resume@JALTAS regular meeting in July

1. 文化の教え方
国際交流基金日本語専門家
黒田朋斎
0. 今日みなさんに伝えたいこと
たしゃ
 他者とスムーズにコミュニケーションをするためには、文化を理解する能力が必要です。
ぶんせき
 文化を教えるとき、学習者に文化を分析する能力を身につけさせることが大切です。
か ち
 文化の Perspectives(意味・価値・考え)を学習者自身に考えさせることが大切です。
1. 日本語学習の目標と目的
たしゃ
他者と日本語でコミュニケーションをするために日本語を学習する。
2. コミュニケーションとは何でしょうか。文化とは何でしょうか。
コミュニケーションとは…
 他の人に自分自身のこと、自分が思っていること、気持ちを伝えて、他の人にそれを理解
してもらい受け入れてもらうこと。
 他の人がその人自身のことやその人が思っていること、気持ちを自分に伝えたとき、それ
を理解し受け入れること。
たが きょうかん
 それによってお互いが 共 感 し、「分かりあう」こと。
文化とは…
はいけい かちかん
人々の生活の仕方や行動の仕方、その背景（back ground）にある価値観や考え方、感じ方
のこと。特に…
ちょくせつ
 言語と 直 接 関係がある文化。
あい じ ぎ
例）人の呼び方などの言語行動、相 づち・お辞儀・ジェスチャーなどの非言語行動
じょうきょう
 言語と直接関係ないが、言語を使う場面や 状 況 、コミュニケーションの相手を理解す
はいけい
るために必要な言語の背景 にある文化。
れきし せいど ぎょうじ
例）地理・歴史・生活習慣・教育制度・行事 など

2. 3. どうして日本語学習で文化を学習しなければなりませんか？
はいけい いぶんか きょうみ せっきょくてき かか
 自分と違った文化背景 （＝異文化）を持った人に興味 ・関心を持ち、 積 極 的 に関 わろう
たいど
とする態度を作るため。
いぶんか そんちょう たいど
 異文化を持った人の「違い」を 尊 重 （respect）し、それを受け入れる態度を作るため。
せいかく へんけん せんにゅうかん こていかんねん
 他の人の文化について正確 な知識を得て、自分の偏見 や 先 入 観 や固定観念を変えるため。
あらわ
 コミュニケーションの中に 現 れる言語行動・非言語行動を正しく理解するため。
じょうきょう てきせつ
 ある場面や 状 況 で 適 切 な表現を使ったり、相手の言葉を正しく理解するため。
文化は言語と強い関係がある。
文化理解はコミュニケーションをスムーズにする。
うんよう
コミュニケーション能力＝言語運用 能力＋文化理解能力
4. 文化の学習で身につけるもの
ぶんせき ぶんせき
文化について自分で考えて分析 する能力（＝文化能力・文化分析 能力）を身につける。
ぶんせき
文化能力・文化分析 能力を身につけるためには…
かんさつ
① 観察 （observe）し、気づき、発見する
きょうみ ぎょうじ かんさつ
日本の文化に興味 を持ち、物や行事 や行動などの文化に関するものごとを観察 して、気づ
たいけん
きと発見の体験 をする。
くら
② 文化に関するものごとを比べる
くら ひかく
スリランカの文化と日本の文化を比べることを中心に、スリランカ文化の中の比較をした
ひかく
り、日本文化の中の比較をしたりして、違う点、同じ点、関係性を発見する。

3. きょうつう
③ 文化に関するものごとについて、どうして 共 通 しているのか、どうして違っているのかを
考える。
ひかく そうい きょうつう はいけい
スリランカの文化と日本文化を比較して分かった相違点、 共 通 点、関係性の背景 にある
げんいん
原因 を考えて、文化への理解を深める。
ちょうせい
④ 自分の今までの考えを 調 整 する。
きょうつう こていかんねん せんにゅうかん せいかく
両文化の 共 通 点や関係性を理解することを通して、固定観念や 先 入 観 を正確 な知識に変
きょうかん そうい そんちょう たいど
えて、 共 感 する（empathize）心を作り、相違点に対して 尊 重 する態度を身につける。
5. 文化の何を学びますか？
今までの文化で教えられてきたこと…
かどう のう れきし
 茶道・華道・能 ・歴史・地理…
ふくそう
 日本人は朝ごはんに何を食べるか、学生はどのような服装 で学校に行くか…
 ステレオタイプ（stereotype）を作ることが多い。
だんぺんてき
 断片的 （fragmentary）な文化の知識に終わることが多い。
文化の 3 P (アメリカの National Standards)
か ち
Perspectives (意味・価値・考え方)
Practices Products
さんぶつ
(社会・文化行動、交流のパターン) (目に見える文化の産物)
ようそ
＊ 文化を 3 つの要素（element）に分けて、理解しようとする考え方。

4. Products と Practices を通して、Perspectives を自分で理解できるようになることを目標
にする。
注意点！
さが
 教えるのではなく、気づかせる、探させる。
か ち
 その文化の意味・価値・考え（＝perspective）を自分で
理解できるようにする。
 ステレオタイプ（stereotype）を作らない。
 教師が教えたことは教師の Perspective でしかない。教
師が教えたことがステレオタイプになりやすい。
6. スリランカと日本の食事の仕方について私が考えたこと
スリランカ：手で食べる（Practice）⇔日本：はしで食べる（Practice）
6.1 店での食事
スリランカ：
 食べる前と食べた後に手を洗う。（Practices）
 どんな小さい店でも手を洗うための場所がある。
（Products）
えいせいかんねん あらわ
 衛生 観念 の高さの 現 れでは？（Perspectives）
こうおん た し つ えいせい
 高温 多湿なので、衛生 に注意しなければならない？（Perspectives）
日本：
 食事前におしぼりが出てくる。（Products）
 おしぼりで手をふく。一部の人は顔もふく。（Practices）
せいけつ
 手を清潔 にするためというよりも、“おもてなし”（service/hospitality）という意
味があるのではないか？（Perspectives）
え ど じだい やどや とうちゃく たびびと おけ
 おしぼりの始まり：江戸時代の宿屋で、 到 着 した旅人 のために桶（a bucket）に
て よご
手ぬぐい（a towel）が用意された。旅人はそれで旅の間に汚 れた手や足をふいた。
（Perspectives）

5. べんとう
6.2 お弁当の形
つつ たい
スリランカ：新聞とビニールで包 まれていて、広げると平らになる。
（Products）→手で食
べやすい。
べんとうばこ べんとうばこ
日本：弁当箱 に入っている。（Products）→弁当箱 を持って、はしで食べやすい。
6.3 食事中のマナー
スリランカ 日本
よご よご
 指を上の方まで汚してはいけない。  はしの先をあまり 汚 してはいけない。
（第 2 関節まで） （先から 1cm まで？3cm まで？）
 指をなめてはいけない。  はしをなめてはいけない。
しょっき しょっき
 指で食器 をたたいてはいけない。  はしで食器 をたたいてはいけない。
きょうつう
＊ 食事の方法は違うけれども、そのマナーには 共 通 点がある。
（Practices）→食事のマ
ちいき
ナーにはどの地域でも同じようなものがあるのではないか？（Perspectives）
7. 日本の文化について考えてみよう！
さんぶつ
グループに分かれて、日本の文化に関する Products（産物 ）あるいは Practice（行動）を取り
はいけい
上げて、その背景 にどんな Perspective（意味・価値・考え方）があるか、考えてください！
お がみ ふろしき えきべん そらべん めいし かいてん じ ど う はんばいき おとひめ
例）折り紙、風呂敷、駅弁 ・空 弁 、名刺、回 転 ずし、コンビニ、自動販売機、音 姫
参考文献
「学習のめやす」作成プロジェクト(2007)「高等学校の中国語と韓国朝鮮語学習のめやす（試行版）」国際文
化フォーラム.
坪山由美子・簗島史恵(2010)『国際交流基金日本語教授法シリーズ第 11 巻 日本事情・日本文化を教える』
ひつじ書房.
當作靖彦(2010)「TJF 2010 年外国語担当教員セミナー配布資料」.