総合ファイナンスに変更しファクタリング中心のファイナンス業務に専念することになった。③第二次ブーム(1982~86年) 第二次ブーム( ブーム ~ 年 第一次ブームから10年が経過した82年、ベンチャーキャピタルの設立が再び活発化した。米国におけるNASDAQ市場の活況や、日本の店頭公開市場改革の論議を背景に、銀行、証券を中心に相次いでベンチャーキャピタルを設立した。この時期の特徴をまとめると、次のようになる。1.銀行、証券の参入 銀行、証券の 銀行 金融機関がこぞって系列ベンチャーキャピタルに進出した目的は、一言でいえば「有望企業の青田刈り」である。銀行は、直接融資が実行できるほど成長していない中小企業にVCの投融資を通じて資金を供給し、かつ将来の取引先候補として関係を強化できる。証券会社にとっても同様で、将来引受幹事を獲得できる有望企業を、あらかじめ系列VCの投融資によって関係を強化する目的がある。また、VCのような系列金融会社によって中小企業への融資やリース分野をグループとして拡大できる。こうして、82年には日本インベストメント・ファイナンス(大和証券系)、三洋総合キャピタル(三洋証券系) 、新日本ファイナンス(新日本証券系)など5社、83年にはオリックス・キャピタル(オリックス系) 、日興キャピタル(日興証券系)、富士銀キャピタル(富士銀行系)、三和キャピタル(三和銀行系)など10社、84年には地銀系のベンチャーキャピタルを中心に現在までの最高件数である22社 ~ 148 ~
  • が設立されている。2.地銀の参入 地銀の 地銀 1984年には地銀系のVCを中心に現在までの最高件数である22社が設立されている。大手銀行の参入をみて、地銀も地場の成長企業の株式取得を系列VCに担わせる目的から、地銀の大手・中堅クラスが多数参入した。地銀の場合、自行だけの力でVCを設立するよりも、大手VCや大手証券と組んで共同出資で設立するケースが多かった。VCの運営ノウハウや投資案件発掘の面で互恵関係が組める点があったからだろう。3.投資事業組合の設立 投資事業組合の 投資事業組合 以上のように日本のベンチャーキャピタルは、金融機関の出資による株式会社としてスタートし、主に系列銀行から借入れた資金でベンチャー投資を行っていた。こうした調達形態では、VCがベンチャー投資が成功して収入が得られるまでの間、利子や元本を返済しなければならず、VCはキャピタルゲインが生まれるまで長期間赤字状態にならざるを得ない。米国でも、萌芽期である第二次大戦後から60年代までのVCは会社形態であり、程度の差はあれ日本と同じ問題を抱えていた。しかし、69年にアーサー・ロックがリミテッド・パートナーシップ法に基づくファンドを初めて設立し、70年代以降は次第にこのパートナーシップの形態によるVCファンドの運営が米国の主流となっていった。 日本合同ファイナンス(当時)は、この米国のファンドによる資金調達を調査し、日本に導入しようと検討した。当然日本にはパートナーシップ制度は存在していないため、法制度上パートナーシップと同様な運営の行える形態を使わざるをえない。ここで最も重要なことは、ファンドを運営する主体が法人税法上で課税対象にならないようにすることであった。このために、 「民法上の任意組合」 (民法第667条)を根拠法にして投資事業組合が組成された。この組合は独立した組合員(出資者)による共同事業と解釈され、組合自体は非課税対象となり二重課税を回避できる。 この任意組合方式を用いて、日本で初めて設立されたVCファンドが日本合同ファイナンスによる「JAFCO-1号」 (1982年4月設立、出資金総額16億円)である。1980年代以降このJAFCO方式を用いて各社が投資事業組合を設立し、現在は、日本のベンチャーキャピタル全体の投資残高のうち7割強が投資事業組合(ファンド)からの投資となっている。4.非ベンチャーキャピタル業務の拡大 非 ベンチャーキャピタル業務の 業務 だが、これらの相次いで設立されたベンチャーキャピタルは、ベンチャー投資業務に専念しなかった。先述のようにVCは利払いや諸経費などのコストをまかなう収入は、ベンチャー投資だけではなかなか実現できない。ベンチャー投資も未確実であり、それだけに経営を絞るにはリスクがあった。そのサポートとして、各社は中小企業への融資やリース、ファクタリング(債権買取)のウェイトを高めた。当時は大手のVCでも「中小企業向け金融業」の性格をあわせ持っていた。5.円高不況後の不振 円高不況後の 円高不況後 プラザ合意後の円高不況を背景に、86年にはベンチャー企業の雄と呼ばれた急成長企業の大型倒産が多発した。三和機材(86年3月倒産、負債総額100億円) 、大日産業(86年4月、300億円) 、勧業電気機器(86年7月、120億円)、ミロク経理(86年8月、500億円)などである。この倒産を機にベンチャー企業の投資を見直す動きが一挙に広がり、82年以降の第二次ベンチャーブームは鎮静化した。 円高不況は2年足らずの短期間に収束し、続いてバブル経済が数年間にわたり続いたが、この時期のVCはベンチャー株式の取得だけでなく、中小企業に対する不動産関連融資を拡大させる会社が増えた。通産省「ベンチャーキャピタル投資状況調査」においてVCの融資残高をみると、調査企業の融資残高は87年末に約3千億円であったものが、91年末には1兆円強と4年間で3倍以上に急増している。ところが、90年代初頭のバブル崩壊によってこれらの不動産関連融資が多額の損失や含み損となり、手痛い損害を被ったベンチャーキャピタルがかなり多い。当時は中堅以上のVCの大多数が融資業務を行っており、多かれ少なかれバブル崩壊の痛手を90年以降に処理して現在に至っている。日本のベンチャーキャピタルで現在の収益体質が充分でないのは、不動産関連融資の影響が相当大きい。 また、90、91年にも金融機関のベンチャーキャピタル設立が増えている。これは大手保険会社や、第二次ベンチャーブーム時にVCを設立しなかった銀行、証券が系列VCを設立したためである。④第三次ブーム(1994年~2005年頃) 第三次ブーム( ブーム 年 年頃) 年頃 1994年に通産省が「創造支援事業」を開始し、95年には新規事業法の改正、中小創造法の施行などベンチャー育成への期待が強まる中で、金融機関や事業会社でベンチャーキャピタルに進出するケースや既存の系列VCを強化する動きが再び拡大した。 ~ 149 ~
  • 95年以降、新たにVCを設立した会社は、 金融機関だけでなく幅広い分野から参入してい 国内VC投資額と投資環境る。大手企業の共同設立(日本 4,500 VC投資額(億円、左目盛) IPO件数ベンチャーキャピタル、 96年2 4,000 年末⽇経平均(09年末=100) 東証マザーズ指数(03年末=100)月)や、地銀・第二地銀(みち 200のく銀行、 紀陽銀行、山口銀行、 3,500親和銀行、宮崎銀行など)の系 3,000列VC、 あるいは企業経営者や 150 2,500ベンチャーキャピタルの中堅層による独立系VCの設立が 2,000 100主なものである。 1,500 また後述するように、 中小創 2,814 2,438 2,790 2,876 2,427 2,301造法に基づく 「創造的中小企業 1,000 2,004 1,742 1,968 1,933 50 1,644創出支援事業」により、地方自 1,157 1,458 1,366 500 949治体のベンチャー財団が1995年後半以降続々と設立され、 公 0 0 95年 96年 97年 98年 99年 00年 01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09推定的VCとしてベンチャー投資に乗り出している。 日本のベンチャーキャピタルの のベンチャーキャピタルの構造( 2 ) 日本 のベンチャーキャピタルの 構造 日本のベンチャーキャピタルは1980年代以降に発展した若い産業である。そのマーケットも小さく、VCは中小規模の会社がほとんどである。信頼のおける関連統計も少なく、外部からVCの経営状況やファンドの収益状況を知ることは難しい。 ある意味でこの業界は大手金融機関の関連会社としての捉え方しかされておらず、その構造は関係者以外にはほとんど知られていないまま現在に至っている。 ベンチャーキャピタルの業界団体が何ら存在しないこともその一因であろう。多くのVCは大手金融機関の関係会社であり、VCとしての意志よりも親会社の利害関係を重視しがちなことや、新規に参入したVCが多く関心が業界としての発展に向かっていないこともある。広く資金をVCに集め、洗練された業界活動を発展させるためには、 確たる情報が公開され広く世の中に認知されるような仕組みが必要になってきている。①ベンチャーキャピタル会社の分布 ベンチャーキャピタル会社の 会社 正確なデータは存在しないが、現在のベンチャーキャピタル VC会社数会社数は200社超と推定される。1981年末が8社、85年末が86社であったから、過半数のVCは最近15年間で設立された会社 独立系 独立型 54 混成型 18である。ただし、200社余りのVCの半数前後は従業員10名以 企業グループ型 19内、管理資産が50億円以内の小規模な会社であると思われる。 事業会社系 事業会社型 26 【ベンチャーキャピタル会社数の推定】 コンサルタント型 4 200社近く(日経金融新聞、1997.7.15記事) 証券系 16 253社(ジャフコ調べ。2000年時点) 金融系 銀行系 67 186社(VECの2001年度VCアンケート先) 生損保系 9 政府系 5 238社(筆者の2006年調査) 外資系 19 ほとんどのVCは株式会社によって運営されているが、 銀行・ 大学系 その他 1証券・保険を設立母体とする金融機関の系列会社が大多数を占 (合計) 238めている。1996年末時点のVC147社のうち、証券系が22社、 (注)2006年調査。銀行系(都銀・信託・長信銀)17社、地銀系55社(うち地銀とVC等との共同設立が38社) 、保険系11社と、金融系だけで全体の7割を占めている。また、株式を公開しているVCは、ジャフコ、日本アジア投資、フューチャーベンチャーキャピタル、SBIインベストメントの4社があり、すべて未公開企業の事務所であるアメリカと大きな違いがある。 ~ 150 ~
  • ②二極分化 ベンチャーキャピタルを規模的にみれば、 大手VCと中小に二極分化している。投資残高(自己資金と投資事業組合 日本のVCは金融系列色が強いの合計値)でみた上位5社は、1997年 のVC会社が日本に存在するが、その7割は金融機関・事 •約200のVC会社が日本に存在するが、その 割は金融機関・事 約 のVC会社が日本に存在するが、その3月末時点で合計4,429億円とVC86社 業会社の関連会社として運営されていると推定。の投資残高の50%にあたる。 同じく上位 投資残高でみると、日本の独立系VCは全体の13%。米国と対 •投資残高でみると、日本の独立系VCは全体の %。米国と対 投資残高でみると、日本の独立系VCは全体の10社の投資残高は全体の67%を占めて 照的。いる。 投資事業組合はさらに大手に偏っ VCファンド出資者は、VCの親会社金融機関をコアにする傾向。 •VCファンド出資者は、VCの親会社金融機関をコアにする傾向。 年金基金の出資割合は低い。ており、 保有ファンド総額の上位5社はVC全体のファンド額の68%を占める。 VCの属性(投資残高別構成比) VCファンドの出資者構成 日本 米国 日本 米国 1997年3月時点で投資残高が10億円 2007年3月末 2006年末 2005年末 2003年末以上のVCは98社のうち58社、同じく 独立系 12.9% 独立系 83.9% 年金基金 5% 年金基金 42% 銀行系 21.9% 金融機関系 8.8% 大学基金・財団 1% 大学基金・財団 21%50億円以上が29社、100億円以上は19 証券系 31.2% 事業会社系 6.4% 金融機関・保険 31% 金融機関・保険 25%社で、1,000億円以上の会社は1社(ジャ 生損保系 7.1% その他 0.9% 事業法人 19% 事業法人 2%フコ)のみとなっている。また、大手3 事業会社系 18.5% 個人 4% 個人 10%社では200名を越える従業員を抱え、複 政府系 8.0% VC自身 18% VC自身 - その他 0.4% その他(海外等) 22% その他(海外等) -数の営業部や国内・海外支店、および専 40門の管理部門、審査部門を設置している一方、中位以下のVCでは従業員数が20名以下であり、一つの営業部が全地域の投資案件発掘から審査、投資実行まですべてを扱っている。 つまり、日本では8割以上のVCが投資額100億円に満たない中小規模の会社である。米国でも管理資産が1億ドルを超えるVCは全米600社の中で数十社しかない。ベンチャーキャピタルは、まさに少数の人間が集まり投資企業を育てる手づくりの事業といえよう。この点、企業投資会社といっても、投資顧問や投資信託会社とは本質的に異なっている。③タイプ別の特徴 タイプ別 このように、ベンチャーキャピタルといっても大手とそれ以外でかなり異なるが、以下のようにタイプ分けすることができる。1. 証券系 証券会社にとって、系列VCは投資先が株式公開を実施する際の引受幹事を取得する布石として重要である。1996年時点では証券系VC22社のうち6社がトップテンに入っており、1990年代は大手VCの多くは証券系であった。VCの業務は専門機能別の部門によって運営され、海外投資も活発で残高は全体の1割を越えている。準大手以下の証券会社が出資する中堅以下の証券系VCは、総資産50~百数十億円、従業員30~70名程度の規模である。証券系VCは投資事業組合を活発に設立して資金を調達している。安定資金源がある銀行や生損保系と違い、借入資金のみでVCを運営することは難しいことが第一の理由である。2. 大手銀行系 都銀、長信銀は、第一次、第二次ベンチャーブームの際に系列VCを設立している。中小企業取引拡大の先兵としての役割を期待されたからであるが、先述のようにベンチャーキャピタル業務だけではなく、中小企業向けファイナンス会社の機能も同時平行的に拡大していった会社が多い。現在は、後者のファイナンス業務は縮小し、VC業務に専念する体制である。3. 地銀系 地銀や第二地銀が、第二次ブーム以降に相次いで設立したVCである。大手銀行が系列VCを設立したため、地銀が自行の営業地域にある中小企業の取引を奪われる危機意識が背後にあったものと考えられる。地銀や第二地銀は、経営体力やノウハウ上の側面から独力でVCを設立するよりも大手ベンチャーキャピタルや大手証券会社と共同でVCを設立したケースが多い。大手VCとしても地方の投資案件発掘で地銀の協力を得られるメリットがある。こうして設立されたVCは、現在投資残高が数億~50億円、従業員が10名未満と中堅以下の規模で、投融資対象の企業も親銀行の営業地域に限定されている。4. 生損保系 生損保系列のベンチャーキャピタル会社は、多くが1990年以降の設立である。設立後10年未満の会社であり、現在の投資残高は10億~90億円と、中堅クラスのVCが多い。このグループのVCの資金 ~ 151 ~
  • 調達は、親会社やグループ会社からの借入ないしは、親会社とVCの2者での投資事業組合設立(2者組合と呼ばれる)が多くなっている。5. 独立系ベンチャーキャピタル このグループは、設立メンバーの個性を反映し多様な特色を持っている。特徴をあげれば、スピンアウト組による独立ベンチャーキャピタル(ワールドビュー・テクノロジー、グローバル・ベンチャーキャピタル、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ、TSUNAMIネットワークパートナーズ)、事業会社のVC進出(SBIキャピタル、オリックス・キャピタル、三井物産グローバル投資)、大手企業の連合型VC(日本ベンチャーキャピタル) 、海外投資家の日本進出(エイパックス・グロービス、ドール・キャピタル) ネットサービスに特化したブティック型VC 、 (インフィニティ・ベンチャーズ、インキュベイトファンド)など、多種多彩である。④バブル崩壊以降の低迷 バブル崩壊以降の 崩壊以降 国内インターネット利用者数、普及率 10,000 801. インターネット・バブル インターネット利用者数( 左目盛、万人) 1990年代後半以降に第三次ベンチャーブー 9,000 人口普及率(右目盛、%) 70ムが起こったが、その後、1999年から2000年 8,000 60にかけて世界的にインターネット・バブルが 7,000 50発生した。これは1995年にアメリカでインタ 6,000ーネット接続が商用化されたことやアクセス 5,000 40ポイントの拡大、ネットワーク環境の高速化 4,000 30が進んだ。例えば、日本国内のインターネッ 3,000 20ト普及率(右図)は、1997年の10%から2000 2,000年には40%弱まで一挙に普及が進んだ。こう 1,000 10したことから、世界各国でネット関連のベン 0 0チャーが勃興し、また通信会社や携帯電話会 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06年社が業績を拡大し、インターネット関連投資を盛んに行った。この盛り上がりがきわめて急速で実態以上に大きかったために、 「インターネット・バブル」と呼ばれた。2. バブルの崩壊と不祥事の発生 バブルの崩壊と不祥事の 崩壊 しかし、このインターネット・バブルの盛り上がりはあまりのも大きく、その後2001年前後にバブルは崩壊し、ネット関連企業の業績が悪化し活動が低迷した。 また、2003年以降にベンチャー企業などの新興企業において粉飾(160ページを参照)などの不祥事が続発した、代表的なものはライブドア事件(2006年、粉飾決算による大規模な証券取引法違反)である。この事件ではライブドア元社長の堀江貴文らの経営陣が証券取引法違反容疑で逮捕・起訴され、社会ではこれらの新興企業に対する不信感が増大した。ライブドアの堀江元社長(ホリエモン)と、ファンド運用会社社長の村上世彰氏(村上ファンドを運営)の逮捕は連日にわたって動向が報じられ、時代をリードする寵児として賛辞を惜しまなかったマスコミは掌を返したように批判に回った。このライブドアと村上ファンドの事件は大きく、これ以降、世間の起業家やベンチャー企業に対する目がきわめて厳しくなった。 さらに、他の新興企業でも不祥事が続発した。東京証券取引所マザーズへの初の新規株式公開企業となったリキッド・オーディオ・ジャパンの事件(2000年10月に元社長が暴力行為容疑で逮捕)に始まり、アドテックス(2006年4月民事再生法申請、2006年5月上場廃止、元暴力団組長が経営陣に加わる) 、ペイントハウス(2006年7月上場廃止、2009年6月コンサルタント会社社長が同社の架空増資容疑で逮捕) 、プロデュース(2008年10月上場廃止、粉飾)、また、2009年以降もシニアコミュニケーションやエフオーアイの粉飾事件(2010年)など、いわゆる不祥事を起こした新興企業は40社を超えている。 このような不祥事が数年にわたって続いているために、投資家が新興企業への投資を引き揚げ、株価は大きく下落した。東京証券取引所マザーズ市場の株価インデックス(指数)であるマザーズ指数は、2006年1月16日終値の2799.06から1年9ケ月後の2007年9月18日終値は620.42と、下落率は78%に達した(次ページの図) 。この東証マザーズ指数がピークをつけた2006年1月16日は、ライブドアが証券取引法違反容疑で東京地検特捜部から家宅捜索を受けた日であった。これを契機に新興株式市場の株価は総崩れになり、マザーズ指数は2月末までに37%下落した。その後も、村上ファンドの村上代表が証券取引法違反容疑で逮捕(2006年6月5日) 、堀江貴文氏の東京地裁・初公判(2006年9月4日)という出来事が続いた。さらに、前述のように新興企業の不祥事が相次いだために、株価は停滞したままになっている。 ~ 152 ~
  • ベンチャーキャピタル活動 活動の3. ベンチャーキャピタル活動の停滞 このように、新興株式市場の株価の急落とともに、新規株式公開(IPO)件数が急減した。150ページの図のように、日本国内では年間100件以上のIPO件数で推移していたものが、2009年には19件まで減少した。こうした株価下落とIPO件数の急減から、投資した未公開企業を株式公開させて利益を得ようとするベンチャーキャピタルの経営モデルは行き詰っており、十分な利益が得られず、公開ができない投資先が増える結果となっている。 同時に、ベンチャーキャピタルの投資額が減少しており、2009年度は3年前の2006年度に比べ3分の1まで減っている。VCの多くは運営する投資事業組合(ファンド)の満期が近づいており、資金調達が回復しなければ、ベンチャーキャピタル投資の低迷はこれからも続く可能性は高いだろう。 現在、国内ベンチャーキャピタルの多くはこうした氷河期が続くものと想定し、新規大型投資からの撤退や、経営のダウンサイジング、親会社や関連会社からの協力・支援、あるいは他業態への転化やブティック化による活動分野の絞り込みによって、経営規模を絞っていく方向に動いている。 このようなベンチャーキャピタルの不振は市場経済の結果である。しかしながら、日本全体を考えると、 これからの日本経済を担うと期待されるベンチャー企業の振興を担うベンチャーキャピタルの活動が長期間停滞していることは問題であり、政府の政策面での思い切った対策が望まれよう。 国内各市場の株価指数 (2004年1月平均=1) 1.8 日経平均株価 1.6 マザーズ指数 1.4 ジャスダックインデックス 1.2 1.0 0.8 0.6 ↑(2006/1/16) ライブドア家宅捜索 0.4 ↑(2006/6/5) 0.2 村上世彰逮捕 0.0 04/1 04/7 05/17 05/7 06/1 06/7 07/1 07/7 08/1 08/7 09/1 09/7 10/1 10/7■設問 38 1. 日本初の民間ベンチャーキャピタルは、どのような経緯により設立されたか。簡単に述べなさい。 2. 日本のベンチャーキャピタルは投資先の持株比率が低いが、それはVCと投資先との関係にどのよう に影響しているか。 3. 「インターネット・バブル」を簡単に説明しなさい。 4. ライブドア事件が日本の経済社会に与えた影響について、株式市場と社会のベンチャー企業への評 価の2点から説明しなさい。 5. 日本でベンチャー企業が活躍しないのは、ベンチャーキャピタルが十分な機能を発揮していないとい う主張がみられる。この主張について、自分自身の意見を述べなさい。 6. ベンチャー企業が順調に拡大せず、株式公開ができない状態が数年も続いた場合、投資家のベン チャーキャピタルはベンチャー企業に対してどのような行動をとると思われるか。自分自身の考えを 述べなさい。 ~ 153 ~
  • (参考-5)取締役会 取締役会・多くの株式会社では「取締役会」が設置されており、会社の重要な事項を決定している。法律 「 取締役会」 上は、社長が経営の重要なことを決められるのではなく、取締役会が決定し、それを社長(あ るいは代表取締役)が統率して実行する仕組みであることを理解してほしい。・取締役会は、会社法に定めにより、3名以上の取締役によって構成される。事実上会社経営の 最高責任者となっている社長(あるいは代表取締役)が、取締役会の議長となることが多い。・取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって 行うのが原則である。ただ、実際の取締役会では出席者の全員一致の賛成によって決議されて いることがほとんどである。・また、会社法の定めにより、取締役会の議事について、議事録を作成し、議事録が書面をもっ て作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなけ ればならない。・ベンチャー企業や中小企業では、創業した社長が「ワンマン経営」を行う傾向にある企業も少 なくない。そうした企業では、取締役会は十分に機能しておらず、社長が決めたことを取締役 会に出席する取締役が賛成・追随するような事例がみられる。あるいは、取締役会を実際に開 くことがほとんどない(つまり書面だけで取締役会を開催したことにしている)企業もあるの である。・外部の投資家が株主となり、そして株式公開を目指す企業は、法律を順守し、株主の目的に誠 実に応えるために、会社の機関と運営を注意深く誠実に行わなければならない。こうした会社 が株主などの利害関係者に応えるような企業統治を行うことを「コーポレイト・ガバナンス」 と呼んでいる。そのコーポレイト・ガバナンスのためにも、企業はまず取締役会が十分に機能 を発揮することが重要である。外部株主としてベンチャー企業に出資するベンチャーキャピタ ルでは、多額の投資を行ったベンチャー企業に対しては、自らの求めによりそのベンチャー企 業に取締役を派遣することがある。取締役を派遣し、誠実で効率的な運営が行われているかを 情報収集・監視し、場合によっては取締役の権限で議案に反対したり、経営改善策を提案する こともある。 ~ 154 ~